デモンベイン&リリカルなのはSS
機神飛翔リリカルベインA's-Strikers
 〜ミッシングリンク〜(5)

by アンヅ♂

 九郎とアルが叫びと共にどす黒い色をしたフィールドを貫通する。貫通と同時に黒翼を広げて宙に停止する二人。二人の眼下に先程まで倒してきた奴の親玉っぽい怪物と、倒れ傷ついた大勢の魔導師たちが見える。

「九郎! あやつを倒せば、このフィールドはかき消える。妾が指し示す場所をクトゥグァで的確に打ち抜け!」

 アルが九郎の顔横に立ち、化け物のある一点を指さす。

「おう! イァ クトゥグァ!」

 九郎の叫びと共に右手に赤黒い装飾銃『クトゥグァ』が顕現させる。そして、アルが指さす場所を的確にロックすると、3発連続で引き金を引く。凄まじき破壊力をもった魔力弾が怪物に向かって襲いかかる。普通の魔力程度ならばどれだけ大きかろうと吸収してしまう防壁がそれを阻む。だが、

「てめぇみたいなのはとっくに戦闘経験済みなんでな。倒し方はわかってんだよ!」

 叫ぶと同時に、左手に銀色のリボルバーが現れ、

「貫け! イタクァ!」

 3発の銃弾を追うように6発の銃弾を撃ち尽くす九郎。銀色のリボルバーから放たれた銃弾はあり得ない軌道を描きながら先を行く魔弾を正確に追っていく。

「なに!」

 ガンツがあり得ないモノ見たように声を上げる。

「…………」

 傍らにいたフェイトは声も出せずに目を見張る。 

 九郎が放った銃弾は、一発は皆と同じように吸収されかき消える。しかし、2発目から様子が変わる。3発目は完全に防壁を貫き穴を開け、そこにから後続していた6発の銃弾が穴を正確に通過すると、三方に一気に広がり怪物を直撃してその身体を凍らせていく。

 怪物が凍り付いたために一時的ではあるが、防壁の再生が止まり穴が開いたままとなる。

「今だ、九郎!」

「おう! フングルイ ムグルウナフ クトゥグア フォマルハウト ンガア・グア ナフルタグン…………イァ クトゥグァ!」

 九郎の銃から炎の獣となった銃弾が怪物目掛けて襲いかかる。イタクァによって氷づけとなった今の怪物にこれを防ぎきる力はなかった。

 穴が開いて弱った部分から防壁を突き破り、炎の獣は氷付けの怪物を顔と胸事喰らいつくして貫通する。

 その勢いのまま、止まらずに背後の残ったフィールドすらかき消して大穴を開けていく。

 本体を失い制御を無くしたフィールドが消え、辺りが元に戻る。青空の平原に上半身を吹き飛ばされた怪物が倒れることなく立ちつくす。圧倒的であった魔力威圧は見る影もなく無くなっていた。


 フィールドが無くなった事で外に控えていた後続部隊員達が、倒れている先行隊の救助に駆けつける。先行してシグナムが傷ついたフェイトのもとに駆けつける。

「大丈夫だったか、テスタロッサ。」

「シグナム………… 」

 ヴィータがフェイトの傍らに座り込んでいたガンツに声を掛ける。ふたりは別の仕事で数度顔を合わせていた。

「オッサンもだいじょうぶだったか? 」

「おう、ヴィータ嬢ちゃんか。大丈夫っちゃぁ、大丈夫だな。ま、病院に行くのは間違いなかろうがな…………クハハ。」

 そういって、鮮血にそまった肩口を押さえてニカリと笑う。ヴィータは何も言わずに苦笑いを浮かべる。ガンツがこういった無理をするのは知っていたから何も言わない。

 だが、こうしてガンツが深く傷つくのは、決まって仲間や部下を守る時だ。ヴィータも仲間や大事な人が傷つくなら自分が傷ついた方が良いと思う方だから、ガンツの行動を攻めはしない。判っているから何も言わず笑う。

「そんだけほざけるなら大丈夫だな。だけど、救護班からの治療は受けろよ。これは絶対だからな。」

「ん。わかった、わかった。オレもまだまだ死ぬ気はない。やることがたんまり残ってるからな。」

 痛みに耐えるように苦笑しながらそう答えるガンツ。

「それはそうと………… 嬢ちゃん。」

「ん?」

「あいつは………… なんだ?」

 穏やかだった顔から目尻をきつくして、今だに地上に降りず上空に止まり、辺りを警戒している九郎を指さす。

「あぁ………… あいつな。ありゃぁ、【もぐりの魔導師】だ」

 ヴィータがどこか素っ気なく答える。一瞬怪訝な表情を浮かべるガンツ

「もぐり? なんでそんな奴がここに来てる。しかもこんな最前線に………… 」

「あぁ、なのはの病院に入院しててなそれで知り合った奴らしい。なのはの部屋にいるときにちょっと見舞いに来てたはやての通信聞いちまって、こっちに無理矢理来やがった。」

 そうあきれ顔で呟くヴィータ。

「こっちに来た? 嬢ちゃんが居る病院の有るミッドチルダから単体でここまで転送ができるレベルがまだ野放しで居たと言うんか………… おまえさん、このまま放っておくのか?」

 ガンツが九郎のレベルに危険を感じ、さらに表情を厳しくする。だが、

「放っておくつもりはねぇよ。ただ、この場であいつをどうこうしようとも思わね。」

 そうたいした問題でも無いかのような口調で答えるヴィータ。

「なぜだ? おまえさんほどももんが………… 」

 ヴィータの返答にガンツが疑問を抱く。ヴィータは一度九郎の方を見上げ、どこかやりきれないような表情を浮かべると、

「力のレベル自体は危険だとは思うぜ。オレもな………… けど、信じられるか? さっきこっち来た理由問いつめたらよ。『知り合った奴の友達が危ないって聞いて、それを聞かずふりで何もしないなんて後味悪いことできるか?』っていうんだぜ? お人好しにもほどがあるぜ、全く………… あ、知り合いって言うのは、「なのは」な。まったく類は友を呼ぶと言うが、あきれかえるぜ。」

