DUEL SAVIOR DESTINY SS
『誰を選ぶの?』 
by Sin


(4)

 タイガと共に城下町に出てきた大河は、懐かしい風景をあちこち見回しながら今は出店で貰ったホットドッグに似た食べ物を食べながら歩いていた。
 救世主帰還に沸いている所にその本人が街に来ているとあって一時は大騒ぎになったのだが、あまりの騒ぎに怯えるタイガの姿に気が引けたのか、騒ぎは段々に落ち着いてふたりはのんびりと街を歩き回れるようになっていた。

「はむはむ……ちちうえ、このたべものおいしーねー」
「だろ? あ、ほら、口にソースが付いてるぞ」
「え〜とって〜」
「しょうがないな」
 苦笑しながら、大河はポケットからハンカチを取り出すと、それでタイガの口元を拭ってやった。

「ほら、綺麗になったぞ」
「ありがと〜ちちうえ〜」
 そう言って抱きついてくるタイガの頭をくしゃくしゃと撫でてやると嬉しそうに笑って頬を擦りつけてくる。
 そんな姿が愛おしくて、大河は勢いよくその身体を抱き上げると肩車した。

「うわあ、たかいたか〜い!」
「危ないからあんまり暴れるなよ。さてと……どこに行きたい?」
「ちちうえといっしょならどこでもいい〜」
「あはは、そっか。じゃあ適当にこの辺ぶらつくとするか」
「うんっ!」

 満面の笑みで答えるタイガ。
 嬉しそうに身体を揺らしながら、鼻歌を歌ったりしている。

「〜〜♪」
「上手いな。クレアに教えてもらったのか?」
「うん。ぼくがなきたくなったときとかに、うたってくれるんだよ。げんきとゆうきがわいてくるうたなんだって〜」
「元気と勇気……か。ははっ、クレアらしいな」

 そう言ってクレアの姿に思いを馳せる大河。
 破滅との最終決戦の時、神の後を追うその背中にかけられた彼女の声、その想い。
 神と戦い続ける中で、どれだけ力になった事だろう。
 もう一度、クレアと出会う為……
 その一心で戦い続け、勝利する事が出来た。

 救世主の鎧に取り込まれていた時もそうだ。
 みんなの想いが……そしてクレアの想いが恐ろしい程の呪縛から解き放ってくれた。

 大河は思う。
 真の救世主としての力は確かに自分の中にある。
 でも……

「タイガ、救世主ってなんだか解るか?」
「ちちうえのこと〜」
「あはは、そうだな。でもな…俺は本当の意味での救世主って奴じゃあない」
「え?」
「この世界を救ったのは……俺を支えてくれた人々……救世主クラスのみんなや学園のみんな。そして……俺の事を誰よりも愛して……どんなに苦しい時でも俺の心を支えてくれたクレアなんだ。俺はそんなみんなの思いに支えられて戦い抜いただけだよ」
「う…えっと……」
「はは…タイガにはまだちょっと難しかったな。でも、覚えておきな。救世主って言うのは何も特別な力を持った人の事じゃない。誰もが心の奥底に持ってる勇気や優しさ。それで誰かを支え守っていく人達……そんな人達みんなが、この世界を守っている……この世界の救世主なんだ」
「ゆうき……やさしさ……」
 つぶやくタイガの胸をトンと指さして頷く。
「お前のここにも、ちゃんと勇気と優しさは詰まってる」
「ほんと!?」
「ああ。だからお前だってなれるさ。お前にとって大切な誰かの救世主様って奴にな」
「うんっ!!」
 大きく頷くタイガに大河も微笑んだ。

 それからしばらくして……

 街の中を歩き回った2人は、公園の噴水前でセルビウムと出会った。

「あ〜っ、セルビウム〜〜♪」
「――っ!? な、なんだ、殿下ですか。脅かさないでくださいよ……って、お一人ですか? 護衛の兵士は?」
「いないよ〜」
「居ない……って……こんな所まで1人で出てきちゃ駄目じゃないですか!!」
「ひとりじゃないもん」
「1人じゃ……って……あああああああああああああああっ!!」
「よっ、セル。久しぶりだな」
「た、た、た、た、た、大河ぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
 あまりの驚きに脳がフリーズしたのか、しばらくそのまま動かなくなったセルビウムだったが、やがて気を取り直すと、いきなり大河に掴みかかった。

「お、お、おいっ!?」
「……………言いたい事は山程有るんだが………まあ取り敢えず……この野郎――ようやく帰って来やがったかぁぁぁぁっ!!」
「ああ、帰ってきたぜっ!!」
 いきなり振り上げられた互いの拳。
 それが勢いよく交差して……
 バキィッ! とものすごい音と共に2人の顔が歪む。
「え? ええ? ええええええ?」
「く……流石……救世主のパンチは……強烈だな……」
「……お前のパンチも結構効いたぞ……セル……」
 混乱するタイガの目の前で2人はそう呟くと……

「「………ぷっ……くく……はは……あははははははははははははっ!!」」

 いきなり笑い出したその様子に目を瞬かせるタイガ。

「よく帰ってきたな、大河。いつだ?」
「昨日な。と言うかよ……これだけ盛大に祭りが開かれてるって言うのに、お前は全然気づいてなかったのか?」
「ああ、それでこの大騒ぎだったのか。俺、昨日からずっと街の外でアルバイトに励んでいたからなぁ……」
「アルバイトって……お前、まさかクレア達の……」
 かつて、救世主クラスを含めた女の子達の様々な映像を納めた幻影石を売り歩いていた事を思い出し、思わずジト目で睨んでしまう大河。

