狂科学ハンターREI SS 『お返しはHeartを込めて』
by Sin



 3月14日。
 バレンタインに受け取った想いに、男が答えを出す日。

 そして・・彼らもまた・・


Case.1 玲の答え

 手に持った2つの包み。
 もう一つはすでに渡してある。妹、アリシアからの義理チョコのお礼だ。
 そしてこの2つ。

 1つは最愛の・・そして数ヶ月後には結婚も決めている女性、桜への想いを込めた答え。
 もう1つは、玲の気持ちを知りつつも、その想いを伝えてくれた人、龍華への答え。

 玲は全ての回答をする為、2人を呼び出していた。

「あ、玲くん、お待たせ〜♪」
 紅茶を飲みながら待っている玲の元に、まず桜が姿を見せた。
「ごめんね、桜さん。動き回るの大変な時なのに」
「これくらいへっちゃらよ。玲くんに呼ばれたって言うのに、じっとしていられますか」
 そう言って笑う桜。
 その時、また入り口の開く音がして、龍華が姿を見せた。

「あ、あれっ、龍華!?」
「桜・・久しぶりね・・」
「う、うん・・」
「玲さん、お待たせしました」
「龍華さん、お呼びだてして済みません」
「いえ・・」
 挨拶を交わす2人の様子を、訳が解らず見つめる桜。

「玲くん・・? なんで龍華を・・?」
「・・・これを・・バレンタインの時のお返しです。そして・・僕の答えです」
 そう言うと、玲は2人に包みを手渡し、そして桜の手を取った。

「え? え? な、なにが、どうなってるわけ?」
 しっかりと手を握られて、なにがなんだか解らない桜。
 だが、龍華は、「そう・・ですか・・」と俯き、伏せた瞳から一滴の涙が零れた。

「龍華!?」
 急に泣き出した龍華に、桜は慌てた。

「僕は・・桜さんを愛しています。龍華さん・・貴方の気持ちに答えられなくて・・すみません・・」
「・・れ、玲・・くん・・」
「わかって・・いました・・こうなる事は・・」
「龍華・・まさか玲くんのこと・・」
「もう、終わりました・・こうして玲さんは桜を選んだのですから・・」
 まだ涙の溢れる瞳で、龍華はそう言って微笑む。

「桜、私は玲さんには選ばれなかったけれど・・貴方のこと、応援しています。身体を大切にして、可愛い赤ちゃんを産んでね・・」
「う、うん・・」
「玲さん・・ありがとうございました・・貴方を好きになって・・よかった・・」
「龍華さん・・僕も貴方に好かれて嬉しかったです・・ありがとうございました」
 そう答える玲に龍華は涙を溢れさせながら微笑むと、一礼して店を出て行った。

 じっとその様子を見つめていた桜は、嬉しいような切ないような溢れてくる感情に泣きそうな顔で玲を見る。

「玲くん・・龍華は・・その・・」
「僕の事を好きだと言ってくれたんだ。でも・・僕は桜さんの事が一番大切だから・・」

 玲の言葉がとても嬉しくて・・でも同時に友達の龍華の気持ちを考えると素直に喜べなくて・・桜は抱きしめてくれる玲の胸で、泣いた・・・


Case.2 タケルの想い

「アリシア〜っ!」
 突然空から降ってきた声に、思わず首をすくめるアリシア。
 怖々と上を見上げると、そこには満面の笑みを浮かべるタケルの姿があった。

「タケルくん? もう、ビックリさせないで」
「あはは、ごめんごめん。すぐにでもアリシアに会いたくって」
 笑顔で無邪気に答えるタケルに、アリシアは思わず頬を赤らめる。

「・・そうなんだ・・嬉しい・・」
「それに・・」
「えっ?」
 急に照れくさそうにし始めたタケルに不思議そうな表情を浮かべるアリシア。
「えっと・・前にバレンタインのチョコって貰ったよね?」
「あ・・う、うん・・」
「モニカさんが、今日はそのお返しをする日だって教えてくれて・・その・・これ・・」
 顔中を真っ赤にしてタケルが差し出したのは、不思議な色を放つ石だった。