 そういって、大きなため息をつく。ガンツは一瞬、鳩が豆鉄砲喰らった様な顔でぽかんとした後、

「ふ………… フハハハハハハハハハハハ! そうか、そうか! なぁるほど、高町の嬢ちゃんと気があった奴かぁ! なら、本当に大丈夫だな! しかもそんな理由でここまで来たなら、気ぃ張るだけ無駄だったな。ハァッ、ハハハハ! 」

 そういって、高笑いし始めるガンツ。ヴィータは「笑い事じゃねえ!」と一喝して呟きながらも顔はどこかほほえましく笑っていた。

「なんだぁ? あのオッサン…………」

「妙な殺気をはらんでこちらを睨んでおったと思ったら、いきなり笑い出しおったな………… 」

 九郎とアルが眼下で、赤い少女と話して笑っている親父を見つめながら呟く。多くの者が負傷しており、次々に搬送されていく。今残るのは隊長格4人と調査隊の10名のみ。後は九郎とアルだ。

「のう………… 九郎よ。」

「ん? なんだ、アル。」

「何故に今だ緊張を解かぬ。もはや、あやつは核を失い、動く補償はないのだぞ? もはや微弱な魔力反応もない。」

「あぁ………… オレがしっかりとクトゥグァで打ち抜いてやったからな。」

 そう言いながら、相変わらず警戒しながら周りを見つめる九郎。

「普通に考えれば、あいつが動くとは考えない。けど、オレの長年の感が『気を緩めるな』って言ってるんだよ、最大級にな。」

「な?!」

 アルが九郎の言葉に驚く。理由を聞こうとしたがその前にその直感が示す事柄が起きる。


 フェイトから状況を聴衆していたシグナムが異様な程に大きな魔力を感じて、悪寒が走る。

「うわぁぁぁぁっつ!」

 調査隊の方から悲鳴が上がる。

「バカな!」

 シグナムがそちらを見て、あり得ないと言うように叫ぶ。

 そこには、コアを失い動かなくなったはずのデッドコピーが地よりタコのような触手を出して、調査隊に襲いかかっていたのだ。

「シグナム!」

 横にいたフェイトが駆け出そうとするが、

「お前は無理だ! 身体もだが、バルディッシュのその損傷では戦いに為らん。下がれ!」

「――っ!」

 シグナムの制止に言葉詰まるフェイト。事実だけに反論もない。そうこうしていると、

「でやぁぁぁ! アトランティス………… ストライク!!」

 上空にいた九郎が飛びかかるようにシールドを呼出して、紫電混じりの跳び蹴りを怪物に食らわす。


 ギュワァァァァァァァァア!


 怪物は奇声を挙げて後方へと飛んでいく。九郎は倒れた隊士達と怪物の間に着地すると、

「お前ら! 今の内に逃げろ! おりゃぁぁぁ!」

 九郎は立ちつくす調査隊員にそう叫ぶと、両手に銀と黒の拳銃を召還して、シールドを召還したまま弾けるように怪物に向かっていく。武器を引き抜こうとした姿勢で一拍遅れたシグナムが立ち止まる。一度下唇をかみしめた後、姿勢を正し、

「負傷者を守って、ここを一時撤退する。」

 そう各員に向けて、号令する。

「シグナム!」

 横にいたフェイトが叫ぶが、握りしめてうちふるえるシグナムの右手を見て、言葉を留める。

 指揮官としての采配。今、彼女がなすべきは隊員の安全確保。今の戦力であのデッドコピーとまともに戦えるのは、ここに来る間に7体以上を一人で無に帰してきた九郎のみ。自分やヴィータも戦力に換算出来るが、未だ残る負傷者を守りながらと言う状況下では九郎が防いでいる間に残りの隊員を後退させて、兵員を補充し体制を整えるのは上策だ。だが、本来ならそう言った囮役は管理局員であるシグナムか、ヴィータが行うべき処だ。それを一民間人である九郎に任すのは………… すると、

『変に考えるな! 最善の、今やるべき事をやれ! こっちはオレのやるべき事をやってるだけだ。気にするこっちゃねぇ、急げ!』

 と念話が届く。

『すまん…………』

釈罪の言葉をもらすシグナム。

『あやまるこっちゃない。オレは助けた奴がまた傷つくのを見るのがイヤなだけさ。そっち頼むぜ。』

『判った。』

 九郎との会話を終え、シグナムは皆に指示を出す。

「動ける者は負傷者に手を貸し、早急に退避! しんがりは私とヴィータ。テスタロッサ。ガンツ三佐を頼めるか?」

「…………わかりました。」

 フェイトはシグナムを一時見つめて、了解するとガンツのもとへ

「三佐。私の肩に………… 」

「う、すまね。こんな傷でもなけりゃな………… 」

 フェイトに肩を貸して、ガンツはその場を後にしていく。途中ふり返り、二人で防戦する九郎に一礼をした。

 シグナム、ヴィータも他に敵がいないか、あたりを警戒しつつ、後退していく仲間に気を張りながら、自分たちが使った転移ゲートが有る場所へと移動していった。


 急いで戻るシグナム達。ゲートまで残り僅かな場所に差し掛かったところでエイミィからの緊急コールが入る。

「どうした? エイミィ。」

 しんがりで飛んでいたシグナムとヴィータが止まり、通信を開く。しかし、画面はノイズが走り音声のみだった。

『よかったぁ………… 無事みたいね。』

 開いた通信画面から、エイミィが安堵の声をあげる。

「? どうしたというのだ、エイミィ………… 映像が映らんぞ。」

 シグナムは声だけではあったが、エイミィの態度に何かしらの言いようのない不安感を覚える。

『ゴメン。緊急措置だから勘弁して。さっき、いきなりそっちの世界への通信とかにジャミングが入って、回線が全く繋がらなくなったのよ。そんでジャミングが入る前の記録とか情報でシグナムやフェイトちゃん達がいた辺りに今まで観測されていた物より、数倍有る未確認エネルギーが現れたって記録があったから急いで通信装置操作して、なんとか音声通信だけをつなげることができたの………… それでそっちに大きな被害とかはある? 状況が全く判らないのよ。』

