狂科学ハンターREI SS 『桜の育児日記』 第2話
by Sin



「とりあえず、警察には届けておいたほうが良いかな?」
「……警察は……やめとこうよ……」
「え、なんで?」
「だって……」
 口篭もり、答えにくそうな桜。
 いつもには見られないそんな姿に首を傾げていた玲だったが、やはりこのまま放っておく訳にもいかず…
「この子の親を探す為にも、やっぱり警察に届けておいた方が良いだろ?」
「そうなんだけど……」
「とりあえず、行くだけは行ってみよう。それでダメなら仕方ないし…」
「………うん…」
 どことなく辛そうな桜の様子に、戸惑う玲。
 だが、その謎は、警察についてすぐに解くことが出来た。

「捨て子? ………ほんとに捨て子なの?」
 警察で手続きをしようとした玲達に向かって、担当した婦人警官はいきなりそう言った。
「どういう意味です?」
 見下したような言い方にムッとした玲が聞いたが、彼女の態度は変わらない。
「貴方達、自分達じゃ育てられないからって、警察に任せるつもりなんじゃないの?」

なっ……!?

「それに貴方ってどう見ても一度くらい子供産んでそうだし……」
 ジロジロと桜の身体を見る婦人警官に玲が思わず怒鳴りつけようとした時だった。
「………もういいよ、玲くん。行こっ」
 そう言うと桜は赤ん坊を抱き、玲の手をとって警察署を後にした。

 赤ん坊を抱いたまま、足早に歩く桜。
 少しでも警察から早く離れたがっているその姿に、玲の胸が痛む。
「……ごめん、桜さん」
「え?」
「前にもあんな風に言われた事あるんだろう? それで嫌がってたんだ……」

 玲のその言葉に、桜は少し哀しげな微笑みを浮かべる。
「う、うん……まーね。あの時はまだ中学だったかな……迷子になってた4歳の女の子を近くの交番に連れて行ったら、さっきみたいな感じで……ね」
「そうだったんだ……」
「ま、この魅力的な身体が罪なのよねぇ〜」
 そう言って笑った桜の表情は無理しているのが丸判りだったが、玲はわざと明るく答えた。

「あはは、そうだね。桜さんって魅力ありすぎるから」
 だが、冗談で言った玲の言葉が、思わぬ反応を引き出した。
「な、なに言ってるのよ………も、もう、冗談ばっかり言ってさ……」
 そう言ってうつむく桜の頬はその名を表すかのように桜色に染まっている。
「あ、あはは…じゃあとりあえず『HIME』に戻ろうか」
「う、うん、そだね」
 なんとなく気まずいまま、二人は『HIME』へと足を向けた。


「ただいま〜」
「ただいま、アリシア。留守の間何も無かった?」
「お帰りなさい。玲、桜さん。タケルくんが遊びに来てるよ」
「やっほー桜さん! 子供産んだんだって?」
 アリシアに続くように奥から顔を出したタケルの言葉に、桜は耳まで真っ赤にして怒鳴りつける。

「ら、ランジュバン公爵んとこの機械人形っ! 誰が子供産んだってのよ!」

「だって、アリシアが言ってたよ」
「アリシアぁぁ?」
「ちょ、ちょっとタケルくん! 私は桜さんがお母さんしてるって言っただけで、産んだなんて……」
 ジト目で見つめる桜に、アリシアは慌てて言った。

「え? じゃあ何でお母さんになれるわけ? あ、ひょっとしてその子も人造人間?」
「んなわけないでしょ! 捨てられてたのよ、この子」
「へぇ〜人間を捨てたりするんだ。大切に守ったり、簡単に捨てたり、やっぱり人間って分かんないなぁ」
 桜の言葉に素直に驚くタケルだったが…

「そんなのダメ!!」
 突然のアリシアの言葉にびっくりして目を丸くした。

「タケルくん、赤ちゃんを捨てるなんて事は、絶対にダメなんだからね!」
「でも、してる人がいるんだろ?」
「人間がみんな良い人ばかりじゃないもの……」
「まあ、俺だってご主人様に恵まれてなけりゃ、とっくにスクラップだけどさ〜」
 そう言って笑うタケルの手を、アリシアはそっと握る。
 いきなりそんな事をされて、タケルの顔は一気に赤く染まった。

「ア、アリシア?」
「タケルくん……大切な人がいなくなったら……どう思う?」
「どう…って?」
「………もし…私がいなくなったら……タケルくんは……」
「ええっ!? そ、そんなの嫌だよ!」
 アリシアの言葉に、慌ててギュッとその手を握りしめるタケル。
 まるで放すまいとするかのように。

 そんな彼の手を微笑んでアリシアは握り返す。
「でしょう? 私だって…タケルくんがいなくなっちゃったら、すっごく悲しいよ……」
「……あ、そっか。赤ん坊を捨てるっていうのは、離ればなれにされるのと同じなんだ…」
「そんなの、絶対に許しちゃダメでしょ?」
「おいらにも判ったよ。そんな哀しい事…絶対に許しちゃダメだ」
「うんっ」
 力強く頷くタケルの姿にアリシアは嬉しそうに微笑んだ。


「あ、そうだ、玲!」
「ん? どうしたんだい、アリシア」
「名前! 赤ちゃんの名前決めようよ!」
「名前? そうか……この子、まだ名前が……」
「何かそれらしい物は一緒に無かったの?」
「うん、僕が見た時には無かったな」
「じゃあ、私もアリシアに賛成。ちゃんと名前で呼んであげなくちゃね」
「そうだな……じゃあ、アリシアはなんて名前がいいと思う?」
「うーん……急に言われても………桜さんは?」
 急に言われて考え込む桜だったが、やがて……

「そうねぇ……華ちゃん……かな?」
「華ちゃん…ねぇ……」
「なによぉ、じゃあ玲くんは何か良いのあるっての?」
「……さっきから考えてたんだけど、桜さんとその子ってほんとに親子みたいに見えるから……」
「ちょっとちょっとぉ、玲くんまで私が子供産んだって言いたいの!?」
「ち、違う違う。本当にその子の母親みたいだなって言いたいんだ。今の桜さん、本当に母親って感じだから……」
「え……っ……そ、そうかな?」
「だから、桜さんにちなんで、春美ちゃんって言うのは?」
「あ、いいかも!」
 二人で楽しそうに話し合っている様子を見ていたタケルは、ふと呟く。

「ほんとにハンターと桜さんって、夫婦みたいだな」
「え!?」
「な、なに言ってんのよっ!」
 思わぬ事を言われ、真っ赤になった顔を見合わせて、更に赤く染める2人だった。




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