デモンベイン&リリカルなのはSS
機神飛翔リリカルベインA's-Strikers
〜ミッシングリンク〜 改訂版
by アンヅ♂
嵐が吹きまく大海原の上で、黄金に光る巨神が、上段にかまえた光の大剣を降り下ろす。
「てめぇが居心地よく居られる世界なんて、この世にはねぇんだよ!」
「この世界から去れ、邪神!」
【【汝、無垢なる翼! デモンベイン!!】】
【くそぉ! ここまで来て! またしても、またしても………… 覚えていろ! 新しき旧神!】
pisode-0 Phase-1
巨神が降り下ろした剣が、天を覆い尽くすほどの巨大なる陰の顔面を両断する。閃光が辺りを包み、陰が消え、海原に日光が差し始める。その澄み渡った青い空に、緑色に光る鬣をたなびかせた巨神が浮かぶ。巨神の首が不自然に動き、首元から二人の男女が現れる。
「これで、この世界からあいつを追い出せたな。」
「あぁ、これでこの世界は邪神の奸計より離れた。これから先はこの世界の住人たちの未来だ。」
清廉な青年と凛々しき美少女が互いを支え合うように立ちながら、空を見つめる。
「よし、次の………… う、痛!」
青年が不意に膝をついて、胸を押さえる。
「どうした九郎?! おい!」
少女が屈んで青年の顔を覗き込む。
「な、なんでもねぇ。心配…………すんな。」
苦笑を浮かべながらそう答える青年。
「馬鹿を申すな、その様な顔色で大丈夫な訳が無かろう! む?! この魔力量………… デモンベイン、どこか無人島に!」
少女の言葉に応えるように巨神がうなり、動き出す。
「ば、か。なに…………やってんだ。奴を追っ払っただけで、倒した………… 」
「バカを申すな! 連戦に継ぐ連戦でいくら丈夫な汝であろうと限界が来たのだ。少し休め! 幸いにもこの世界にもはや、妾達が本気で手を下さなければ成らぬほどの強大な悪はいない。」
「だけど………… 」
なにか言い足そうな青年に向かい、少女が今にも泣きそうな表情で
「頼む、今は休め。戦いで傷つきながら共に連戦してきたのだ。傷つき疲れた姿は妾も同じだ。しかし、今のままではいずれ、汝が先に倒れてしまうやも知れん。頼む………… 奴らに負ける事より、妾は汝がいなくなる事の方がよほど………… 」
そう答える。青年は少女を見つめ表情を穏やかに変えると、少女の頭を優しくなでる。
「わかったよ………… アル。お前の言うとおりすこし休もう。次の奴との戦いのため………… そして、お前が心配なくいられるようにな。」
そういって、青年は少女を優しく抱きしめた。
彼らがこの世界に来て、数ヶ月の時が流れた。
「とりあえず、なんとか魔力は戻ってきたな。」
アーカムの頃の服装に身を包んだ九郎の横に、同じようなYシャツを上に着込み、下はキュロット、長い髪はいつもの赤いリボンで大きな三つ編み状にまとめたアルが歩く。
「あぁ………… こうやって街に出歩いて買い物ができるほどにはな。」
互いに食料品を買い込んだ袋をもって街の路地を歩く九郎とアル。アルが足取りを留め、有る方向を見つめる。九郎がそれに気が付く。
「やっぱ、気になるか?」
「あぁ………… 妾たちの子らは無事に育って居るのだろうか。」
双子の赤子を連れた夫婦が楽しそうに歩いているのが見える。アルは子を産んだ後、すこし容姿が変わっていた。12,3の容姿が15、6くらいとなっていた(背は伸びたが、胸はそのままと言った感じ)すこし寂しそうに見つめるアルを九郎がなぐさめる。
「ま、大丈夫だろう。ダンセイニもついてるし、オレたちの魔力で創ったもう一つのデモンベインも付けて、姫さん達がいる世界に飛ばしたんだ。間違いなくしっかり育ってるさ。」
「あの小娘だから心配なのだがな………… 」
