狂科学ハンターREI SS 『雪見桜』
by Sin



ある年のクリスマスの日の事だった。
毎年のように玲と共に出かける桜。
今年はアリシアもタケルと2人で出かけたので、初めて2人きりの
クリスマスになった。

初めての2人きりのクリスマスにすっかりご機嫌な桜は、鼻歌を歌いながら
玲の少し先を跳ね回っている。
「桜さん」
と、その時、玲が桜を呼び止めた。

「ん? な〜に?」
「初めてだよね、2人だけでクリスマスするのって。僕とだけでも・・楽しい・・かな?」
そう言って照れくさそうに笑う玲に桜は駆け寄って腕を絡めた。
「な〜に言ってるの。玲くんとだから、2人きりで楽しいんだよ〜」
桜がそう言いながら玲の腕に胸を押しつけるようにすると、玲の顔が赤く染まる。
その様子に桜はクスクスと笑った。
「玲くん、顔真っ赤だよ」
そう言われて、玲は余計に赤くなる。そして照れくさそうに頬をポリポリと掻いた。

「それにしても・・降らないねぇ・・・」
「え?」
突然の桜の言葉に玲は何の事だか解らない。
戸惑ったようなその様子に桜は苦笑すると、玲の腕を軽くつねった。
「あ、いてっ!」
飛び上がる玲に桜は思いきり笑い出す。
そんな桜の様子に憮然とした顔の玲だったが、桜にじっと見つめられて真っ赤になって
狼狽えた。

やがて、溜息を1つついた桜は玲の頬を突っついた。
「雪、よ」
「えっ・・?」
「だから、最近雪が降らないねって言ったの!」
ちょっと頬を膨らまして言う桜の様子に、玲は苦笑して頷いた。
「雪かぁ・・そう言えば最近見てないなぁ・・」
「今日くらい・・降らしてくれても・・いいのに・・」
ポソッと呟いた桜の言葉を玲が聞き咎めた。
「僕が、降らせようか?」
その玲の言葉に桜は思わず苦笑した。

「私は自然の雪が見たいから・・・」
「そっか。じゃあ降るのを待つしかないね」
玲の言葉に溜息をつきながらも桜は頷いた。

それから2人でウインドウショッピングや映画鑑賞を楽しみ、食事を済ませて表に出てきた時には
午後9時を過ぎていた。
「桜さん、そろそろ送っていくよ」
「・・・うん・・・でも・・もう終わりなんだね・・もっと長く一緒にいられたらいいのに・・・」
「そうだね・・」
「・・・玲くん、もう少しだけ・・・このまま2人でいさせて・・」
そう言って身体を寄せてくる桜を玲はそっと抱きしめた。

どれだけの間そうしていただろうか・・・
ふと、桜は顔に触れた冷たい感触に辺りを見回した。
「・・・雨?」
玲にそう問いかけるが、玲は首を横に振った。
「・・どうやら、桜さんの願いが届いたみたいだな。ほら・・」
そう言って差し出した玲の手袋には小さな雪の結晶がまだ溶けずに残っていた。

「ホワイト・・クリスマス・・・だね・・」
「そうだね。僕も初めてだ・・」
玲と桜はそう言うとそっと身を寄せ合って降りゆく白い結晶を見つめていた。

やがて・・・
「玲くん・・・」
「ん? なに、桜さん?」
「・・・今日は・・帰りたくない・・・」
「えっ・・・」
突然の桜の言葉に戸惑う玲。
だが、抱きついて潤んだ瞳で見つめてくる桜に一体誰が勝てようか・・
「・・・わかった・・よ・・」

それからしばらくの後・・
小雪の舞い散る街の片隅で、該当のスポットライトに包まれた2人の姿は、
やがて銀座の夜へと消えていった・・・







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