狂科学ハンターREI SS 『桜の育児日記』 第10話
by Sin


あの襲撃事件から2週間が過ぎた。
桜の傷も、アリシアの血を貰ってすでに跡形もなく消え去っている。

桃も、あの時の事は取りあえず松五郎には黙っていると言ってくれたので、特に問題もなく、
いつも通りの日々が繰り返されていた。

だが、そんなある日の事だった。
いつものようにタケルと出かけようとしたアリシアが、立ち止まって誰かと話している。
「どうしたんだい、アリシア?」
「あ、玲。この人・・ずっとここの前にいたみたいなんだけど・・・玲の知り合い?」
アリシアのその言葉に玲が覗いてみると、そこにはハンドバッグ1つだけを持ってうずくまっている
女性の姿があった。

「なんだろう・・? その人、寝てるのかな?」
「・・ううん、なんだがすごく弱ってるみたい・・玲、どうしよう・・・」
不安げに見上げてくるアリシアに玲も迷っていたが、その時ちょうど春美を連れて散歩に出ていた
桜が帰ってきた。
「ただいま〜。あれ、どしたの?」
「あ、桜さん、お帰り。それがね・・・」
そう言われて桜は玲の視線を追った。
「・・・誰?」
「さぁ? 今アリシアが見つけたんだけど・・・すごく弱ってるみたいで・・・」
玲がそう言うと、桜はその女性の顔を覗き込んだ。
「・・・多分疲れてるだけだと思うし・・ちょっと休ませてあげようよ」
「そうだね。じゃあアリシア、ちょっと手伝って」
「は〜い。よいしょっと」
女性を抱き上げようとした玲だったが、アリシアは一人で軽々と抱き上げて奥の部屋に連れて
行ってしまった。
「あ・・はは。やっぱりこういう所じゃ叶わないなぁ・・」

それからしばらくの時が流れた。
「う・・うう・・・ん・・」
「玲〜っ、気が付いたみたいだよ!」
そうアリシアが言った途端、女性は目を覚まして辺りを見回す。
「ここ・・は?」
やがてアリシアを見つけると、不安げにそう聞いた。
「ギャラリー『HIME』の中です。お姉さん、入り口に倒れてたの」
その言葉を聞くと、途端に女性はアリシアに縋りついた。
「あ、赤ちゃん! 赤ちゃんは!?」
「えっ、な、なに?」
「どうしたんだい、アリシア?」
突然縋りついてきた女性にわけがわからないアリシアに玲が声をかける。
「玲・・この人がいきなり・・・」
「赤ちゃんは! あの子はどこに!?」
そう言って今度は玲に縋りつく女性。
わけがわからない玲だったが、取りあえず彼女を落ち着かせる事にした。
「あの・・取りあえず落ち着いて下さい」
玲のその言葉に彼女は玲から手を離すとその場にへたり込んだ。
「大丈夫ですか? あ、僕はここのオーナーで、姫城 玲といいます。貴方は?」
「弓月 沙奈江と申します・・・」
そう答えると、弓月は居住まいを正して深々と頭を下げた。

「それで・・一体ここにはどのようなご用件で?」
「・・4ヶ月前の事です・・私・・ここの入り口に生まれて間もない子供を・・・」
その言葉に玲が言葉を失った時だった。
「春ちゃんの・・お母・・さん・・?」
背後から聞こえてきた声に玲が振り返ると、そこには春美を抱いた桜の姿があった。
「あ・・ああ・・・私の・・・私の赤ちゃん!」
そう言って弓月が春美に駆け寄ろうとしたその時だ。

「近寄らないで!!」
激しい桜の言葉に弓月の足が止まる。
「この子は・・貴方の子供なんかじゃない! この子は・・この子は・・私の子供なんだから!!」
そう言うと桜は春美を抱きしめたまま外へ駆け出してしまった。
「ま、待って!!」
慌てて弓月も桜の後を追う。
「玲!」
「アリシアはここにいて! 桜さんは僕が追う!!」
「う、うん!」
アリシアにそう言い残すと、玲は桜達の後を追って駆け出していった。


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