アルの返し言葉に苦笑いする九郎。すると、そのとき車の急ブレーキ音が聞こえてきた。反射的にそちらを見る九郎。大型トレーラーがなにか得体の知れない機械に操られて、さきほどの双子を連れた夫婦に向けて突っ込んでいく。夫婦はそれに気が付いていない。九郎はアルに持っていた袋を無理に渡すと、魔力で身体を強化してそこに突っ込む。
「な、あぶ…………」
アルは反応がしばし遅れた。いつもなら、九郎の感性と繋がっているかのような反応を見せていたのだが、遠く離れるわが子を思うばかりに反応が遅れた。九郎が突っ込んでいった場所が爆発、炎上する。アルが持っていた袋を無造作に落とす。
「あ………… あぁ! 九郎!!」
アルは体裁など関係ないかのようにその場から駆け出す。
「九郎! 九郎! くろう!!!」
涙を流しながら、伴侶の名を叫ぶ。火など怖くなかった。怖いのはただただ、伴侶がいなくなる。そのことだけだった。
九郎を探すアルの耳に遠くで赤子の声が聞こえる。
アルはその方向を見やる。
そこには肩で息を切らし、双子とその両親の盾となって、魔法陣で火から4人を守る九郎の姿があった。一瞬、安堵の表情になったがそれも一瞬だけ………… 直ぐに今の九郎の状態を考える。大幅に減っていた魔力の方はこの世界にある魔力だまりを転々として、回復させていた。しかし、旧神となった身で魔力を完全に回復させるのは至難の業。まして、そのためにこの世界にある魔力だまりを枯渇させては九郎の信条に反する。だから、少しずつ少しずつ回復させて今は7割回復といった処だ。
しかし、この火力程度なら回復途中の状態である九郎であっても不利な状況でない。体の方は久々の休養のおかげで万全と言っても良い。なら現状態であの場に残り4人を守りながら、防御陣を張るというのも合点がいかない。
予想として、さっきの爆発の瞬間になにか負傷したのだろう。そうなれば、治癒術のできない九郎にとっては危険な状況だ。
アルは考える。この場で火を吹き飛ばせる術を使えばいいのだが、あいにく現状では強力な術は伴侶であり、主である九郎の力を借りねばできない。自分だけの力もあるが、この場を沈静化するにいたる術はどれも中途半端なものか、2次災害を巻き起こしかねない術ばかり。それでもこの場を打破出来る策を思考させていると、
「そこの一般人。危険だから下がって!」
杖を持った男性二人がアルの処に降り立つ。
(こやつら………… たしか、この世界いる【魔導師】。たしか、陸戦救助隊とかいう奴等だったな。)
アルは瞬時に考えがひらめく。そして行動に移す。
「お願い、助けて! あそこに私の連れが………… 他にも生きてる人がいるの!」
近い魔導師の男にしがみつき、助けを請う様に九郎達が奮闘する辺りを指さす。魔導師達が九郎達を確認する。
「解った。君は離れているんだ。」
「は、はい!」
そういって、アルはもう一人の魔導師に連れられて、その場を後にする。
(九郎! 今、この世界の魔導師が行った。上手くやれ。)
そう念話を飛ばす。すこし遅れて、
(わった………… よ。ちいときついがな。次は病院で合おうや)
そう弱々しいながらも、力強い返事が返ってきた。
「ばか………… 」
「だから、悪かったって。」
「ばかもん。ばかもん。ばかもん」
「いや、だからさ………… 」
「ばか………… バカ九郎! あれだけ、心配かけるなと!」
「悪かったけど、病室で叫ぶな、ばかちん!」
運ばれた病室での一コマである。事故から3日。九郎は魔導隊の敷地にある総合病院に入っていた。
「まったく………… だから、事も無しとなるようにわざわざ汝に念話を送ったと言うに………… 」
そういって、ため息をつきながらリンゴの皮むきを不器用にこなすアル。
「しゃあねぇだろ? 魔導師達が来るのは解ってても、赤ん坊にあの炎熱量は命取りなんだ。自分の身より守らにゃならんもんがある。あれの場面はそういうとこだ。助けに行ってそれができなきゃマジに後味悪りぃだろうが…………あんむ。 」