 それを聞いて、即座にヴィータと顔を見合わせるシグナム。目があった瞬間、同じ事を考えた。

「すまんがエイミィ。私とヴィータはこれより現場に戻る。詳細はテスタロッサに聞け! 行くぞ、ヴィータ!」

「おう!」

『えぇ?! ちょっとぉ!』

 シグナムはエイミィの言葉を聞きもせず通信を着ると、元いた場所へと戻っていった。


 その頃、九郎は苦戦を強いられていた。

「まさか………… そう来るとはね。」

 傷つき、頭から血を流しながら方で息を切らせ眼前を睨み付ける九郎。九郎の前には黒い装束に身を包んだ4体の騎士が立ちふさがる。

「あやつらも我が断章たちに似た存在であったとはな………… しかもあの邪神めなんという者を残していきおったか!」

 アルは4体の騎士の背後の存在を憎らしげ睨み付けて呟く。4人の後で高笑いをあげている魔導師装束の男が叫ぶ。

「ハハハハハ! 待ったよ………… 待ちに待ったよ。この瞬間を! 我が神の予言に従い、我は我が類い希なる知識で造り上げた我が人格コピーと我が魔導書の複製を研究所の地下奥底に隠して、700年の後覚醒する様に封印した! 神は我に言った「700年後に己が欲する力をもった魔導師が現れる。それを取り込みさえすれば、この世に敵はなく、神に愛されるであろうと………… 」私はその神託を信じ、事を実行した。やはり、やはり、我が神は正しかった。おぉ、我が愛しき外宙神よ!ニャイアルラトホテップよ!」

 その男は半身を怪物と同化していた。そして、鬼気迫る表情で喜び、高笑いする。

「あんのバカたれ。 ナイアなんかの奸計に乗って、魂まで売りやがったか………… 」

「違うな。乗ったと言うよりは、崇め奉る者のようだ。魔力を扱う上に狂信者となれば、普通の魔術師よりやっかいな者はない。しかも………… ここのおかしな魔導技術で本と完全同化しておる。さしずめ、奴自体が統制プログラムなのであろう。先程暴れておった時のものは疑似プログラムであろうな。本体は疑似が何らかの攻撃で無くなって初めて目覚める仕組みであったか。一々疳に障る。」

 憎らしげにそう呟くアル。時は数分前に戻る。


 傷ついた魔導師達を逃がすために戦場に残った九郎とアル。始めはさほど苦労もしなかった。魔力は強いが単調な攻撃でしかなく九郎の敵ではなかったからだ。数分もせぬうちにあらから片づき始め、体のいい辺りでシグナム達の後を追うつもりだったのだが………… 

「もうこれくらいかな? そろそろ…………おうわ!」

 触手を粗方刻みきったあたりでいきなり背後から別の攻撃を受けた。

「な、なんだ?!」

 なんとかアルの防御陣が間に合って直撃は免れた九郎だったが、

「おい、九郎! あれを見よ!」

 アルが攻撃が来た方向を指さして、驚きの声を上げる。九郎がそちらを見て目を丸くする。其処にいたのは………… 
「騎士の姉ちゃんと、赤い嬢ちゃん………… 」

 其処には九郎の見知った顔がいた。先程まで共に戦っていたシグナムとヴィータが居たのだ。しかし、その表情はあまりに無機質で無感情。服装も青黒い甲冑に二人とも身を包んでいた。驚いている二人にまた背後から、手足や首に拘束具が絡み付く。

「なに!」

「今度はなんじゃ!」

 動きを封じられた二人がふり返る。其処にも見知った顔と別の存在が居た。

「今度はシャマルちゃんかよ………… 」

 拘束具を振り解こうともがく九郎が悔しげに呟く。自分を縛り上げていたのは、はやとやなのはと共に居たはずのシャマル。表情はやはり上に居る二人と同じように無表情。格好は黒衣の僧侶服。その横には大きな甲冑具と鉄仮面をかぶった大男がシャマルと同じように拘束具の端を掴んでいた。

「わがあるじをきずつけるもの………… 」

「わがあるじにてきたいせしもの………… 」

「われらしゅごきしのなにおいて………… 」

「「「「まっさつする。」」」」

 感情のない声が響き渡り、九郎に向けて攻撃が4人同時に加えられた。

「ぼ、防御結界!」

 アルがとっさに防御をあったものの四方向からの大きな魔力攻撃と魔力で強化された直接攻撃は防ぎようがなかった。

「「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」」

 その後も知り合いと同じ顔で有るが故に、攻撃にわずかな躊躇が入る九郎。闘いは防戦一方の展開と為っていた。


「いいかげんになんとかせぬと、こちらがヤバイぞ、九郎! 攻撃を受けすぎた。」

 九郎の右肩で怒鳴りつけるアル。九郎も目は真剣ながら、苦笑いをうかべ、

「性分なんかな………… 知り合いだと、どうも躊躇しちまう。それが偽モンだとはわかってるのによ。悪い癖、戻っちまったか?」

 そう呟く九郎。

「ならば、なんとかせい! ぶん殴りるなり、捕縛陣で動作不能にするなりで4人を遠ざけた後、あの本体を今の内に叩かねば取り返しが付かんことになるぞ! 現に先程にもどこから来た一体が奴と同化した。妾の計算が間違いないのなら、あと2体吸収してしまえば、デモンベインを喚ばねば太刀打ちもできなくなる。」

「あぁ…………わかってるよ。けど、デモンベインも今だ五体満足じゃないんだろ?」

「気づいて居ったか、今だ先回の戦いで邪神から受けたシャンタクの傷癒えておらぬ。他の武装は完治しておるが、飛行ができぬ状態でこの状況下に召還しても戦闘においては不利でしかない。それと獅子の心臓が7割程度までしか力が出ん。神剣を使ってそうたっておらんのでな………… あの剣はどこまでいっても諸刃よな。」

