狂科学ハンターREI SS 『桜の育児日記』 第3話
by Sin



  『HIME』でのドタバタ劇から数時間後、玲と桜は銀座の町へと繰り出すことになったが、丁度、用事の残っていた玲は桜に春美の事を預けて、後で待ち合わせることにした。

 当然、目的は春美のオムツやミルクの買出しだが、桜は突然降って湧いたデートの機会に、嬉しさを隠せなかった。

「あれぇ? まだ玲君来てないんだ……もう、こんなに可愛い女の子を待たせるなんて…」
 キョロキョロと辺りを見回してみるが、やはり玲の姿は無い。
「まだかなぁ……玲君……早く来ないかなぁ…ねぇ、春美?」
 噴水に腰掛けて優しく春美に問いかけるが、春美は桜の胸に抱かれて気持ちよさそうに眠っている。
 その様子を、通りがかった一人の少女がじーっと見つめていた。
「あれ? あれは……お姉ちゃん? でも……」
 少女の視線は、桜と抱かれている春美に向けられている。
 小首をかしげながらもやがて立ち去ろうとした少女だったが、その時、不意に桜が何かに気づいて立ち上がった。

 その視線を少女が追うと、そこには長いマフラーを風になびかせて駆けてくる青年−玲−の姿があった。
「ごめん、待たせたかな、桜さん」
「おっそーい、玲くん!」
「ごめんごめん。お詫びにそこの喫茶店で好きな物おごるから」
「ほんとに?」
「ほんとに」
「じゃあ、許してあげよう。ね、春ちゃん」
「ほんとに怖いお母さんだよね〜春美」
「もう、玲くん!」
「あはは、じゃあ取り合えず先にオムツとかの買い物を済ませてしまおうか」
「うん。でもオムツ持って赤ちゃん抱いてたら、どう見ても私って母親よねぇ?」
「じゃあ一緒に買い物してる僕は、どう見られてるのかな?」
「当然お父さん!」
「やっぱり?」
 そう言って笑いあう二人の姿に、少女はとうとう堪えきれなくなって、桜の元に駆け寄った。

「お姉ちゃん!」
「えっ、あれ、桃じゃない。どうしたのよ、こんなとこで?」
「買出しに来たんだけど……お姉ちゃん、いつの間に子供産んだの?」
「えっ……えっとそうじゃなくて、この子は……」
 思わぬ事を言われて真っ赤になった桜は桃に説明しようとするが、しどろもどろになっている間に桃は勝手に話を進めてしまった。

「あ、初めまして。私、扇 桃です」
「へぇ…桜さんに妹がいたんだね。姫城 玲です。よろしく」
「ちょ、ちょっと、桃……」
「お姉ちゃん。いつの間にこんなかっこいい人、掴まえてたわけ?」
「え、ええと……」
「いーよね、やっぱりスタイルがいいと。男も選り取り見取り……かぁ……」
そう言って自分のスタイルと比べてため息をつく桃に、桜は耳まで真っ赤にすると、慌てて否定した。

「ちょ、ちょっと、違うって!!」
「ま、お姉ちゃんがどんな人と付き合っても別に良いけど、子供まで作っちゃうなんてねぇ……」
「だ、だからそれはぁ!」
「いいって、いいって。お姉ちゃんだってそろそろいい人がいてもおかしくないし」
「も、もう! だから違うって言ってるでしょ!!」
「他のことならともかく、これはお父さんにちゃんと報告しないと駄目じゃない。いくら家を出てるって言ったって、子供が出来て、もう産んじゃってるなら、せめて事後報告だけでもしないと……」
「桃! 違うって言ってるでしょ!!」

「まあ、お姉ちゃんから言いにくいって言うなら、私からそれとなく伝えておくから。じゃ、そーゆー事で。またね、お姉ちゃん! 玲さん、お姉ちゃんのこと、お願いします」
「ちょ、ちょっと、桃!!」
「あ、うん、それじゃ」
 慌てて引き止める桜と、呆然と見送る玲を尻目に、桃は人ごみの中に消えていった。
「あの……桜さん?」
「あううぅぅぅぅ……一番ややこしいのに、一番ややこしい所を見られたかも………」
 頭を抱える桜に玲は、ため息をつくことしかできなかった。


 それから3日後、桜の予感は現実となった。




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