そう呟いて、殆ど食えるとこがないリンゴを口に入れる九郎。あの時、足に爆発破片の金属片が深く刺さり、全治4週間といった診断を受ける。ちなみに、今アルがむいているリンゴは助けた親子からの見舞いだ。アルが買ってきたわけではない。どの世界であろうが、二人金銭運は最低だ。持ち金のほとんどは入院費に飛んでしまっている。
「しかし、どうするのだ? 【魔力持ち】とばれた以上、この世界はなにかとうっとしい。できれば、今この場で逃げ出した方が良いのだが?」
そういって、さっきよりは喰う部分が増えたリンゴを九郎に渡すアル。
「それは最終にしようや。一応、療養で滞在してる場所だ。事大げさにして、逃げながら回復させるのはイヤだからな。ごまかせる処はごまかしてなんとかするさ。それくらいの芸当はできる。」
そういって、またリンゴを口に入れる九郎。
「どうでもよいが、種くらいは出せ。意地汚い………… 」
九郎の食べ方に突っ込み入れるアル。すると後のドアが開く。堅めの制服に身を固めた男性一人と、女性二人が入ってくる。
「すこし、よろしいですかな?」
男性が一礼して、そう告げる。彼らは時空管理局から来た者であるとつげ、九郎に事故の件聞きたいと申し出てきたのだった。
小一時間の話を聞き終わり、病室から出て行く三人。病室の戸が閉まり、上官である男性に付き従うようについて行くのは、夜天の書の主を護るヴォルケンリッターが2柱「剣の騎士シグナム」と「鉄槌の騎士ヴィータ」
(ヴィータ………… )
(ん? なんだ、シグナム。)
互いに念話で話しながら歩を進める二人。
(あの男………… どう見る。)
(どうだろうな。魔力持ちってことで同行したけど………… ありゃ、魔力持ちなんてレベルじゃない。あたし達、いや、はやてやなのは………… それ以上の素質と実力持ち主だな。後、あの連れの方もかなり怪しい。あたしが診ようとするとたんに席を外した。お互いになんか隠してるのはたしかだろう。)
ヴィータは自分の意見をはっきり告げる。シグナムはしばらく考え、
(同じように感じたか………… だが、この件。上に報告する前に主に意見を聞いてからでいいか?)
(ん? なんか、おまえにしては珍しいな。どうした?)
少し驚いたように返すヴィータ。シグナムは相変わらず表情も感情も変えず、
(いや………… ちょっとな。どうだ?)
(別に………… あたしもその方がいいかな。ちょっとひっかることあるし………… )
(ん。なら問題無いか。そうするとしよう。)
(あぁ………… )
「どうした? 二人とも。」
前を歩くナカジマ一等陸尉が振り返る。
「いえ………… 我々が呼ばれた割にあの程度であったので、少し肩すかしをしたなと話していたところです。」
何事もなかったように淡々と答えるシグナム。
「そうか………… すまんな、二人とも。何分、最近の事件の辛みで用心深くてな。ちょっとした魔力持ちであってもしっかり調べておかなくてはならんのでな。」
命令なんでなと呟きながら、やれやれと言った感じにナカジマ一等陸尉は呟く。
「わかってる。だから、慎重を期すためにあたし達が呼ばれたんだろ? 診るだけで相手の力量を測定できるあたし達が………… 」
「そういうことだ。ま、魔力持ちはごまんと居る。一々目くじらたてるように調べなきゃならんこの状況がおかしいのはわかってはいるんだがな………… 」
そう呟いて、すこし寂しそうな目をするナカジマ一等陸尉。
「とりあえず、『心配はないが注意は必要』と報告を上げておきます。」
「そうしといてくれ………… 」
そう返事を返し、3人は病棟を後にしていった
「はふぅ………… 久々に気疲れた。」
3人が出て行った後、まるで緊張が一気に解けたかのようにベットにだらけるようにして、力抜いて仰向けになる九郎。アルは離れた場所で座っている。
「仕方がなかろう、汝が招いた結果だ。」
「めちゃくちゃ他人事だな。てめぇ…………」
アルの冷たい態度のじと目で睨む九郎。しかし、
