狂科学ハンターREI SS 『桜の育児日記』 第8話
by Sin


春美の様子に一喜一憂し、初めての経験に玲も桜も振り回され通しだったが、近頃は慣れてきたのか、二人とも手際よくこなしていた。
玲が美術品の買い付けに行く時以外は殆ど一緒にいる為、夫婦と間違われた事も一度や二度ではない。
そんな時でも慣れたもので玲は苦笑してごまかし、桜に至ってはわざとそれらしく振る舞っていた程だ。
アリシアも気を利かせたのか今までよりも頻繁にタケルと出かけるようになり、HIMEには玲と桜、そして春美の三人だけでいる事が多くなった。

玲も桜も、この日々がいつまでも続くと思っていた。
だが・・・

いつものように買い物に出かける玲と桜。
その桜の胸に抱かれた春美は軽い寝息を立てて眠っている。
それもまたいつもと同じ。
この数ヶ月の間、毎日のように歩いた道のりを今日も三人で歩いて、そしてHIMEへと帰る・・・そのはずだった。
一発の銃声が響き渡るまでは・・・

玲の腕から飛び散る血飛沫。
思わずうずくまった玲に駆け寄ろうとした桜を玲が止めた。
「来るなっ! 桜さんは春美を守って!!」
「で、でもっ!」
「君は春美の母親だろ! 僕の事はいいから春美を守るんだ!!」
「でも・・玲くん・・・」
躊躇う桜だったが、その時ふと、胸に抱いた春美の寝顔が目に入った。
「守るんだ、桜さん。親が守らなくちゃ、子供は生きていけないんだ!!」
「親が・・・そうだよね・・私が守ってあげなくちゃ・・この子・・生きていけないんだもんね・・」
そう言って頷くと、桜はその場を離れようとした。だが・・
「きゃうっ!!」
足下に銃弾を撃ち込まれて、桜は慌てて玲の側に駆け寄った。
「わ、私も狙われてる・・」
「相手が解らない事には・・手が出せないな・・・」
その時、春美をかばう桜の腕と足から血が飛び散った。
「つっ!」
「桜さん!?」
「だ、大丈夫・・かすっただけ・・・」
「くそっ、どこから・・・」
「私が何とか探してみる・・・・」
そう言って飛剣を取り出そうとしたその時だった。
一発の銃弾が桜の手を打ち抜いたのだ。
「あうっ!! い、痛・・・・ぁ・・」
あまりの痛みに飛剣を取り落とした桜は春美をかばいながらもその場にうずくまった。
「桜さん!!」
「ううっ・・・玲くん・・」
「今の銃弾は向こうから・・だとしたら・・」
そう言って目を向けた先で、何かが光った。
「そこかっ!!」
瞬時に魔玉を弾き出す玲。
その直後、一人が倒れると同時に辺りから数十人が姿を見せた。
「戦史研の小娘は身動きが出来ん! 先にそっちを狙え!!」
「えっ、ちょ、ちょっと! 赤ちゃんがいるってのに!!」
「撃てぇっ!」
激しい銃声が鳴り響き、桜は春美をしっかりと抱きしめて庇うと目を閉じた。
やがて……
「あ、あれ? 私、死んでない?」
「だぁ……だぁ……」
「春美ちゃんも無事……?」
不思議に思って振り返った桜の視線の先には、強烈な冷気を纏った玲の姿があった。
「れ、玲くん!」
「よくも桜さんを傷つけたな・・・こんな小さな赤ん坊を……子供を庇う桜さんを狙うなんて……お前らは絶対に許さない!!」
その瞬間、玲の周囲に激しいブリザードが吹き荒れた。
玲の第二の魂が目覚めたのだ。絶対零度の力場が周囲を凍てつかせる。
「きょ、狂科学ハンター・・・くそっ、う、撃て撃てぇぇぇっ!」
「桜さん…春美を頼むよ!」
そう言って放たれた魔玉が互いに弾け合い、その度に微細な振動を高めて襲撃者達を包み込む。
やがて彼等を光の繭が包み込んだ。
「魔玉操……紅蓮地獄!」
冷え冷えとした言葉と共に、繭の内部で振動が極限に達した。
それと同時に激しい白熱の閃光が走った。
「ぎぃやあああああああああああぁぁっ!!」
襲撃者達の絶叫が辺りに響き渡り、やがてそれも消えてしまう頃、ようやく粉塵が消えた。
その後には、熱く焼けた地面に無数の人の影が残っているだけだった。


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