DUEL SAVIOR DESTINY SS
『誰を選ぶの?』 
by Sin


(7)



「……大河…」
「ん?」
 静寂に包まれた暖かな空間の中、不意にクレアが頬を赤らめて呼びかける。

「先程の言葉……私達を皆、娶ってくれると思って……良いのだな……?」
 少し不安げな眼差し。
 それはリリィ達も同じで、じっと見つめてくる皆の視線に大河は一瞬怯んだものの、しっかりと頷いた。

「こんな形になっちまったけど……はっきり言わせてくれ」
「大河……?」
「皆に纏めて言うなんて、酷いプロポーズだけどさ……一人ずつにちゃんと言いたいんだ」
 そう言った大河に皆揃って顔を赤らめると慌てた様子で居住まいを正し、向き合う形で言葉を待った。

「クレア、俺と結婚して欲しい。子供の事が有る無し関係なく、俺はお前を一番に愛している」
 じっと見つめてくる大河の言葉。
 それをしっかりと受け止めたクレアの瞳から溢れた涙が静かに頬を伝う。

「大河……こんな時、どう言えば良いのやら…胸が一杯で……言葉にならぬが……」
 そっと大河の胸に身を委ねるクレア。
「私も……お前を愛している……大河…我が命よりも、なお深く……」
「クレア……」
 抱きしめあい、唇を重ねる2人。
 その様子を見つめる未亜達の心中は穏やかではないだろう。

 クレアだけがプロポーズの言葉を貰ったからではない。

 もうすぐ、自分達が彼女の立場になるのだという期待とそれを皆に見られてしまうと言う羞恥で揺れに揺れまくっているからだ。

 しばらくの時が過ぎ、ようやくの事で身体を離した二人は少し照れくさそうに微笑みあうと、もう一度唇を交わしてそっと身体を離した。

「……ありがとう……大河。さ、さあ、他の皆にもちゃんと伝えてやれ。皆お前の言葉を待つ気持ちは等しく同じなのだから……」
「ああ……」

 恥ずかしげに視線を逸らしたクレアに苦笑しながら、次はベリオへと視線を向ける。

「ベリオ……」
「あ…大河……君……」
「アヴァターに来てからベリオには世話になりっぱなしだったな。感謝してる。改めて礼を言うよ」
「そんな…私だって大河君に出会えてなかったら……今、こんなにも満ち足りた気持ちにはなれなかったと思います。お礼なんて……」
「相変わらず律儀だなぁ、ベリオは」
 苦笑するように言いながらその身体を抱き寄せる大河。
「きゃ……大河……君?」
 抱きしめられた温もりに真っ赤になりながら、目を丸くしていたベリオだったが――

「一番に…って言ってやれないこんな男だけど……愛してる、ベリオ。俺と……結婚して欲しい」
 真剣な眼差しで伝えられた言葉。
 その言葉がベリオの胸に広がっていき……涙が溢れた。

「はい……はいっ! 私も……私も愛しています……大河君を誰よりも愛しています!!」
 ポロポロと涙を零しながら、満面の笑顔で抱きつくその身体をしっかりと抱きしめた大河は、そっと彼女の唇を奪う。
「ん……っ………好きです……大好きです……大河君……」
 何度唇を重ねただろうか。
 ようやくの事で落ち着いたベリオは真っ赤になって大河から離れると……
「ふ、不束者ですが……どうぞ、よろしくお願い致します」
 そう言って深々と頭を下げた。
「ああ、俺の方こそ……な」
 照れくさそうにそう言う、緊張しきった今の自分達の様子が可笑しかったのだろう。
 互いに視線を合わせて吹き出した。