「ほぉ、では妾に交渉事をやってほしかったのか? そうかそうか………… そんなにやってほしかったか。」
などと、イヤな笑みを浮かべて返してくるアル。九郎は視線を外し、
「お前に頼むくらいなら、愛想の良い野良猫に任した方がなんぼかましだ。」
「ふん。嫌みで返すくらいなら始めから言うな、ばかもん。」
しばし、沈黙した後九郎はため息をついて頭をガシガシかきむしり、
「ふぅ………… 今、深く考えてもしょうがねぇ。気晴らしに散歩でも行こうぜ、アル。」
「ん。一応、病人のふりはせねば成らんから、そこの車いすで汝を押していくぞ。」
「へいへい………… とっとと治癒魔術で傷治しちまえばいいんだけどよ。検査や何かでそういう処理が一週間後とはな。」
そう呟きながら、ベットから起きあがる九郎。
「ま、先程の口上もある。下手にこっちの魔術は使えん。本来ならばこの世界では完全に無くなってる術式に部類されるものだからな、我らの術は………… 気を付けねば」
「あぁ…………」
そう九郎は返事を返すと、片足歩きで入り口付近に置いてあった車いすに乗り込み、アルと共に病室を出て行った。途中、リハビリ室の前を通る。不意に何かを感じ、リハビリ室の中を見る。髪の長い少女が動かない身体にムチ打つようにリハビリをしているのが目に入る。
「どうかしたか? 九郎。」
「ん? いや………… まぁ、散歩行こうぜ、散歩。」
リハビリしている少女が何となく気にはなりつつも、その場を後にする九郎。少女「なのは」と直接対面するのはもうすこし後になる。
時空管理局本部にある小さなテラスがある食堂の一角。
「そうか………… 自称【モグリの魔術師】かいな。」
「はい………… 」
食事をしながら、はやてはシグナムから話を聞いていた。
「一緒におったヴィータはどうない思うん?」
シグナムの横に座っているヴィータに質問を返すはやて
「う〜ん………… 一見だけじゃ、判断はしにくかった。なんせ、口八丁手八丁なかんじだったし…………ただ、言えるのは隠してる実力を一端でも見せたら管理局が野放しにしておくはずないってとこかな? 最悪つぶしにかかるかもしれない。」
「シグナムと同じ意見なんやな。」
シグナムは無言でうなずく。そういって、食事の手を止めるはやて。
「そけど、そやったらなんで二人は上司に報告する前にうちに話したん? うちは主やけど、今はまだ捜査官補佐、体の中やまだまだ若造や。「エース」と言われ、レアスキル持ちといっても、身分だけやったら一介の魔導師と大差あらへん。そないな報告受ける身分やない。それに二人が懸念するほどの力持ちなんやったら、一刻も早く上に報告するのが通説や。」
凛とした声で毅然と答えるはやて。その顔はいつもの優しい顔でなく、時空管理局「捜査官候補」としての顔になっていた。
「主はやての言う事はもっともなのですが………… 」
「はやてのいうとおりなんだけど………… 」
二人は一度口をつぐんだ後、
「あの者はその懸念をどこかに置き忘れてしまうほどに間抜けでお人好しなのです。その加減はあの高町がかすんで見えてしまうほどに…………」
「あいつは、そんな懸念をどっかに置き忘れてしまうほど、間抜けでお人好しなんだ。その加減は『あの』なのはがかすんで見えるほどに………… 」
と口をそろえて言った。その返答にに聞いていたはやて、シャマル、ザフィーラ、リインフォース・ツヴァイも目が点となる。その後、笑いが起こる。
「あははは! …………そうなん?」
「うふふ………… なのはちゃん以上のお人好しって、見た事無いですけど、いらっしゃるのね。」
「それを聞くと、中について行けなかったのが悔やまれるな………… 」
「リインもあってみたいです〜。」
すこし苦笑気味になってるシグナムとディータ。
「ま………… そんな感じだから、しばらく様子見てからでもいいかなって、シグナムと話してんだ。ただ、はやてにだけは意見は聞きたかったんだ。」