「えっと・・これは?」
「おいらの力で生成したこの世でたった1つだけの宝石・・アリシアへの気持ち、目一杯込めて作ったんだ・・喜んで・・くれるかな・・?」
 照れくさげに頬を掻いてそう言ったタケルに、アリシアは満面の笑みを浮かべると、力一杯に抱きついた。
「わわっ、アリシア!?」
 大慌てのタケル。その顔は耳まで真っ赤になって、今にも煙を吹き出しそうな状態だ。

 その様子に、アリシアは頬を赤らめて微笑むと、更にギュッと抱きしめる。
「すごく嬉しい・・タケルくん、ありがとう・・」
 言葉と一緒に、唇に触れる温もり。

 高鳴る胸と共に、電子頭脳が共鳴する。

 その感触に、照れくさいような嬉しいような、不思議な心地よさを2人は感じていた。

「これからも・・ずっと側にいてね・・タケルくん・・」

 見つめてくるアリシアに、もう一度・・今度はタケルから・・Kiss・・
 
 熱々モードの2人が、周囲の視線に気付くのは、まだまだ先の事だった・・


Case.3 月形の想い

「お疲れ〜っ!」
「お姉さま〜、お疲れさまで〜す!」
 元気のよい声を背に受けて、リタはバイト先のハンバーガーショップを出た。
 以前はこんな時必ずと言っていい程、さっきの子からの誘いがあったものだが、以前、月形に店の中で誘われて以来、懐いてはいるものの、それ以上を求めては来なくなった。

「まあ・・あたしの事、テイクアウトする・・なんてのに目の前で答えちまったんだから、それも当然か」
 呟いて苦笑するリタ。
 それ以来、幾度となく関係を持っているのだが、月形の様子は相変わらずだ。

「あの仏頂面、時々、崩してやりたくなるんだよねぇ・・」

 照れくさげな月形。怒ったふりして、本当は心配してくれている月形。
 優しい愛の言葉など言わないが、心の底からぶつかってくる男・・

「・・まったく・・この閃光のリタが、まさか男1人にいかれちまうなんてね・」
 幾度も抱きしめられた温もりを思い出し、思わず頬が赤くなる。
 と、その時・・

「リタ、ここにいたのか?」
 不意に声をかけられて、慌てて振り返る。
 完全に周りの事を忘れる程に月形の事を考えてしまっていた事に、リタの顔は真っ赤に染まった。
「つ、月形!?」
 答えた声も裏返ってしまい、ますます赤くなる。

「どうした?」
「な、なんでもないよ・・それより、どうしたんだ? 今日は・・約束してなかったと思うけど・・」
「あ、ああ・・こいつを、お前に・・・」
 そう言って月形が差し出してきたのは、一対のブレスレットだった。
「これは・・?」
「この前の・・礼だ・・その・・バレンタインの・・」
 相変わらずの仏頂面で渡してくる月形。だが、その顔は赤くなるのを必死に堪えているのが丸分かりな程に引きつっていた。

「あ・・」
「それと・・今日一日・・お前に付き合う。俺にできる事なら、なんでも言ってくれ」
 あの堅物な月形にしては、珍しく積極的な言葉。
 リタにはそんな彼の気持ちが嬉しくかった。
「今すぐには思いつかないから・・今日は・・ずっと側にいてくれるかい?」
「ああ。いくらでも・・」
 僅かに目を細めて見つめてくる月形の瞳はとても優しくて・・
 そんな彼の温もりを求めるかのように、リタは月形にそっと抱きついていた・・


Case.4 オーギュストの想い

「・・・ヒルダ・・」
 グラスに映る己が瞳・・
 かつてそこに映っていた愛しき人はもういない・・
 あの日、ド・レール侯爵によって命を奪われた愛しき人・・ヒルダを想い、グラスを傾けるオーギュスト。