「大河君……みんなにも気持ちを伝えてあげてください。こんなに幸せな気持ちを独り占めしていたら悪いですから……」
「ああ…解ってる」

 そう答えてカエデへと向き直る大河。

「し、師匠……」
「カエデ……」
「え、ええと……拙者、こんな時にどんな顔をすれば良いのか……」
 わたわたと慌てた様子で真っ赤になっているその姿に思わず吹き出す大河。
「笑うなんて酷いでござるよ、師匠〜っ」
「あはは、悪い悪い。つい、出会ったばかりの頃を思い出してさ」
「師匠と出会ったばかりの頃……でござるか?」
「ああ。あの時はクールって言葉の塊みたいなフリをしてたからなぁ……」
「……今思えば赤面ものでござるよ……もしも師匠に出会っていなければ、きっと拙者は本来の己の姿を隠す事に必死で実力を発揮する事もできず、戦場に散っていたでござろう……師匠が居てくれたからこそ、拙者は今こうして平穏な時を生きていられるのでござる」
「お前がみんなと一緒に頑張ったからさ。俺1人の力じゃない」
「確かにそうでござるが……師匠が居てくれなければ、皆とこうして笑いあう事も無かったでござる。そんな状況では皆と協力し合うなど夢のまた夢。今、拙者の命があるのは、師匠の……あっ……」
 なおも言葉を重ねようとしたカエデの身体を抱き寄せる大河。
 その瞬間、耳まで真っ赤になったカエデがわたわたと慌てる様子に苦笑しながら強く抱きしめる。
「しっ、師匠?」
「カエデ…俺はお前一人だけを愛する事はできない……お前を一番に愛する事もできない……だけど……それでも俺はお前を愛している……こんな俺でも……お前の主に…相応しいか…?」
 戸惑うようなその声にそっと身を離し、優しく頬に触れながら想いを伝える大河にカエデはゆっくりと微笑を浮かべると……
「言ったはずでござるよ……師匠……いえ、主様……主様がカエデを娶ってくださるなら……側室でも何等構いはしない…と」
「カエデ……」
「主様……カエデを……愛してくださいますか……?」
「ああ……俺は……お前を愛してる……俺と……結婚して欲しい……」
「うれしゅう……ございます………主様……」
 溢れる涙をそのままに、唇を重ねるカエデ。

「カエデは……幸せ者です……忍びとして護るべき主君と愛しき背の君が同じ方なのですから……」
「お前に護ってもらうだけじゃ男が廃るからな。俺も、お前を護る」
「ふふ…主様らしい……カエデの全ては主様のものです……主様……お慕いしております……」
 そう言って再び唇を重ねる。
 やがてゆっくりと離された唇に残された温もりにカエデは恥ずかしそうに頬を赤らめ、
「さ、さあ……主様……他の皆にも伝えてあげて下さいませ。今は主様に頂いた想いと、この接吻だけでカエデは十分でございますから……」
「カエデ…」
 そっと優しく溢れた涙を拭ってやり、もう一度だけカエデに口付けると大河はルビナスの側へと歩み寄った。

「ダーリン……」
「始めてその呼び方をされた時とは随分変わったなぁ、ナナ子」
「ふふっ、確かにナナシだった時とはね。でも…」
 そっと大河の胸に頬を寄せるルビナス。
「ナナシも私も……貴方の事が大好きだって気持ちだけは、変わらない……」
「ナナ…「ルビナスって呼んで」あ、えっと……ルビナス……?」
 大河の言葉を遮ってそう言うと、ルビナスは大河の背中に手を回して、しっかりと抱きついた。
「……ねぇ……ダーリン……」
「ん?」
「貴方が愛してくれているのは……ルビナス? それとも……ナナシ?」
 顔を伏せたその表情は、大河には伺えない。
 だが、その背に回された手の震えが彼女の気持ちを痛いほどに伝えてくる。
「……両方……だな。ルビナスさんはナナシだし、ナナシはルビナスさんだから……それに…」
「それに?」
「ルビナスさんもナナシも……俺にとってはどちらも大切な人だから……」
「ダーリン……」
 大河の言葉に涙を浮かべるルビナス。
 その胸中にどれほどの気持ちが溢れていたのか……
 止まらない涙を隠すように大河の胸へと顔を埋めた。
「好…き……大好き………!」
「ルビナスさん……」
 優しく背中を撫でながら、そっと呼びかける大河。
 涙に濡れた頬を恥ずかしそうに赤く染めて、ルビナスはゆっくりと顔を上げる。

「俺はルビナスさんの事だけを愛する事は出来ない。正直自分でも優柔不断だって思う。だけど……それでも俺は、ルビナスさんともずっと一緒に生きて生きたいと思ってるんだ。こんな俺でも良いなら……結婚して欲しい。ルビナスさん……いや、ルビナス」
 真剣な眼差しでじっと見つめられたままに伝えられた言葉がルビナスの心の奥底に眠っていたもう1つの心をも呼び覚ます。そして……

「はい……私もずっとダーリンの側に……『ナナシもずっとダーリンの側にいるですの〜♪』って、ナナシ!?」
 驚く二人を置き去りに、ルビナスの唇はナナシの言葉を紡ぎだす。

『ルビナスちゃんばっかりずるいですの〜ナナシだってダーリンにプロポーズされたいですの〜〜』
 そう言いながら抱きつこうとして思うように動けない身体に『はう〜動けないですの〜』と喚くナナシに思わず苦笑してしまう大河とルビナス。
 回りの皆も驚いていたようだが、やがて揃って噴き出した。

「やっぱりナナシはナナシだなぁ……」
「ふふっ、そうね。ほら、ナナシ…少しの間だけ変わってあげるわ」
『わぁい、ルビナスちゃん、大好きですの〜♪』
 その瞬間、ルビナスの表情が一変した。
 これまでのどこか理知的な感じが失せ、無邪気な少女の表情へ…ナナシへと切り替わった証だ。
「ダ〜リ〜ン♪ プロポーズ、プロポーズして欲しいですの〜♪」
 無邪気に抱きつき、そう言ってはしゃぐナナシの姿に苦笑する大河だったが、やがて……
「ナナシ」
「あ…ダーリン……」
 そっと両肩に手を添えられたナナシは今までのはしゃぎっぷりが嘘のようにじっと大河を見つめる。
 その頬がほんのり赤い。