 そう告げるアル。なぜにここまであのアルがデモンベインを喚ばずに戦いを続けてきたのか理由を口外する。九郎はこの世界に来た時にアルの口から聞いていた。何故に喚ばないのかと………… その理由を聞いた時になるべく喚ばず。この事件を解決すると決めたのだ。むろん、この世界にいる一般的なレベル程度であればデモンベインを必要としないが、この場にいる敵相手に空を飛べず、威力も半減した状態で完膚無きまでに倒しきることは難しく誰かの助けが必要だった。だが、それとは別にアルはこうも思っていた。

「邪神や鬼械神が居ない以上、強大なるデモンベインの力をこの世界の連中に知られる訳にはいかぬ。」

 デモンベインの力は強大だ。邪悪を断つために力無き者が積年の思いで創りだした機械仕掛けの模造神。人が創り出した最強なる鋼の刃。その力を邪神や人外為る最悪を狩りるため以外で使用してはならない。まして、この世界はデモンベインが生まれた世界以上に魔術理論と機械科学が融合している世界。【デモンベイン】の力を見て興味を持たぬ訳がない。

「デモンベインの【力】を欲する者は必ず居るはずだからな。全てがなのはやはやての様な心根であれば、このような心配もせずに使用出来るものを………… 」

 無い物ねだりをしてもしょうがないがともらすアル。その間にも4人の騎士は必要以上の九郎達に食らいついてくる。黒ヴィータの大槌が九郎を背後から襲う。

「ふぬぅ!」

 反射的になんとか九郎が筋力強化で受け止めたが、その横から黒シグナムが抜刀体制で突っ込んでくる。

「させ………… ぬが!」

 シグナムの攻撃に気が付いたアルが防壁を展開しようとしたが、黒シャマルの一部転移魔法陣から出てきた右手に捕まり、防御を阻まれる。小さくなったアルにシャマルの腕から即座に抜け出す力はない。黒ヴィータの攻撃を防いでいる九郎にせまり来る黒シグナムの攻撃をも受ける余裕も無く、回避も不可能。互いに迫り来る攻撃から自らを守る術はなく絶体絶命となった九郎とアルであったが、

「紫電………… 一閃!」

 叫び共に白い光が黒シグナムにぶち当たる。

「ラケーテンハンマー!」

甲高い叫びと共に九郎が支えていた大槌が砕け散り、もがいていたアルを何かがかっさらうように飛んでくる。

「よ、無事だったみてぇだな。」

 その声に薄めになっていた九郎が目を向ける。砕けた大槌の陰から、アルをもった赤い装束に身をまとって笑いかけるヴィータが浮かんでいた。

 九郎達が居なくなり、通信も殆どこなくなったはやて達が待つ病室。

「あぁ! もう、今どないなってるんや?! 本部からも経過通信も承認もこぉせんし、現地のシグナム達とも通信できせん! うちらどないすればえぇんや!」

「はやてちゃん………… 落ち着いて。」

 通信の待機待ち状態で気が気でないはやてとそれをなんとか落ち着けようとするシャマル。車いすに乗って端末の前で祈るように待ち続けるなのは。すると、通信画面が開く。だが、その画面は砂嵐のみ。不思議そうに目を細めるなのは。通信画面はそのまま砂嵐を流し続けていたが、

『き………… こえる………… か、な…………』

 と途切れ途切れの声が聞こえ始める。

「だ、誰? シグナムさん? ヴィータちゃん?」

 なのはが通信に問いかける。なのはの様子に気が付いたはやてとシャマルが駆け寄る。

「誰? ヴィータか? それともエイミィさんか?」

 はやても砂嵐で画面が映らない通信パネルに問いかける。相変わらず、途切れ途切れの通信が入るだけだったが、しばらくして、ぼんやりとではあるが、アルによく似た少年の姿が映り始める。

『聞こえますか? この世界で大十字九郎に関わりし魔導師達。』

 凛としたハッキリとした口調でそう問いかけてきた。


「無事みてぇようだな、大十字九郎。」

 持っていたアルを九郎に投げ渡すヴィータ。

「お…………お前。」

 アルを受け取って、九郎が驚いたように見つめる。その後に

「どうやら、最悪の状態は免れたようだな。」

 剣をたずさえたシグナムが現れる。

「汝ら、何しにきた?!」

 すこしきつい口調でアルが問いかける。

「何しも何も、助けに来たに決まってるだろが、ばぁか!」

 ヴィータが吐き捨てるように返す。なにか言いたげなアルと呆けている九郎の横にシグナムが移動して、

「お前らの言い分もわかるが、ちょっとイヤな予感がしたのでな………… 戻ってきた。だが、それも正解であった。このようなことになっておろうとはな。」

 そういって、自分たちの眼下に居る者達を睨み付ける。

「まさか、はやてに合う以前の俺たちのコピーまで居るとは思わなかったぜ!」

 そう叫んで、愛機「グラーフアイゼン」を構えるヴィータ。シグナムも愛機「レバンティン」を正面に構える。

「おい、まさか………… お前ら戦う気か?」

「そうだ。」

 九郎の問いに、シグナムが短く答える。

「バカな! お前達もわかろう! あの後いる力は………… 」

 アルが二人にそういった。しかし、

「わかっている。我らが加わった程度でどうなる敵ではないことは………… 」

「わってるよ。本当はお前達助けて、そのままこの場を離脱するつもりだったんだけどな…………」

 シグナムとヴィータを互いの答えた後、一拍おいて、


「「あいつらをそのままにして置けるものか!」」


 そう叫んで、同じ容姿をした無感情の騎士達に己が武器を向ける。明らかな怒りに感情だった。アルが何か言いかけようとしたが、九郎がそれを止める。

「止めとけよ、アル………… あいつの行動は間違いじゃない。あれはオレたちと同じ『正しい怒り』から出る行動なんだからよ。」

 九郎はそう言って、二丁拳銃を構えて一歩前に出る。九郎の言葉にアルがハッとする。
 『正しき怒り』
 それは九郎の行動原理。「後味悪い」「放っておけない」などのそんなちいさな感情から出る正しき行為。二人の行動は正にそうだ。