すこし真剣な顔で答えるヴィータにまだクスクス笑っているはやては、
「そんなん、聞かんかてわかってるやろ? うちも二人とおんなじや。そないな人やったら、下手に縛り付けるより、しばらく様子見た方がええやろ。それに二人がそない思う上でうちに相談した言う事は力の大きさは桁外れやってことやろ?」
「はい。」
「うん。 」
はやての言葉に間髪入れず、答える二人。二人もAAクラス以上の実力をもつヴォルケンリッターの2柱。そのふたりが慎重に成らざる得ない「その男」の実力はおそらく、主であるはやて、その他3柱の力をも借りざる得ないと判断しての行動だ。はやてもその真意に気が付いている。はやては一度咳払いして、
「ほな、そういうことにしよ? うちも今はそれがいいとなんとなくやけど思う。他のみんなもそれでえぇか?」
「「「はい。」」」
はやての意見に反論する者はいない。そんなわけで九郎とアルの処遇は内々であるが、「保留」という形となった。これが今後の好気のチャンスを生む事になる。
九郎が入院して2週間、魔力回復を受け大きな傷は完治して、一本松葉杖でもあれば、ほとんど一人で歩く事ができるようになった九郎。いつもどおりの退化していた足リハビリを兼ねた定例の散歩に出かける。今日のアルは借家に、着替えを取りにいっているので今は一人だ。また、庭への近道であるリハビリ室の前を通る。横目で見えた早野中に、管理局の隊員が来た日に見かけた少女が一人で車いすに乗って中にいた。少女は一人、車いすに乗ってたたずんでいた。九郎はそれが気になって足を止める。少女はリハビリ機を無言で見つめる。しばらくして何か意を決したかのような目をして、車いすから上体を起こし始める。しかし、その顔は苦悶を表し、か細い腕は動かす事自体をおそれているかのように震えていた。そうこうしているうちにバランスを崩して、前のめりに倒れ込む。
「あ!」
九郎は反射的に動き、リハビリ室に入る。
「おい! 大丈夫か?!」
松葉杖も忘れて駆けつける。少女は脂汗を流しながら、
「だい………… じょうぶです。」
と言って立ち上がろうとする。
「バカ言ってんじゃねぇ! どこが大丈夫だよ! そんな苦しそうな顔して言ったって信じられるか! それにそんな状態の身体で一人でこんなとこ来やがってなにができる。脂汗流して苦しそうにして「大丈夫」って言ったって信じる訳ねぇだろ。」
そういって、腕を掴んで抱きかかえようとする。しかし、少女はそれを拒む。
「放して下さい。私は………… 私は早く直らなきゃいけないんです!」
そう言いながら、リハビリ機へとはいずっていく少女。しかし、ここでそんな事を聞く九郎じゃない。
「バカ言うな! どう見たって、お前の状態は無茶して治るモンじゃないぞ!」
そう言って無理にでも引き留める。少女は涙を流しながら睨む。
「放して下さい。早く治して、みんなを………… 仲間を守らなきゃいけないんです!」
九郎はそんな少女の顔がこの世界に止まることを決めた時の自分と重なる。だからよけいにその行動に怒りを覚えた。
「じゃぁ、聞いてやる。今、お前がこんな無茶をしてまで急いで直さなきゃ成らないほどの状況なのか?! お前の仲間はお前がいなければ、どうにもならない様な情けない仲間なのか!」
「違う! フェイトちゃんもヴィータちゃんもそんなに弱くない!」
九郎の言葉に反論する少女。九郎は
「なら、なんでそいつらを信頼しない!」
今まで以上に真剣にそう力強く言い放つ。その力強い言葉に少女の剣幕がとまる。九郎は続けて言った。
「信用してるんだろう? 信頼してるんだろう? ならなんで答えない。今、お前がそいつらに答えるのはしっかりちゃんと身体を治す事じゃないのか? みんなの前に本当の笑顔で「もう大丈夫だよ」って言ってやる事じゃないのか? こんな無茶してまで、治る事をお前の仲間は望んでいるとで言うのか? 違うだろう! みんな、お前が元気になるのを望んでるはずだ。お前が元気になって、本当に笑ってくれるのを望んでるはずだろう? 違うのか?」