「ナナシは……俺がお前だけを愛せなくても平気か? お前を一番に愛してやれなくても……」
「そんなの、全然問題ないですの! ナナシは…ダーリンが好き…ダーリンの笑顔が…ダーリンの声が…ダーリンの全部が好きなんですの……ダーリンの一番大事な女の子にはなれなくても、ダーリンのお嫁さんになれるなら、全然問題ないですの!!」
「ナナシ……」
「そ〜れ〜に〜今は無理でも、いつかナナシの魅力でダーリンをメロメロにしてあげますの!」
 そう言って笑うナナシ。
 周りで見ているクレアやリリィ達もその姿に苦笑するしかない。
「ふふ、随分と強気な事を言ってくれるではないか。だが、私もそう易々と大河の心を明け渡す気はないぞ?」
「だったら〜クレアちゃんの心もナナシで一杯にしてあげますの〜」
 思わぬ反撃に一瞬絶句したクレアだったが……

「ぷ……くく………あははははははははははははっ! 真逆そう来るとは思ってなかったぞ。なぁ、大河」
「くくっ……あ、ああ、そうだな」

 爆笑しながら問いかけるクレアに、こちらも笑いを堪えきれずに答える大河。
 正に天然。
 純粋無垢とはこういう事を言うのだろう。
 裏も表もない。
 ただひたすらに純粋に、大河の事を想うその姿に誰もが微笑みを隠せずにいる。

「ナナシ」
「はいですの」
「俺と、結婚してくれるか?」
「もちろんで……あ、あれっ?」
 満面の笑顔で返事をしようとしたその瞬間だった。
「ナナシ……ちゃん?」
「ナナシ、あなた……」
 戸惑った皆の声。
 その中でも一番戸惑っていたのが、ポロポロと涙を零すナナシ本人。
「あれ? あれれ? 変ですの……ダーリンにプロポーズされた途端に……胸が……きゅぅん……って……」
「ナナシ……」
 優しく大河に肩を抱き寄せられた瞬間……
 全ての想いが爆発したかのようにナナシは大河の唇に自分の唇を重ねていた。

「ダーリン……っ! 好き! 好き好き! 大好きですの!! ナナシは……ナナシはダーリンのお嫁さんになりたいですの……ううん、なりますの!!」
 頬を赤らめながらしっかりと抱きついてそう言ったナナシの身体を優しく抱きしめる大河。
「ありがとな、ナナシ……」
 そのまましばらく抱きしめあっていた2人だったが、やがてゆっくりとナナシの方から僅かに身体を離した。

「………ルビナスちゃん…ありがとですの…」
 呟くように言って、ナナシは微笑みながら瞳を閉ざす。
 そしてもう一度開かれた時、ナナシはルビナスへと変わっていた。

「……ダーリン…ありがとう…ナナシ、本当に喜んでいたわ」
「礼を言うのはこっちの方さ。一人だけを愛する事の出来ないこんな俺を好きになってくれて、ありがとう、ルビナス、ナナシ」
 そう言った大河の言葉に本当に嬉しそうに微笑むルビナス。

「さっきの返事、答えても……いい?」
「ああ、もちろん」

「……この身が果てるまで……私はずっと貴方の側に……愛してるわ……ダーリン…」
「ルビナス……俺もだ……愛してる……」

 呟くように囁き合って、大河とルビナスは唇を重ねる。
 互いの背に回された手がそれぞれの身体をしっかりと抱きしめて、やがてゆっくりとその唇が離されるまで、互いの温もりを伝え合っていた。

 そして……
 唇が離されると同時に、ルビナスはパッと後ろを向いて俯く。
「……ルビナス?」
「…ごめんなさい、ダーリン……今だけは……私の顔を見ないで……」
 その言葉に戸惑う大河だったが……
「きっと……嬉しくて……嬉しすぎて……涙とか色々で…私の顔、ぐちゃぐちゃだと思うから……恥ずかしぃ……」

 耳まで真っ赤になりながらそう呟くように言ったルビナスの姿に大河はもとより、クレア達までもが吹き出した。

「も、もう……ばか……」

 拗ねたように呟いた言葉も余計に皆の苦笑を招くばかり。

「ほ、ほらっ、早くリリィ達にもっ!! 私の事は、もう充分だからっ!!」

 何とか皆の視線から逃れようとするルビナス。
 そんな姿に苦笑しながら大河はそっとその背後に近づくと、優しく頬に口付けた。




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