 アルは考える。どういう経緯があったかは知りはしない。だが、あの二人も自分と同じように有る出会いから感情が芽生えた「魂」を持ちながら、「個」を持ち得なかった異質の存在。それが「個」を持つ以前の自分。しかも「悪」の手先となった自分をみて、何もせずに放っておくことなどできるであろうか。否、できない。出来ようはずがない。

 ならば、その行為は正しき怒りから出た正しき行為。ならば、止めることは無礼。

「やることは決まってんだ! 行くぞ、アル!」

「おう!」

 悪に染められた無情の騎士4人と、「正しき怒り」を持って剣を執る戦士4人が相まみえる。

「うぉぉぉぉぉっ!」

 九郎が二丁拳銃で攻撃を加える。受けるは全身甲冑に身を包んだ「楯の騎士《ザフィーラ》」。無言で銃弾の雨を突き進み九郎に接近する。

「くそ!」

 近づいた間合いから豪腕が九郎にせまる。かろうじて交わすものの、直ぐに回し蹴りがせまる。九郎は二丁拳銃のグリップで受けるとそのまま力任せに蹴り足を押し戻す。

「どりやぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 20mほど離れた間合いで二人はにらみ合う。

「バカみてぇに頑丈だなあいつ。イタクァの銃弾受けても向かって来やがる。」

 九郎が憎らしげに悪態をつく。

「仕方なかろう。さきほど奴らから聞いた。あの者は奴らの中で守りを主とする戦士だと。ならば、あの頑強ぶりはその派生だ。攻撃には種類はないがあれを破るのは………… 」

「どのみち、時間はかけてられねぇ。オレが連撃加えてる間になんとか糸口探せ、アル!」

「わかった!」

 九郎は銃を異形の一対剣に持ち替えて、黒甲冑の戦士に向かっていく。


 一方、シグナムとヴィータも苦戦していた。

「このやろう!」

 ヴィータが得意の鉄槌を振り回すが、それを難なく交わす黒ヴィータ。一度間合いを開けるとヴィータを何も感情のない目で見据えると、

「…………アイゼン。」

「Raketenform」

 黒ヴィータの言葉に手にするブラックグラーフアイゼンが応え、その形態を一点集中型突撃攻撃を行うための強襲形態【ラケーテンフォルム】に変え、攻撃準備のロケット噴射を始め回転し始める。

「やべぇ! アイゼン!」

「Panzerhindernis」

 ヴィータはとっさに守りを固める。自分の攻撃である以上威力は知っている。攻撃はなんとか貫通は免れたもののヴィータは魔力を大量に消費してしまった。


 その横ではシグナムが同じように自分を相手していた。

「はぁぁぁぁ!」

 剣と剣による戦闘。同じ技量の者同士。一歩も譲らない。片方がシュランゲフォルム《鞭状連結刃》で攻撃すれば、同じく同形態で応戦し、間合いが遠い場合となれば、ボーゲンフォルム《大弓》で互いに攻撃し合うといった鏡のような戦いを繰り返す消耗戦。故にシグナムは近接戦通常形態であるシュベルトフォルム《片刃剣》での戦闘を続けていた。近接戦等のせめぎ合いとも為ればいずれ勝機が見えてくると判断したからであるが、

「やはり、いささか我らが不利か………… 」

 そう呟きながら、黒シグナムとつばぜり合い、間合いを大きく開ける。

「シグナム!」

 後方から声が聞こえた。チラリとふり返ると少々息を切らしたヴィータが背を向けて立っていた。

「そっち………… どうよ?」

「見てのとおりだ。さして、貴様と変わらん。」

「同じ相手なら、なんとかなるかと思ったんだがな。」

「むこうも私達だ。手の内はわかっておろう………… それに、あいつらには」

そういって、チラリと有る方向を見つめる。

「魔力補給源と、医療班がいるからな………… 」

忌々しそうにそう呟くヴィータ。シグナムの視線の先には黒き「湖の騎士《シャマル》」がいた。補助と治療を主体とする騎士。先程から黒きヴォルケンリッターが倒れるたびに傷の治療や身体の再生をし続けている。その後には奴らの主でもある黒き怪物が控えている。一方、こちらは闘いが続くたびに傷や疲労は蓄積していく。以前のシグナム達ならさほど苦境でも無かったのだが………… 

「さて、どうしたモノか………… 」

 シグナムが思案する。やられるつもりはないが、このままではじり貧だ。九郎の方も何度か黒ザフィーラを機能停止まで追い込んでいるのだが、トドメを指す際に雑魚がそれを邪魔しては再生されては一からやり直しを繰り返している。

「あの雑魚が意外にここってときに邪魔だよな。一体ならなんでもねぇけど、数体集まるとあいつの得体の知れないフィールドで魔法が消えちまう………… AMFの劣化版か? 対したことはねぇのに面倒だ。」

 ヴィータが憎らしげに呟く。そう4騎士の他にいる劣化コピーが創りだした魔獣達が得体の知れないフィールド発生させていたのだ。一体ならば、シグナムやヴィータほどのクラスなら毛ほどでも無いのだが、数体集まると魔法攻撃が通用しなくなってしまうやっかいな存在だ。打撃と剣撃の使い手でもある二人だからこそ、何とかなっていたが通常の魔導師では対処の難しい部類の相手だ。

