狂科学ハンターREI SS 『春風の中で』
by Sin



 ガタガタと激しい風が窓を震わせる。
 『HIME』ではいつもの如く、玲と桜が寄り添ってティータイムを楽しんでいた。

「凄い風だね・・みんな吹き飛んじゃいそう・・」
 窓の向こうでは、吹き飛ばされた葉っぱやゴミが飛び交っている。
「春の嵐・・これを過ぎたら、もう春も間近だよ」
「うん・・そうだね・・」
 そう言って玲に身を寄せる桜。
 と、その時。不意に桜が「あ・・っ・・」と、戸惑った声を上げる。
「ん? どうしたの、桜さん?」
「・・・動いた・・」
「え?」
「赤ちゃん・・動いた・・」
 嬉しそうに言った桜は、玲の手を取るとそっとお腹に触れさせた。

「・・・?」
「待って・・・また・・・あ、ほら!」
「ほんとだ・・動いた・・動いたよ!」
 嬉しげな桜につられるように、玲も微笑む。

「それにしても・・」
「えっ?」
「もうすぐ桜さんの季節だって言うのに、今年は・・」
「??」
「お酒、飲めないね」
「う・・・っ・・・ちょっとくらいなら・・・」
「お腹に赤ん坊がいるのに?」
「う・・・・」
「それに、桜さんが飲み始めたら、ちょっとじゃ済まないと思うけどなぁ・・」
 そう言って笑う玲に、桜は拗ねた表情で「いじわる・・」と言って頬を膨らませる。
 だが、それも僅かな間で、プッと吹き出すと2人揃って笑った。

 すっかり大きくなったお腹を優しくさすりながら、桜は胎内で未だ眠り続ける我が子へ目一杯の愛情を込めて語りかける。
「私も玲くんも、すっごく楽しみにして待ってるからね・・元気に産まれてきてね、私達の赤ちゃん・・」

 優しく口ずさむ子守歌。
 ゆっくりとお腹をさすりながら紡がれる、そのどこか懐かしいメロディーに、玲は穏やかな気持ちに包まれて、やがて桜を抱き寄せたままゆっくりと眠りに落ちていった。

「・・フフッ・・お父さんの方が先に寝ちゃったみたいだね」
 そう言ってそっと頬に口付ける桜。

「おやすみ、玲くん・・大好きだよ・・」
 紡がれたその言葉は、激しい春の嵐にかき消されていった・・

 冬の終わりを告げるかのように、荒れ狂う風・・

 春が来るまで・・あと少し・・・







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