真剣にハッキリとそれでいて優しい口調。顔はまるで自分の事のように悲しそうしていた。
少女の目から大粒の涙が流れる。それは止まることなく流れる。自分では解っていた。けど何となく認められなかった事。「みんなを守りたい」と思うが故に、今の自分が情けなくて、悲しくて、どうしようもなかった。だから、無茶をしても治ろうとした。
けど、それは間違いだって………… それは自分が守ろうとした者達に悲しみを与えるものだって、真剣に言ってくれた。その真剣さがあまりにも激しく、そして暖かかった。だから涙が出た。止められなかった。情けないと思いながらも、その涙をこの人はその思いごと受け止めてくれると思ってしまった。
「う………… うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん」
少女は涙を流して、大声で泣いた。九郎はそれを何も言わず受け止めた。ゆっくり上体を起こし上げて、優しく抱きしめる。
「よしよし………… 」
そういって頭をなでる。少女は大きな声で泣き続けた。九郎は少女が落ち着くまで抱きしめながら頭をなでてやった。
しばらくそのままで時が過ぎる。少女のしゃくりも小さくなり、九郎からゆっくり身体を話し始める。
「落ち着いたか?」
九郎の問いかけに無言で頷く少女。その表情は目を腫らしながらもどこかさっぱりしていた。九郎の顔をゆっくり見つめると照れ笑いを浮かべ、
「えへへ………… なんかすいません。初対面の人に………… 」
「いいって、いいって………… 気にする…………はっ!」
少女の肩に手をかけたまま、笑いかけてくれた少女に笑顔で返した九郎だったが、背後からただならぬ殺気を感じて振り返る。
予想的中。しかも悪い方向で! 振り返ったらアルがいた。背後に紅蓮背負って髪をユラユラとたなびかせている。確実に勘違いしてる。
「まて、アル! これは…………」
オレが言い訳しようとしたが、聞く耳持たずに飛んできた。
「問答無用!」
その叫びと共に、オレの首にアトランティス・ストライクばりの蹴り入れてきやがった。
「ぶ………… ぎょろぶへりやるべろろろろろろ…………」
オレはそのまま横に三回転しながらぶっ飛んだ後に、床に頭を起点にして8回転してから壁に激突。
「く〜ろ〜!」
どっかの化け猫ばりの跳躍で大の字に倒れてオレに膝蹴りで着地した後、マウントボジション取って、×の字に顔をひっかく。
その後は襟首持って、顔をむしり取らんばかりに往復ビンタ。
「どういうつもりだ、九郎! 妾というものがありながらぁ!」
鬼の形相で怒鳴りつけるアル。どうも体制とあの子の笑顔を別の意味に履き替えたようだ。相変わらずの早合点だなこいつ………… ヤキモチもここまで来る表彰モンだ。
「ぢょっど、ばで………… がんぢがいじてるって、ばなじを………… 」
叩かれすぎて、口がまともにきけない。アルの方も怒りのあまりに聞いてないし…………
「あ………… あの〜」
さっきの女の子声が聞こえてくる。
「あ“ぁ!」
「ひっ!」
アルの感情むき出しな感じの振り返りで明らかに引いたというか恐怖で小さな悲鳴が聞こえる。アル、お前どんな眼で睨んだよ………… それでも怖々と少女がオレの行動を弁明してくれたのでとりあえず、事なきを得たが、その後にオレを蹴飛ばして起きた騒音で駆けつけたナースさん達には、オレとアルそして少女もこっぴどく叱られた。オレの顔を見て笑いながらだがな………… まぁどっかの菓子パンヒーローと変わらん顔になってりゃ笑うしかないんだけどな。こっちも殴られすぎて口が開けなかったし…………
こってり絞られてから、彼女を送りながら病室に戻る。
