DUEL SAVIOR DESTINY SS
『誰を選ぶの?』 
by Sin


(1)

 大河が帰還して一週間が過ぎた。
 あれ以来、破滅のモンスターが王都を襲うことも無く、街は到って平和。
 だが……

「はぁ………」

 丘に寝転がり、大きな溜息をついてただ1人悩む大河の姿が。
「結婚…かぁ……」
 呟いてまた溜息。
「子供ができたって聞いた時から、覚悟はしてたんだけど……まさか、ああ来るとはなぁ……」
 思い浮かべるのは、クレアの事。
 そして……
 次々に浮かんでくるのは頬を赤らめて気持ちを伝えてきたみんなの事……

「いくらなんでも……まさか……なぁ……」

 呟いて目を閉じる大河。
 全ての発端は、帰還したあの翌日。
 クレアとの情事を未亜達に見つかったあの時からだった。


「これは、どういう事かな、クレアちゃん?」
 にこやかに微笑んでクレアの側へと歩み寄る未亜。
 だが、その目は全く笑っていない。

 矢のように鋭い視線の先は、シーツで身を隠すクレアの裸身。
 そして、みんなの一斉攻撃で吹っ飛ばされ、壁にめり込んだままの大河へと突き刺さっている。

「今回は、お兄ちゃんが眠っている間に…って訳じゃないよね…どう見ても」
「う、あ、い、いや、その、それは……」
 未亜の迫力に思わず後ずさるクレア。
「大河くんが帰ってきたら、その時には正々堂々と正妻の座を賭けて戦う……そうでしたよね、クレシーダ様?」
「その、通りだぞ。違えるつもりは無い」
「つもりがないと言っても、その格好では説得力がありません」
「う……何気にお前もきついの……リコ・リス」
「当然です。いくらマスターがクレシーダ様を選んでいたとは言え、私にとってはマスターを寝取られたに等しいのですから」
 淡々と答えるリコの言葉に反論しようとするものの何も言えずに俯くクレア。
 未亜達から突き刺さってくる視線が大河との情事の跡に向けられ、そのあまりの恥ずかしさに耳まで真っ赤に染めてしまうが、どうする事も出来ぬまま、時間だけが過ぎていく。
 寿命が縮む思いをしながら、どれだけの時が流れただろうか。

「すまぬ……皆の気持ちを知っていながら……詫びようが無い。裏切りと罵ってくれて構わぬ。なんと言われようとも私はその全てを受け入れる」
 覚悟を決めたその言葉に一瞬高まる緊張。
 だが……

「……もう、いいよ。クレアちゃん」
「え……? だ、だが、私は……」
 驚きに目を見開いたクレアに微笑みかける未亜。
 さっきまでとは違い、本当の笑顔で笑いかけている。
「未亜……?」
「だって、私がクレアちゃんの立場だったら、きっと同じ事をしてるから……みんなだって、そうでしょ?」
「えっ、え、ええ……まぁ……そうかもしれませんね……」
「否定出来ぬでござるな……」
「確かに……私もそうしていたかもしれません」
「ダーリンに愛されたいって気持ちは、私だって変わらないし…抜け駆けしたいってやっぱり思ってしまうかもしれないわね」
 次々に答えるベリオ、カエデ、リコ、ルビナスの言葉にクレアは戸惑った表情でみんなを見つめた。
 そんな中、未亜はただ1人返事をしなかったリリィにそっと近寄ると……
「リリィ〜」
 物凄い猫なで声で耳元に囁いた。
「〜〜〜〜〜っ!? な、な、何するのよ、未亜っ!!」
「何考えてたのかな〜〜?」
「べ、別にっ!! なんでもないわよっ!!」
「そんな事言って……本当は、一番抜け駆けしたいって思ってたのは、リリィじゃないのかな〜?」
「な、なななななっ!? 何言ってるのよっ!!」
 耳まで真っ赤になって否定するリリィだったが、未亜の怪しい微笑みは益々深まるばかり。
「あはは〜動揺してる〜」
「みっ、未亜〜〜〜っ!!」
 今にも頭から湯気でも噴き出しそうなその様子に、とうとう我慢できなくなったベリオが吹き出し、それをきっかけにリコ、ルビナス、カエデも笑い出してしまった。

「あ、あんた達ねぇぇぇっ!!」
 そして、クレアもまた……
「ぷっ……くく……」
「クレシーダ様!!」
「すまぬ…が、これは……堪えろと言う方が……くく……無理というもの……ぷっ……だぞ……」
「〜〜〜〜〜っ!!」
 みんなから笑われて恥ずかしさに耳まで真っ赤になっていたリリィは、その八つ当たりの矛先を大河に向けようとして振り返った瞬間……

「それもこれもみんなバカ大河の……っ!?」
 硬直した。
「リリィさん?」
 まるで凍結の魔法をかけられたかのような固まりっぷりを見せるリリィに首を傾げたリコが軽く服の裾を引いた瞬間、

 ボンッ!