「い、いや、流石にクレシーダ様のは恐れ多くて……」
「クレアのは……って事は、他のみんなのは……」
「だ、大丈夫! ちゃんと本人の許可を貰ったブロマイドだけだから!!」
 慌てて否定するセルに目を丸くする大河。
「許可を……って……」
「いやぁ、稼いだ金の半分を復興資金として寄付するって条件で」
「……全員か?」
「もちろん。まあ、リリィちゃんだけはかなり渋ってたけど」
「だろうな…」
 自分を見せ物にされるような事に関してはかなりシビアだからな……などと大河が考えていると……

「『大河以外の男が私の写真を持っているなんて、考えたくもない』だそうだぞ」
 思いもよらない事を言われて思わず吹き出す大河。
「な、な、な!?」
「ったく…あのリリィ・シアフィールドや堅物のいいんちょ、ちょっと天然入ってるけど美人のカエデちゃんに食堂のアイドルのリコちゃんに千年前の救世主候補のルビナスさんにお前の妹の未亜さん……更にクレシーダ女王様まで……この国のいい女の最高峰をよりどりみどりなんて、あまりに羨ましすぎるぞ一人くらいこっちに回せよ心底未亜さんを希望!」
「息もつかずに言い切るか……」
「第一お前にはクレシーダ様との間に殿下が居るだろ? つまりはクレシーダ様と結婚するという事で未亜さん達はお前にフラれるという事でフリーになった未亜さんに俺がアプローチかけても何も問題は……」
「………それは無理だな」
「なんでだよ!」
「ついさっき、全員から告白された」
「へ?」
「んで、クレア以外の全員から、一番じゃなくてもいいから愛してくれるかって聞かれた」
「な、なぁぁっ!?」
 あまりの驚きに、セルの顔が大幅に崩れる。
 その表情にタイガは爆笑していた。

「まず、クレアと結婚するのは間違いない。あいつはこの国の女王だし、その子供の父親が結婚もしないでフラフラしているわけにはいかないからな」
「そりゃ……そうだな」
「それに第一、俺が他の誰よりもクレアを愛しているのは間違いない。でも、他のみんなだって大切だ。愛してると言い切れる。だから、みんなが望むなら……俺は……」
「ど、どうする気だよ……?」
「全員と結婚するって事も、考えてる」
「ぜ、ぜぜぜ、全員と結婚〜〜〜〜〜〜〜っ!? 未亜さんともなのか!?」
「……正直、迷ってる」
「えっ……?」
「俺は、未亜の事を妹だと思ってる……女として愛しているのと同じくらい、妹として愛している。家族愛って奴なのかな……それに…」
「それに?」
「未亜が妹じゃなくなっちまったら……俺は本当の意味で天涯孤独になっちまうからな……」
「大河……」
 目を伏せる大河の姿にセルの表情もどことなく沈んだ感じになっていく。
 だが……

「と、最近までは思ってた」
「へ?」
「……俺には……もうこいつが居るんだよ……未亜が妹じゃなくなる事を恐れなくても……血を分けた俺の子供が居るんだ……」
 そう言ってタイガの頭を撫でると、嬉しそうに頬を寄せた。
「だから……出来るなら兄妹としての関係でいたいけれど、あいつが兄妹としてじゃなく、ただの男と女として俺と結ばれたいって心から望むなら……あいつとそう言う関係になってもいいと思ってる」
「大河ぁぁぁ」
「悪いな、セル。お前が未亜の事を心底思ってくれている事は俺にだって解ってるけど……あいつが俺を心底愛してくれてる以上、譲るわけには……行かないんだ」

 そう言ってじっと視線を交わらせる大河とセル。
 やがて……
「……ったく、しょうがねぇな……」
 大きなため息をついて、セルはそう言うとドンと大河の胸に拳をぶつける。
「俺にとって未亜さんはかけがえのない人だ。未亜さんが俺を好きになってくれるなら、他の誰もいらない。それくらい未亜さんを愛してる」
「ああ……」
 解っていた。
 初めて会った時から、セルはずっと未亜の事だけを見てきた事を大河は気づいていた。
 それでも……
「俺が望むのはただ1つ…未亜さんの幸せだけだ。未亜さんが笑顔になれるなら俺はなんだってする。命だって賭ける。だから……」

 言いながら、セルはゆっくりと腰の剣を抜く。
 そして大河も……

「来い、トレイター!」

 巨大な救世主の剣、トレイターをその手に構える。

「タイガ、危ないから少し離れているんだ」
「で、でも、なんでちちうえとセルビウムがけんかするの?」
「喧嘩じゃないんだ」
「殿下、下がっていて下さい。これは俺と大河の男と男の勝負なんです」
 いつも見ているのとは全く違うセルの表情。
 それに答えるように剣を構える大河の表情を何度も見ていたタイガは、やがて大きく頷くと大きく離れて2人の姿を見つめ始めた。

「当真大河! お前が未亜さんを任せるに値する男かどうか、俺の剣で判断させて貰う!!」
「ああ、お前の未亜への想い、俺の全力を持ってぶつかってやる! 行くぞ、セルビウム・ボルト!!」

 その瞬間……
 2人の剣が交わり、甲高い音が辺りに響き渡った………




     前話    TOP    次話