「なんにせよ、今のままでは埒が開かん。私かお前のどちらかが、奴らの攻撃をかわして、あのシャマルを撃破しないと………… 」

「だな。一対一じゃ埒開かないからな。」

 そう呟くと、ヴィータはアイゼンに『ラケーテンフォルム』に変わるように指示を出し、正眼に握りしめる。

「そうだな。ではここは二人で一気にあのシャマルに向かって飛び込み………… 」

 シグナムが一度レバンティンを鞘に戻して、居合いの構えをとる。

「奴らを突き抜けた方が、一撃で粉砕する! 行くぞ!」

「うむ!」

 二人が魔力を一気に猛り、その場からはじけ飛ぶように自分たちのコピーが待ちかまえる中を黒シャマルに向かっていった。


 二人の特攻に真正面から始めに向かってきたのは黒シグナム。持っていた黒いレバンティンをシュランゲフォルム《連結刃》に変えて攻撃を仕掛ける。それを迎え撃ったのは、

「邪魔だぁぁぁぁ!」

一気に速度を上げてきたヴィータ。連結刃を愛機グラーフアイゼンを絡め取るように引っかけると力任せにそれを引っ張り上げる。一瞬、体制が崩れる黒シグナム。

「もらった!」

 ヴィータの陰から、シグナムが現れ体制を崩した黒シグナムに唐竹から一閃。両断された黒シグナムが機能を停止して、粒子に飛散する。だが、闘いはそのままでは終わらない。

 飛散した粒子が近くにいた黒ヴィータに吸収され、持っていた黒いグラーフアイゼンが鉄槌から大きなトマホークに変わる。無表情だった黒ヴィータが鬼形相に変わり向かってくる。

「やべぇ! アイゼン!」

「Jawohr Gigantform  Panzerhindernis!」

 アイゼンがギガントフォルムに形を変えると同時に防壁を張る。防御には間に合ったが、二人分の魔力を持ち得た黒ヴィータの力が勝る。

『GAaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!』

 完全な暴走状態の力がそのままぶち当たる。

「づぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 ヴィータが防壁ごと吹き飛ばされる。

「ヴィータ! このぉぉぉぉぉぉっ!」

 飛ばされたヴィータを見て、シグナムが鴇色の魔力炎を猛らせて暴走黒ヴィータに斬りかかる。黒ヴィータは反射的にトマホークの杖でシグナムのレバンティンの刃を受ける。

 しかし、シグナムもそのまま、力で押し切るような玉ではない。直ぐに間合いを取って、連続で斬りかかる。黒ヴィータはシグナムの攻撃をかわすだけで攻撃には転じ得ない。時折トマホークを振るうだけ。このことによりシグナム側に勝機が生まれる。力の大きさだけならばシグナムに勝ち目はない。だが、黒ヴィータは黒シグナムの魔力を吸収したと同時に、変形機構を持たない大型のトマホークに得物を変えてしまった。超重量武器は破壊力はあるが、どうしても大降りの攻撃しかできない。元々のグラーフアイゼンの形態ならば、相手の攻撃合わせて形態を変えることができシグナムとも渡り合えただろうが…………

 シグナムも直ぐにそれが解り攻撃手法を変える。連撃で相手に小さな小さな傷を与えていく。なぜなら、倒す必要はないからだ。相手の気が自分に向いている事が重要。

 シグナムの表面での行動に、その心中を気付かずに攻撃を喰らいながらシグナムを追いつめようとする黒ヴィータ。シグナムの背が地表のあった建物の瓦礫に近づく。黒ヴィータがひげた笑みを浮かべ巨大なトマホークを大きく振りかざす。

「ふ………… 追いつめたつもりか? やはり暴走してるお前は怒りに身も任せたヴィータと同じ。至極扱いやすい。」

 そう呟いて、してやったりと言うような笑みを浮かべるシグナム。一瞬、黒ヴィータの動きが止まり反射的に背後にふり返った。その視線の先には吹き飛ばしたはずのヴィータが黒シャマルの背後からラケーテンフォルムとなったアイゼンを構えてせまっている姿が見える。

「今更、遅い! 紫炎、一閃!」

 二人の策で虚をつかれた黒ヴィータに最後の一撃を入れようとしたシグナムだったが、この後、予想だにしなかった事が起こる。


 九郎は頑強な守護騎士と対峙していた。だが、どれだけ頑強であろうが一対一の勝負で九郎が不利に陥ることはない。始めはペースがつかめなかったモノのゴリゴリの真剣勝負を数分も繰り返せば、九郎のペース。劣勢に近い状態であったが、もう相手の防具はボロボロになり魔力も残していなかった。

「へ! オレを相手にするには力不足だったな!」

「同じようにボロボロになって奴に言われたくは無い台詞だな…………」

 結構ボロボロになって息巻く九郎に、頭の上のアルが突っ込む。

「うるっせ! とっととこいつ片づけて後のデカ物を消しに行くぞ! 幸い、あいつは飛べねえみたいだ。ド・マリニーで一時的に時止めてる間にデモンベイン喚んで、一発で昇華だ。」

「おう。」

 傷つき、もはや抗う術もなくなった守護騎士に引導を渡しに行こうとした瞬間、周りの空気が異質に変わる。九郎とアルの背に戦慄が走る。何が来るかは判らなかったしかし、今この場から早急に離脱しないとヤバイと警鐘を鳴らす。

「ニトクリスの………… 」

 虚影つくりその場から離脱しようとした瞬間、九郎の身体を幾重モノ光の刃が貫いた。


 ヴィータは黒シャマルの背後に迫っていた。手にはラケーテンフォルムとなったアイゼンを握りしめる。

 こういった場合、普段ならばギガントシュラークで一撃粉砕といくところだが、相手がシャマルのコピーと為ればフィールド魔法で防がれるか、転移されてしまう可能性が高い。ならば、一撃でコアを破壊しうる魔力を一点に集めると必用がある。なれば、ラケーテンフォルムで付き貫きコアを粉砕するのが上策。

 いささか気分は悪いがそんなことは考えていられない。自分たちが本当にしとめなくては為らないのはその奥に居る奴だ。そのためにはここでやられる訳にはいかない。このやっかいな奴らをやっつけて、九郎と共にこの場を離脱して万全な体制であのデカ物を消滅させなくてはならないから………… 