「だい…………じょうぶですか?」
車いすに乗ってオレを心配そうに見つめる少女。オレはナースさんからもらって両頬に冷却シート張りながら、
「心配すんな。いつもの事だから冷やしておけば治る。」
「はぁ………… 」
と不格好な顔で苦笑いで返すオレに、それにはどう答えたらいいのかと困った顔の少女。少女の車いすを押しているのはアル。さっきの勘違いの誤りのつもりらしい。ま、オレに対しては「ゴメン」の一言もない。いつもの事………… 何も言うまい。
「そういや、ドタバタで名前聞いてなかったな。オレは九郎。大十字九郎だ。君は?」
「はい。私は『なのは』、『高町なのは』です。さっきはありがとうございます、九郎さん。」
『なのは』と名乗る少女はくったくない笑顔でそう礼を述べた。
「別にたいした事は言ってねぇよ。当たり前の事を言っただけだし………… 」
オレは少し照れる。こうまでまともに返してきた奴はいないからな。それだけこの子が純粋で良い子なんだと言うのが解る。むすっとしていたアルがやっとこの子の事を見て、なにか表情を変える。
「おい、小娘。」
「え? わ、私ですか?」
「小娘って?」といった感じに自分ですか?と問いたげな顔で振り返るなのは。ま、こいつの尊称はそう思うよな………… 容姿はなのはと言うこの子と大差ないし、
「そうだ。汝、魔力の攻撃でその様な体になったのではないのか?」
アルの問いになのはの表情が変わる。どうやら、核心をついたようだ。明らかに眼が動揺してる。アルはそんな事は気にせず続ける。
「よい。驚くのは想定済みだ。妾も魔法を使う者だ。一見すれば、汝のような患者はどういう原因でそうなったかは解る。それよりここの治療は何をみて治療して居るのだ? 今のままではどんなに頑張ろうが、すぐさま汝の身体がまともに動くなどありえんぞ。下手をすれば、それこそ二度と魔力が使えなくなる可能性だってある。全くなにを診ているのやら…………」
と、オレまで驚く事をほざく。なのはの顔がアルの言葉を聞いて青くなる。アルの言葉は時折ナイフ以上に痛い。オレは言葉を遮ろうとしたが、
「ま、視えてしまった以上、このままにはしておけん。さっきの返礼もある。お前の病室についたら妾が直接診てやろう。原因を特定してやれば、治癒する速度を速める事もできるやもしれん。今のまま見なかった事にはしておけんからな。」
とオレ予想の真逆の返事が帰ってきた。
「本当ですか?!」
なのはが今に飛びつかんかのごとくの表情を見せる。
「嘘は言わん。だが、ここではあれだ。病室でそなたがなぜにそうなったかを順を追って話せ。まずはそれからだ………… ま、体を触診しながらとなるがな。」
「は………… はい!」
喜々するなのはと想定外の展開にバカ面でその場に立ちつくすオレ。アルの奴はすまし顔でなのはの車いすを押していく。オレは思考も停止していてその場から動けん。しばらくして、アルが振り返り、
「汝………… いつまで呆けておる。早く来い。」
「おぉ! わ、わるい………… 」
明らかにあきれ顔のアルの声に現実に戻されたオレは松葉杖をつきながら、たどたどしい早足で先行く二人を追いかけた。なんかどんどんアルの奴がオレに似てきてるのが無性に嬉しかった。
「さて………… 「なのは」とか申したな小娘。まず、汝がこうなったいきさつを話せ。」
「はい。えっと………… ですね。」
腕組みして座っているアル。ベットに座って(背もたれてが正解かな?)話し始めるなのは。オレはすこし離れた場所でなのはに持ってきてであろう土産のフルーツ(メロンとか高級品)を見つめている。
「九郎さん、そこのやつは適当に食べて良いですよ?」
かなり物欲しそうに見てたからな。なのはが気を利かせてそう言ってくれる。
「九郎は静かに待ってはおれんからな。ご相伴に上がっておけ。その方が妾も助かる。」
などと言ってくれるアル。へ! そうですかい!!
