DADDY FACE SS 『雪人の悩み<改>(9)』
by Sin



  あれから2週間。
 ドーラの部屋にかくまわれていた雪人だったが、FTIの追跡をいつまでも逃れることが出来るわけもなく、すでにその所在は美沙達の知る所となっていた。

「へぇぇ・・雪人ってば、ちゃっかりしてるわねぇ・・ドーラの所に逃げ込むなんて」
 頬杖を付いてモニターを見ながら楽しそうに言った美沙に、冴葉の声がかかる。
「いつでも拘束する用意は出来ていますが?」
「う〜ん、まあ、とりあえず変な女の所に行ってるわけでもないみたいだし、今のところはほっておいていいんじゃない?」
「そうですか・・わかりました」
 その冴葉の返事に、美沙はなぜか違和感を感じた。

「冴葉?」
「はい、なんでしょう、ボス」
「・・・えっと・・なにか・・やる気だった・・?」
 恐る恐る聞いた美沙だったが、冴葉は意味深な微笑みを帰すだけ・・
「(う・・こ、恐いって・・その笑顔・・)ま、まあいいけど・・。とりあえず、監視だけは続けておいて」
「了解です」
 そう言って部屋を出て行った冴葉の背中を見送って、美沙は大きな溜息をついた。

「冴葉って・・時々なに考えてるかわかんない・・」
 モニターを見つめながら呟く美沙の額には、でっかい汗が浮かんでいた。

 その頃、雪人は・・

「いいって! 1人で出来るから!!」
「駄目デス! じっとシテ」
 延々と同じ問答を繰り返すこと、すでに30分。
「ホラ、じっとしてテくださイ」
 とうとう、しびれを切らしたドーラが実力行使に出た。
「ちょっ、や、やめろって!!」
 慌てる雪人に抱きつき、その背中に手を回す。
 そして・・・・

 濡れタオルで、雪人の身体を拭き始めた。
「じ、自分でやるって!!」
「怪我人ハ大人しくシテてくだサイ」
 そう言いながら手早く拭いていくドーラ。それもしっかりと抱きついたままでいるから、雪人の顔は真っ赤に染まっている。
「も、もういいから・・」
「駄目デス、ちゃんト拭かないと風邪ひきますヨ、雪人さン」
「ひ、ひくならとっくにひいてると思う・・」
 そう呟いた雪人だったが、ここ数日のドーラは妙に積極的で、結局押し切られてばかりだった。
 結局なにも出来ないまま、時間だけが流れ・・
「えっト・・このくらイ・・カナ?」
 そう言ってドーラは雪人を離した。ようやく解放されて、慌てて距離をとる。

「どうしたノ? 変な雪人さン・・じゃア、下の方も拭いてしまいまショ。ズボン脱いでくださイ、雪人さン」
 いきなりの言葉に、雪人の顔は耳どころか首の辺りまで真っ赤に染まる。
 大慌てでその場から逃げ出そうとするが、まだ完全ではない身体では、すぐに追いつかれてしまった。
「まだ動き回っちゃ駄目ですヨ」
 微笑んでそう言うドーラの瞳の奥に、メラメラと燃える炎が見えたのは、雪人の気のせいだろうか・・。

「あ、あのさっ!!」
「ハイ?」
「な、なんかここ数日、急に積極的すぎる気がするんですけどっ!!」
 その雪人の言葉に、ドーラは意味深な笑みを浮かべた。
「教えて貰いましたかラ・・」
「な、なにをっ!?」
「男性をオトすなラ、決定的な状況を作るのが一番っテ・・」
 そう言って頬を染めながら抱きついてくるドーラに、雪人は大慌てで言った。
「だ、誰がそんな恐ろしいコトっ!!」
「美緒と、冴葉サン」
「よ、よりにもよって、なんであの2人に・・」
「経験豊富そうだったカラ・・」
 少し恥ずかしそうに答えるドーラ。思わず肩に手をかけてしまいそうになって、雪人は慌てて距離をとる。

「頑張っテ雪人さンのお世話しますカラ・・元気になったラ・・そノ・・」
 耳まで真っ赤になったドーラに、思わず息を呑む雪人。

「ソノ・・・アノ・・・」

 必死に言葉を紡ごうとする様子に、雪人は全く動けなくなっていた。
 そして・・・

「え、えっと、ドーラ?」
「わ、私とッ!!」
「は、はいっ!?」
「デ、デ、デート、シテくださイッ!!」
 その瞬間、2人の時間が止まった。

 雪人の混乱しきった頭の中で、ドーラの言葉が少しずつ整理されて・・
 そして数分後、ようやく2人の時間が動き出す。

「えっ、デ、デート?」
 そう聞かれて、コクコクと頷くドーラ。
「いい・・けど?」
「ホントですかッ!? ホントに、ホントにッ!?」
「あ、ああ。デートするくらい・・構わないけど・・」
 雪人がそう言った途端、ドーラはまるで糸が切れたかの様に、その場にへたり込む。
 そのまま呆然と雪人を見上げ、完全に放心状態。
「お、おい、大丈夫か?」
 心配になって聞いた雪人にもコクコクと頷くだけ・・

 結局それから2時間もの間、ドーラの放心状態は続くのだった。








 
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