 今のシャマルのコピーは自らのデバイスである【クラールヴィント】を起動させていない。ならば、チャンス今だ。一気に詰め寄り、躊躇無くその背後からコアの部分に魔力強化したグラーフアイゼンをたたき込んだ。黒シャマルは一瞬、気が付いてこちらをふり返ろうとしたが、それも出来ぬままのけぞるように弓なりとなる。魔力の光の中と爆炎が二人を包む。

 ヴィータはやったと確信した。爆炎と光が止んでグラーフアイゼンが突き刺さった人影が見え始める。が、それを見た瞬間、ヴィータの瞳孔が開き、その表情は固まったようにこわばって動きを止めた。突き刺さった人影がゆっくりとふり返る。

「ひどい………… よ。ヴィータちゃん………… 」

 そこにいたのは、背中を真っ赤に緋色に染めて、口から血を流しヴァリアブルジャケットに身を包んだなのはだった。


 おれは動けなかった。目の前にある現実が理解出来なかった。だって、さっきこの攻撃が決まるその瞬間まで其処にいたのはシャマルのコピー野郎だった…………

 だけど、視界が鮮明になりその姿が見えたのはオレのよく知る奴。なのはだった………… 

 そんな訳がない。だって、あいつは今も病院にいるはずだ。今ここにいる奴が本物じゃないのは判りきってるじゃないか。だけど、おれの身体は動けない。数ヶ月前の事がおれの記憶に蘇る。

 ほんの些細な事だった。いつもどおりに作戦こなして、いつもどおりに帰るはずだった………… 出発前にいつも以上にため息ついてたあいつをおれを気遣いながら、それでもいつもの変わらずに笑ってたあいつのそばで任務をこなしていた。

 ほんとに些細なことだった。未確認を全機粉砕して帰ろうとした時、どこかに隠れていていきなり現れた未確認がなのはを襲った。いつものあいつなら、交わすことが出来た攻撃だった。けど、朝から変にため息付いてた時点でおれが異変に気がつくべきだった。一瞬の判断ミス。それがなのはを集中治療室に入れちまうような大けがの元になっちまった。

 おれのミスだ。気付いていながら見落としてしまった些細なミス。けど、後悔しきれない小さく大きなミス。


 ヴィータが思考を巡らせたのはほんの1,2秒な話だ。しかし、闘いの中では些細な動作は命取りとなる。背中を血染めにしたなのはがヴィータが動きを止めたのを確認すると下世話な笑みを浮かべて、姿を黒シャマルに変える。シャマルは補助魔法の他に変化魔法も得意としていた。とっさに今この場でヴィータ相手に一番心に衝撃を受ける相手の姿に形を変える。背中を尖き、コアを破壊された黒シャマルはなにか意味ありげに笑みを浮かべると崩れ去った。そして、崩れ去る黒シャマルを見つめたまま動かないヴィータを幾重もの光の糸が四方からその身体を拘束していった。


「ヴィータ!」

 私は黒い私を吸収した黒ヴィータの大斧を受けながら叫ぶ。視線の先で一瞬動きを止めたヴィータが四方から飛んできた光の糸に拘束されるのを目撃する。しかもあの糸は見覚えがある。必死に斧の攻撃を防ぐ私だったが、言いようのない悪寒が走り、斧を無理矢理はじき飛ばして一瞬にして20mほど後退する。その瞬間、上方から幾重もの光の矢が私がいた場所に着弾する。私は上方を睨み付ける。そこには悪寒の正体が居た。いや、出現して居たのだ。

「いったいどれだけ我らの誇りを汚せば気が済むか!」

 正眼に構えて、己の怒りを猛る。上方には私とヴィータの偽物が数体浮かんでいた。しかもその背後の召還陣からまだ出てくる。化け物と同化した魔導師の抜け殻が鬼気した笑いをあげながら天に叫ぶ。

「ふはははは! どうだ、どうだ。所詮ヴォルケンリッターといえど我が魔導書のプログラムの一部に過ぎん。強大なる力を取り込み自らその統制となった私にそれを「兵」としてでなく、「兵隊」にするのは造作もないことだよ。ハハハハハ!」

 狂気に酔った顔で何時の時代の「《夜天の書》の主」かは覚え知らぬ者があざけ笑う。ヴィータは偽シャマル達が放った糸に拘束され身動きが取れない。大十字も偽ザフィーラ達に【戒めの頸城】で身体を貫かれいる。あれはヴィータを縛る偽シャマルのクラールヴィントの糸よりやっかいだ。それもあの数ではちとやそっとじゃ破れない。

 私は今一度、我がレバンティンを握り治す。

「たとえ、どれだけの私達のコピーを指す向けようと…………騎士の誇り無き力で我らが折れると想うな! その身で知るがよい。我が騎士の誇りにかけて貴様ら全てを破壊する!」

 私はそう高らかと叫ぶと、上空で待ちかまえる私とヴィータのコピー達に向かって斬りかかっていった。


 オレの目の前で、圧倒的な数による力の暴挙が繰り返される。

「くそぉぉぉぉ!」

 オレはオレを縛るこのくそったれな術をコンマ数秒で解呪していく。しかし、解呪したその瞬間に見妙な変化を持たした同型の術でオレの拘束を補っていく黒甲冑の騎士。

「なんという奴らだ! 術を解けば直ぐにナノ単位で構成を変えて我らを縛る! これでは全て解き終えるのに時間がかかりすぎる。」

 一部だけ拘束されたアルがジタバタしながら悪態を付く。その間にもオレの目の前では光の糸に拘束され、嬲られる赤服の嬢ちゃんと、一人奮闘する剣士の姉ちゃんが多勢相手に力を削られながらじり貧となっていた。オレはここに来る直前に交わしたなのは達との約束を思い出す。