「じゃ、一個なにかもらうな、なのは。」
「一個じゃなくても良いですよ。どうせ、そんなにあっちゃ、食べきれないですし………… 」
なんて、言ってくれる。ほんとこの子優しいわ。お兄さん涙でちゃう。とりあえず、遠慮気味に大きめのメロン2玉と巨峰を二房ほどもらう。離れた応接スペースに座って、部屋を見渡す。にしても、なのはの病室は広い。それに設備もかなりのもんだ。お嬢様かなんかなのかな?
んなこと考えてる間に、なのはが続きの話を始める。オレは果物のうまさに身震いしつつ、聞き耳を立てていた。
「では、汝………… その年で「魔導師航空隊、エース」なのか?」
「はい………… それで、2ヶ月前の任務中に別世界で未確認体の攻撃をまともに食らっちゃって………… 」
その後もなのははどういって状況で、どの様な相手にどういった攻撃を受けたかをアルに説明した。その他も話を聞いて、アルはなのはの身体をふれながら身体の状態を把握していく。全て終えた頃アルが首をひねる。
「うむ………… 身体にこれと言った酷い損傷はない。話を総合して、汝の実力や思考、身体状況などを考慮しても、その程度の敵からの攻撃をまともに受けてとはいえ、そのケガの位置を考えても、今の後遺症は少し異常だな…………ま、重傷であったの確かなのだが………… ふむ。 なのは、そなた魔術…………いや、魔法は何時から使えるようになった?」
思案した顔でなのはに聞き返すアル。なのははきょとんとして、
「え? えっと………… 9歳からですから、もう2,3年になるでしょうか。」
これ聞いてオレは驚く。9歳って………… ジョージやアリスンくらいでもう戦い始めたって事か? オレは少しこの世界の大人達に頭が来た。そんな幼い子に魔法の力を使わせ、しかも戦わせるなんてどういう事だと………… その怒りの性で上手かったメロンが旨くなくなった。んで、気がついたら一個まるっと喰ってた。もったいねぇ…………
「9歳か…………術を酷使するにはすこし早いな。卓越した才能を持っていたとしてもそんな年では魔力神経が完全に成長していないではないか………… とはいえ、汝ほどの実力なら素体の大きさを考えると構成は…………………… うむ。」
「どうかしましたか? アルさん………… 」
自分の話を聞いて、さらに表情を険しくするアルになのはが心配そうに話しかける。たしかにアルの顔は心配が出そうなほど険しい。
「ん? あぁ………… すこし解せんのでな。幼い頃よりこういった立場にたったのだから魔力戦を続けていたのは想像出来る。それに伴い、成長段階の身体と魔力素体に負担がかかり、それが蓄積していったのが原因の1つでは有るはずだが………… 」
そういって、また考え込むアル。
「あの〜………… アルさん、ちょっといいですか?」
「なんだ?」
なのはの話を聞いて考え込むアルになのはが質問する。
「あの、さっきからアルさんの口から出てた『魔力神経』とか、『魔力素体』とかってなんですか?」
「ん? 素質も持った者が体内に持つ魔力の源と、それの肉体につなぐ疑似神経のことだが? 素体の方はこちらでは『リンカーコア』とか申したな。 魔力神経の方は存在すら知らぬがな。それがなに………… あ、ん、えと………… だな。」
なのはの質問にサラリと答えるアル。オレはアルの大ポカに気が付く。その話はやばい………… ネタ的に自分たちが普通でない事をさらしているようなモンだ。ここの世界じゃ魔力の根元に関わる記述はなく、機械的な融合は技術革新しているものの、その辺りは今だブラックボックスだ。アルも一拍遅れて自分がやっちまったことに気付いたようで口ごもる。オレは口に含んだばかりに大粒の巨峰を噛みもせずに飲み込もうとする。なかなか飲み込めない。そんなことしてると、
「その話………… うちも詳しくききたいですわ。」
その声にオレとアル、なのはが入り口に眼を向ける。オレとアルは明らかに「やっちまった」感が現れる情けない顔。なのははうれしそうに入り口に居るものの名を呼ぶ。
「はやてちゃん。」
病室の入り口ではやてとお供のシャマルがにこやかに笑って手を振っていた。
続く