「ご主人様、タケルから通信です。『今日はこっちに泊まるから、明日帰りまぁす』だそうです」
「そうか、タケルもすっかり恋の虜だな・・・」
 そう言って僅かに口元を弛める。
「はい」
 答えて微かに微笑んだモニカの様子に、オーギュストは珍しく驚きの表情を浮かべた。

「(・・モニカも成長しているようだ。やはり、なにかきっかけのようなものがあるのだろうか・・)」
 じっと見つめていると、不意にモニカは所在無さ気に視線を彷徨わせ、伏せ目がちになると微かに頬を赤らめる。
 そんな彼女の様子を、オーギュストは満足げに見つめていた。

「そう言えば・・今日はあの日だったか・・」
 ふと、思い出したように呟くオーギュストに、モニカは首を傾げる。
「モニカ、私の寝室にある、青い小箱を取ってきてくれ」
「はい、ご主人様」
 直ぐさまモニカは部屋を出て行くと、間もなく手に小箱を持って戻ってきた。

「これでしょうか?」
「ああ、開けてくれ」
「はい」
 言われるがまま、モニカは箱を開ける。
 するとそこには美しいバレッタが納められていた。

「ご主人様、これは・・?」
 不思議そうにバレッタを見つめるモニカに、オーギュストは、
「それはお前にやろう」
 そう言われて、モニカは驚いた様子で目を瞬かせる。
「どうした?」
「・・・・・・・嬉しい・・」
 一瞬、何を言ったのか解らず、オーギュストはそのままモニカの様子を窺っている。
 と、その時、オーギュストは信じられないものを見た。

 ぽたり、ぽたりと絨毯に染みを作るもの。
 それは・・機械であるはずのモニカの瞳から溢れていた。

「まさか・・涙・・とは・・」
 絶句する、オーギュスト。
 本来なら有り得るはずのない、人造人間の涙・・
 だが、そのあり得ないはずの涙を浮かべているモニカの瞳は、今までにない程に人のものへと近づいていた。

「・・・ありがとう・・ございます・・・・オーギュスト・・様・・」
 その言葉に再び絶句。
 今まで、何度も『総支配人』や『ボス』と呼ばせようとしても、必ず『ご主人様』と呼んでいたモニカが、初めて『オーギュスト様』と呼んだのだから。

「タケルにとって・・あのフランケンシュタイン博士の人造人間・・アリシアと言ったか・・彼女との付き合いがあいつを成長させていると思ったが、まさかモニカも想いによって成長するとは・・その相手が私だというのも、皮肉な話だ・・」
 そう呟いて苦笑するオーギュスト。
 そんな彼の様子を、モニカは涙の浮かんだままの瞳で、不思議そうに見つめている。
 手の中のバレッタをどうしていいものか、思案しているようだ。

「モニカ、着けてみなさい」
 その言葉に、モニカの表情が一瞬で変化した。
 喜び・・それを満面の笑顔で表している。これまでには見られなかった表情だ。
「はい、オーギュスト様・・」
 今度は恥ずかしげに頬を赤らめている。
 俯きながら髪にバレッタを留めると、モニカの表情は更に華やいだ。

「どう・・でしょうか・・?」
 不安げな表情。また新しい顔を見せる。
「よく似合う」
 率直な感想。
 その言葉に、モニカは嬉しさと恥ずかしさの入り交じったような微妙な表情を見せた。

「完全な人へ・・近づいているようだな・・こうして私がモニカを成長させているかと思うと・・不思議と嬉しくなる・・」
 そっと撫でつけられる手の温もりに、心地よさそうな表情を浮かべているモニカ。

「いつか・・モニカが完全な人となって・・その時私は・・」

 ふと、胸を過ぎる、愛しき人の笑顔。

「(ヒルダ・・私は、モニカにとって・・どれほどの存在となれるのだろうな・・)」

 そんな事を思いつつ、手にモニカの髪の柔らかさを感じながら、オーギュストはまたグラスを傾けたのだった・・

 それぞれの想いが、お互いを育んでいく・・
 楽しい事、嬉しい事ばかりではないかも知れない・・
 だが、それでも皆、大切な想いを胸に、この日を終える・・

 また新しい思い出を胸に・・








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