【絶対にみんなで帰ってくるからよ】

 オレはそう言った。それを信じて笑顔で見送ってくれた少女の顔を思い出す。

「男が一端、口にしたんだ…………」

 オレはイタクァを持つ腕に力を込める。

「どんなことが有ろうと、あきらめねえし! それを違える様な後味悪いことがでっきかよぉ!」

 数種ある左半身の捕縛を一気に解呪する。

「調子こいてんじゃねぇ! イァ、イタクァ!」

 赤い嬢ちゃんに群がる偽物に向けて、一気にマズルフラッシュ。魔弾は数体を討ち滅ぼしてヴィータを縛る光の糸を断ち切る。しかしその先が続かなかった。


「ぐわっ!」

 九郎の左手首に激痛が走る。一体の黒シグナムのレバンティンが突き刺さっていた。しかし九郎はそれでも左手に持つイタクァを離しはしなかった。

「ぐぅぅぅぅ!」

 痛みにこらえながら突き刺さったまま、魔術を使ってイタクァのシリンダーをリロードすると次弾の標的を睨みつける。だが、それまでだった。ザフィーラが小さく呟くと九郎を突き刺したいくつかの【鋼の軛】が変化して、九郎とアルを氷結の結晶体の中に閉じこめた。

 オレは『なのは』に変化した偽シャマルの策にはまっちまった。オレが一番心の中で悔いていることだから………… それがたとえ偽モンだとわかっていてもこんな事になっちまう。オレは強くなったのか弱くなったのかわからなくなっちまう。自分の事を叱咤しながら、未だに切れない偽シャマル達の拘束にもがきながら、オレの偽物達の攻撃を食らう。

 くそ! くそ! こんなんじゃまたなのはみたいにオレが護らなきゃいけないモノを護れないじゃないか! だからこの2ヶ月血反吐吐くほどの訓練と実戦繰り返してきたんじゃないのか?! もうあんな思いをしないために………… 想いと裏腹にオレの体はあの時の無力さを思い出しているのか、力がうまく出ない………… くそ、くそ、くそ! 自分に対する悪態は出て、力が出ないんじゃ情けないじゃないか! そんなこと考えてたら、いきなりオレの拘束が外れる。と同時に念話で

「馬鹿野郎! 変な事考えて一人で変なヒートアップしてんじゃねぇ! こんな状況下でちんたら難しいこと考えるな! 思う通りに進め!」

 あの野郎からの罵声が入ってくる。少し残っていたバインドで動けず落ちていくときにあいつを睨む。けど、あいつはさっきのオレよりひどい状態で戦っていた。偽ザフィーラの【鋼の軛】に体のほとんど閉じこめられながらも、左手だけを無理矢理自由にしてオレを助けていた。瀕死の体とは別に奴の目はあきらめとかそんな負の感情は微塵もなかった。落ちていくオレはその後も左手を偽モンの剣に貫かれながらも戦意をいっそう燃え上がらせながら、氷結捕縛結界に閉じこめられた男の姿を見つめる。

 オレは今まで何をしていた? 後悔して反省するのはいいんだ。悔やみを叫んだっていいさ。けど、それは今することじゃない。あんな思いは嫌だから必死になった。同じ思いをしたくないから頑張ったんじゃなかったのか? あいつは言った「後味悪い思いをしたくない。だから、ここに来た」と………… 

 それってオレと根本は似てんじゃないのか? あいつはその思いを胸にしてどうした? そうだ。どんな状況であっても諦めず、前に進みその思いを現実にしてきてる。今もそうだ。氷結に閉じこめられてもあいつの目は諦めていない。なら、オレはどうだ? さっきすこし諦めていなかったか? 偽シャマルの変化に取り乱し捕まって、たこ殴りにされてなんとかしなきゃと想いながら心のどこかであきらめにも似た妥協をしていなかったか? そうだ、気づかないうちにしていたんだ。だから、体が動かなかった。魔力ってのは心の力だ。それが出ないのは心が弱ってる証拠だ。それに悔しくないのか、オレ! あんな自称もぐりに助けられてばかりで、力も心も負けっ放しでいいのか? いや、良くねぇ!!

「アイゼン!」

「Jawohr 」

 残ったバインドをぶち千切り宙で急停止して、待ちかまえる偽者達を睨み付ける。

「オレは鉄槌の騎士ヴィータだ! 【夜天の書】の主を護るヴォルケンリッターが一柱! てめらみてぇなパチもんがいくら来ようが物の数じゃねぇんだよ!」

 オレは気合いを入れるようにそうタンカを切ると

「アイゼン! ラケーテンフォーム!!」

「Jawohr Raketenform 」

 アイゼンがオレの声に応え変化すると、オレはその怒りの感情を力に変えて魔力を増幅させていく。猛気持ちをアイゼンに込め、一気に偽物軍団目がけて特攻していく。

「どきやがれ、劣化コピーども!」

 オレはラケーテンハンマーでコピーどもを粉砕しながら、劣勢なシグナムの下に向かう。あの男に向かう方が早かったが【あの男】なら自分でなんとかする。そう思ったから、オレはシグナムの下に向かう。

「シグナム!」

 シグナムを強襲する偽シグナム達を粉砕して、息を切らしていたシグナムと背中合わせになる。

「大丈夫か!」

 オレ達を牽制する偽物たちが離れながらオレ達を取り囲むように回り始める。

「大丈夫だ………… おまえは?」

 荒かった息を整えながら刃以外はボロボロになったレバンティンを構えるシグナム。レバンティンもシグナムの闘志に答えるように宝玉を光らせる。ちょっとでも諦めかけてたオレとは違う。伊達にオレ達ヴォルケンリッターの将はやっていない。

「心配ねぇよ。こんなとこで終わる気はさらさらねぇんだからよ。」

 そういってアイゼンを構えるオレ。シグナムはフッとシニカルに笑うと、

「フッ………… その意気なら問題ないな。」

「あぁ、行くぜ。シグナム!」

「うむ………… ベルカの真なる騎士の力、奴らに見せてやろう。」

 オレ達は目で合図をとると、互いを背にして牽制していた偽物達に向かっていった。




続く



戻る       次話