 爆発。
 人の顔がこんなにも赤くなるのかと思うほど、リリィの首から上は真っ赤に染まっていた。

「ちょ、ちょっとリリィ、どうしたの?」
「大丈夫? …リリィ?」
 慌てて駆け寄ったルビナスと未亜。
 そして、二人が彼女の視線を追って……

「「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!?」」
 声にならない声を上げて、二人揃って硬直してしまった。

 完全に硬直した3人。
 その様子に他の面々も同じ方向へと目を向けて……

「〜〜〜っ!? し、しししししっ!?」
 完全にパニックに陥り、言葉に鳴らない声を上げて真っ赤になるカエデ。
「お、大きい……」
 恥ずかしそうに頬を赤らめて俯きながら、チラチラとそちらへ目を向けて呟くリコ。
「な、なななっ、なんて物を見せてるんですか、大河君〜〜〜っ!!」
 悲鳴を上げてベリオは慌ててシーツを……と思うものの、既にクレアが使っている為に天蓋を引き剥がして大河へと投げつけた。

 クレアとの情事後の寝起きを『襲撃』された大河は、何一つ身に纏う暇すらなく壁に吹き飛ばされて気絶している。
 つまりは……

 完全剥き出し、全開大サービス状態。

「………おお…凄いのぉ……」
「ク、クレアちゃん! そんなにじっと見つめちゃ駄目!!」
 慌てて未亜がクレアの視界を塞ごうとするが、未亜自身、目を離せずにいるので全く説得力が無い。
 そして他の面々もまた……

「そうは言うが、お前達も全く目を離さぬではないか。特にそこで見ないフリをしておるベリオ」
「―――っ!? みっ、見てませんっ! 全然! 全く! 少しもっ!!」
「顔を覆ったその手の隙間から覗いておるのがバレておらぬとでも?」
 クレアにそう言われ、ベリオの顔が耳まで真っ赤になる。
 何も言い返せなくなったそこへ、更なる追い討ちが。

「うわぁ、ベリオさんって結構ムッツリ?」
「真面目なフリして、本当は……で、ござるな」
「未亜さんっ! カエデさんっ!!」

 散々にからかわれるベリオ。
 必死に弁解を繰り返したのだが、結局、皆の評価を覆すには到らなかった。

 そのまましばらく時が過ぎ、完全フリーズ状態からようやく戻ってきたリリィだったが、全身を真っ赤に染めて『ぷしゅぅぅ……』と、頭から蒸気を立ち上らせながら、天蓋に隠された大河とシーツに身を包んだクレアの姿を何度も何度も見つめてぶつぶつと呟いている。
「どうしたの、リリィ?」
「あ、あんなのが……あんな大きいのが……中に……」
 どうやらまだ、完全には戻ってきていないらしい。
「……何を想像…いや、妄想しておるのだ、リリィ・シアフィールド……」
 ジト目で見つめるクレアだったが、自分の世界にトリップしているリリィには全く聞こえていない様子で……

「そんな……あんなの入れられたら……絶対壊れる……」
「お〜い、リリィ殿〜帰ってくるでござるよ〜〜」
「完全に別の世界に行っちゃってる……リリィにはちょっと刺激が強すぎたかなぁ……」
 そう言って苦笑する未亜。
「なんだかんだ言って、この中で一番純情なのがリリィさんだというのが、アヴァターの萌え要素の私としては少々遺憾ではありますが……」
「誰が萌え要素よ、誰が――って……あれ?」
 突っ込み要素満載の言葉に一気に正気に立ち戻り、思わず突っ込んでしまったリリィ。
 だが次の瞬間、自分に向けられた周囲の視線に戸惑ってしまう。

「ど、どうしたのよ、みんな?」
「……で、一体何を妄想していたのだ、リリィ・シアフィールド」
「なっ?」
 クレアの言葉に首をかしげたリリィだったが、その直後、つい先ほどまで自分が浸っていた世界を思い出してしまい、再び一気に真っ赤になる。
「あ、あれはっ! そ、そのっ! なんと言うか……」
 そこまでなんとか言ったものの、それ以上はとても言えず、あまりの恥ずかしさに……
「――――っ! それもこれも……あんたのせいよ!! バカ大河ァァァァッ!!」
 いきなり放たれる魔力の一撃。
 気絶している大河はかわす事も出来ず………

「んぎゃぁぁぁぁっ!?」
『あ―――――――――――――』

 当人達を除くその場に居る全員が呆然とその様子を見つめている。

「え? え? え? ちょ、ちょっと大河!? 真の救世主なら避けるなりなんなりしなさいよ―――っ!!」
『無理無理……』
 混乱しきったリリィの叫びに、いつしか皆の心は1つになっていた……




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