狂科学ハンターREI SS 『なんとなく』
by Sin



 銀座の一角にあるハンバーガーレストラン。
 そこではここ最近話題になっている接客があった。
 それは・・・

「チーズバーガーとポテト。それにナゲットだな。一緒に飲み物はどうだ?」
「は、はい、ホットココアを・・」
 長身に燃えるような赤い髪。捲られた袖から覗く腕には無数の傷跡。
 そんな彼女に射抜くような鋭い視線を注がれている客はまるで蛇に睨まれたカエルのようにガチガチになっていた。答える声にも震えが混じる。
「糖分の取りすぎだが・・まあいい。注文はこれだけで良いか?」
「は、はい・・」
「よし、待っていろ」
 そう言い放つと、まるで雌虎がうなり声を上げているかのような鋭い声で厨房に注文を出す。

「チーズ&ポテト、ナゲット、ホットココアだ。急いでな」
 華やかな店内。その一角のこの場所だけは、一種独特の雰囲気に包まれていた。

 かつて、『黄金の薔薇』の薔薇十字軍で「閃光のリタ」と呼ばれていた彼女は、今やこの店の人気No.1店員となっていた。
 あの接客が彼女に憧れる女性や一部の男性ファンを集め、一時の倍近くにまで客数を伸ばしたからだ。

「お前、何度か来てたよな。また来いよ、な?」
 紙袋を手渡しながら言うリタに、客は「は、はいっ!」と答えると、大袈裟なくらいに頭を下げて店を出て行った。

「ふぅ・・とりあえず一息ついたな」
 そう言うと襟元を弛めてメニューで胸元を仰いでいると、「リタさん!」と言う明るい声がかけられた。
 見ると満面の笑顔のアリシアと桜の姿を見つけた。その後ろにはタケルと玲の姿もある。
「お、アリシアか、それに桜も。よく来たね。今日は2人とも男連れかい?」
「えへへ・・」と照れくさそうに笑うアリシアの頭をクシャクシャと撫でてやると、
「まあ、ゆっくりしていきなよ。今日はもうしばらく残業だから、あまり相手はしてやれないけどね」
「そっかぁ、残念。でも、みんなであの辺でおしゃべりしてるから、リタさんも手が空いたら来てね」
 そう言うアリシアに「ああ、そうだね」と答えると、リタはまた仕事に戻っていった。


 いつものように、楽しく話し込む桜達。
 最近の話題は桜のお腹の中にいる赤ん坊の事で持ちきりだ。

「えっと・・もう6ヶ月・・だっけ? もう半分過ぎちゃったね」
「なんだか正直言うと、今でも嘘みたいなのよね・・私が玲くんの子供を産むなんて・・」
「えっ、どうして? 玲の事、好きじゃなかったの?」
「玲くんの事は、ずっと好きだったよ。でも、結婚とか・・子供を産むとかって・・想像してなかった。正直、出来ちゃったときは不安でいっぱいだったのよね・・」
「そうなんだ・・」
「でも、玲くんがいつも側にいてくれて・・私の事守ってくれて・・そんな事を何度も繰り返している内に、いつの間にか私、安心してた。玲くんになら全部信じて任せてしまっても大丈夫なんだ・・って」
 そう言って玲に肩を寄せる桜に、苦笑して頬を掻く玲。
 そんな2人のやりとりを、アリシアは楽しそうに見つめていた。


 いらっしゃいませ〜の声と共に、突然、巨大な気配を感じて玲達は入り口へと振り返る。
 するとそこにはかなり大きな人影があった。

「い、いらっしゃいませ・・」

 入り口近くで迎えた店員も、その迫力にカチコチに固まっている。
 だが、リタはその人影を目にするなり、いつもとは全く違う嬉しそうな表情で迎えた。

「いらっしゃい。よく来たね、月形」
「ああ・・まあ・・近くまで来たんでな・・・たまたま腹が減って・・」
 あの無骨な月形が僅かに顔を赤くして、しどろもどろに言う様子に桜は思わず吹き出した。玲も苦笑し、アリシアに到っては、「月形さん、真っ赤になっちゃって、可愛い」などと言い出す始末。

「さ、桜!? な、なんでおまえらがここに・・」
 背後からの声に思わず振り返った月形は、桜達の姿を見つけて更に慌てた。

「月形さんの方こそ、なんでここに来てるのかなぁ? ひょっとして・・お目当てはリタ?」
「さっ、桜ぁぁっ!!」
 ニヤニヤと笑いながら聞いてくる桜に詰め寄ろうとした月形だったが、玲に止められる。
「今の桜さんは無理出来ない身体なんだ。月形さんみたいのがぶつかったら、ただじゃ済まないよ」
「くっ・・・」
 悔しそうに桜を睨み付ける月形。
 その時、背後からリタの声がかけられた。

「それで、なんにするんだい、月形?」
「リタ・・しかし・・な・・」
 そう言って振り返った月形が見たのは、頬を赤くしたリタの姿だった。

「なっ・・なにを赤くなってるんだ!?」
「えっ、だ、だってさ・・」
 慌てて聞く月形に、桜が説明する。
「ご注文は? って聞かれて『リタ』って答えられたら赤くもなるよねぇ、リタさん?」
 桜の言葉に月形の顔が一気に真っ赤になる。
「い、いや、今のはそう言う事ではなく・・」
 しどろもどろに答える月形。
 だが、やがて・・・

「・・・ああ・・テイクアウトで頼む」
 そう言った月形にリタの顔が耳まで真っ赤に染まった。

 それからしばらくして・・
 仕事を終えたリタはいつもの戦闘服ではなく、少しお洒落なブラウスとスラックスに着替えて姿を見せた。どうやら汗を流してきたらしく、僅かに髪が湿っている。

「待たせたね・・」
「いや、たいしたことはない。まあ・・こいつらの相手に多少疲れはしたが・・」
 そう言う月形とリタは顔を見合わせて、苦笑した。

「アリシア、桜。今日は相手出来なくて悪いね」
「そんな事気にしないで。それより・・」
「え?」
「月形さんと仲良くね、リタさん」
 アリシアにそう言われて真っ赤になるリタ。
「テイクアウト・・・お持ち帰りだもんね。リタってば服もずいぶん決めちゃって・・ひょっとして結構その気?」
「さ、桜っ!!」

 結局それから桜達と別れるまで延々からかわれる事となるリタだった。

 そして・・・

 人通りの少なくなった公園。
 そこのベンチにリタと月形は並んで腰掛けていた。

「月形。あたしの事・・どう思っているんだい?」
「な、なんだ、急に・・」
 突然のリタの質問に戸惑う月形。

「・・・正直・・よくは分からん・・ただ・・他の奴等には感じた事のない感情が・・お前に対してだけは湧いてくる・・不思議な事だがな・・」

 本気で困った顔の月形にリタは思わず吹き出すと、じっと月形を見つめた。
「・・あたしも・・読んでみようか・・?」
「なんだ?」
「桜が玲の事を呼ぶみたいに、あんたの事、名前で・・」
「っ・・・す、好きにしろ・・」
 ぶっきらぼうに言う月形。だが、その顔は耳まで赤くなっている。
 その様子に苦笑するリタ。

「・・・じゃあ・・た、た・・・うう・・は、恥ずかしいもんだね・・」
「無理して呼ばなくても・・かまわんぞ・・」
「い、いや、呼ぶって決めたんだからさ・・」
「そ、そうか・・」

 2人とも顔が赤い。
 いつの間にか、リタの手は月形の手に重ねられている。
「・・・た・・けし・・」
 名前を呼ぶだけ・・ただそれだけの事だが、今のリタにはとても大きな事に感じた。
 そしてそれは月形にとっても同じ事で・・
「リタ・・」
 無意識の内に、月形の手が更にリタの手に重ねられた。
 見つめ合う2人。周囲には誰もおらず、この場にはリタと月形の2人だけ。

「・・・あたし・・あんたの事・・す・・好き・・になっちまったみたい・・だ・・」
「・・俺も・・お前の事が・・」
「・・・なに・・やってたんだろうね・・・あたし達・・桜も・・アリシアも・・しっかり相手見つけてるってのにさ・・・目の前に・・いたことにも気付かなかった・・」
「・・俺と・・付き合うか・・いや・・付き合ってくれるか、リタ?」
 重ね合った手が震える。互いの緊張が伝わるように・・

「・・返事なら・・とっくに決まってる・・」

 その言葉と共に2人の距離がゆっくりと近づいて・・・

 雲間に月が隠れた闇の中、2つの影は1つになった・・・


 後日、桜達からこのときの事を聞かれたリタと月形はぴたりと揃った声でこう答えた。

「なんでこうなったかって? そう・・『なんとなく』・・だね」







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