DADDY FACE SS 『雪人の悩み<改>(6)』
by Sin



 轟く爆音と舞い上がる土煙。
 樫緒の張ったシールドの中で、美沙と美花はその様子を呆然と見つめていた。
「う・・嘘・・・と、虎雄っ!!」
「父さまぁ! 雪人兄さまぁ!!」
 今にも駆け出しそうな美花を慌てて樫緒が押さえる。
 樫緒も、さすがにあれほどの力の直撃を防いだ為、息が荒い。
「まさか・・父さん・・」

 その時、間延びしたような声が当たりに響いた。
「けほけほ・・あっれぇ? また消えちゃった・・・」
 そう言ってきょろきょろと辺りを見回す美緒。

「樫緒・・シールド消して」
「あ、は、はい、姉さま」
 慌てて樫緒がシールドを消すと同時に、美沙は一気に美緒に駆け寄ると、その頬に平手を叩きつけた。
「きゃんっ!? お、お姉ちゃん?」
 突然、頬を叩かれて、思わずしりもちをついた美緒は、呆然と美沙を見上げた。

「な、なんで? なんで叩くの・・?」
 涙目でそう言う美緒の頬をもう一度叩く美沙。
「お、お姉ちゃん・・なんで叩くの・・う・・ひっく・・・」
「なんで・・なんて言わせないわよ・・」
 睨み付けてくる美沙の表情に怯えたように美緒は身をすくませる。
 だが、その美沙はその襟首を掴んで引きずり起こすと、怒鳴りつけた。
「あんたは・・今なにをやったかわかってるの!? あんたが・・見境無しに『天地竜杞憂』なんて使うから・・虎雄が・・鷲士くんが・・っ!!」
「姉さま、雪人のことを忘れていますが・・」
 樫緒がそう呟くが、激昂している美沙の耳にはまったく届かない。
「え、えっと・・? 虎雄さんと・・お父さんが・・どうしたの?」
 状況がわからず、首を傾げる美緒。だが、その様子に美沙は怒りを爆発させた。

「・・・あ、あんたは・・・・っ!」
 それ以上はもう言葉にならなかった。
 込みあげてきた涙が、美沙から言葉を奪ってしまったのだ。
 そしてもう一度振り上げられた手・・。
 美緒はまた叩かれると思い、固く目を閉じた。
 だが・・・

「・・・そこまでにしておこうね、美沙ちゃん」
 その声に、美沙の動きが止まる。
 そして・・ゆっくりと振り返った先には・・・

「・・俺・・・なんとか・・生きてたみたいだな・・」
「心配させちゃったね、美沙ちゃん」
「・・し、死ぬかと思った・・・」
 そこには、粉塵の中、傷だらけで立つ鷲士達の姿があった。

「鷲・・士・・くん・・・」
 思わず掴んでいた手が緩み、美緒はまたしりもちをついた。
「虎雄・・・」
 呆然としたまま、ゆっくりと虎雄に向かって近づいていく美沙。

「・・虎雄・・・・虎雄・・・っ・・・」
 少しずつ、その歩みが早くなって・・・

「わりぃ・・美沙、心配させたな」
 そう・・微笑みかけられた瞬間・・

「虎雄ーーーーーーっ!!」
 全力で駆け寄った美沙は、その勢いのまま虎雄に抱きついた。
 服が汚れるのもかまわず、埃まみれ、血塗れの虎雄に縋り付いて泣きじゃくる。
「バカ! バカバカッ!! 心配・・したんだからっ!!」
「・・美沙・・」
 腕の中の美沙をしっかりと抱きしめて、虎雄は優しく美沙の頭を撫でていた。

 2人の様子を、微笑ましげに見ていた鷲士だったが、ふと目の前で呆然としている美緒の様子に気付いて、歩み寄った。

「・・・お父さん? え、えっと・・・」
 不安げに鷲士を見つめてくる美緒。
 だが、次の瞬間、激しい音と共に美緒はその場に頭を抱えて蹲った。

「い、いったぁぁぁぁい!!」
「痛くて当たり前だ! 兄妹に向かって、一体これはなんの真似! 一歩間違えたら、雪人君も虎雄君も死んでたんだよ!!」
「お、お父さん・・・」
 滅多に怒ることのない鷲士に怒られて、美緒は瞳を潤ませる。
「泣いたって駄目!!」
「う・・だって・・だってぇ・・お姉ちゃんが・・雪人兄ちゃん見つけたら・・すぐに・・天地竜杞憂しろって・・だから・・だからやっただけなのにぃ・・・う・・ひっく・・・ふぇぇぇぇぇん!」

 そう言って泣き出した美緒。
 美沙も、自分が言ったことを思い出し、なんとなくばつの悪そうな顔をして、泣きじゃくる美緒を見つめた。

「美沙ちゃん・・・」
 鷲士にじろりと睨まれて、美沙は身をすくませて虎雄の陰に隠れた。

「はぁ・・まったく・・・君達は限度を知らなすぎる。僕はこんな兄妹喧嘩・・いや、もうこんなのは兄妹喧嘩じゃない・・こんな風に傷つけ合わせる為に、九頭竜を教えた訳じゃない・・」
 悔しそうに言う鷲士の様子に、その場にいる全員が言葉を失った。

「・・・もし・・これ以上、君達が傷つけ合うって言うなら・・その時は・・僕が相手になる・・」
「しゅ、鷲士くん・・やだよそんなの・・私・・鷲士くんが敵になっちゃうなんて・・絶対やだ!」
「師匠・・俺だって師匠と敵対するなんて絶対に嫌だ。俺にとって師匠は・・本当の父親以上に・・」
 美沙と虎雄はそう言うと、鷲士の側に駆け寄った。

 そんな中、ずっと泣きじゃくっていた美緒を、美花が優しく抱きしめた。
「美緒ちゃん、もう泣かないの」
「お姉ちゃん・・」
「お父さんのゲンコツ、痛かった?」
「うん・・ひっく・・ミサイル100発食らったときより痛かった・・」
 涙目でそう言う美緒に、美花はクスクス笑うと・・
「じゃあねぇ・・・いたいの〜いたいの〜とんでけ〜〜♪ ほら、もう痛くないよ」
 そう言って優しく撫でてくる美花に、美緒は涙目で呟いた。
「・・・やっぱり痛いの・・」
 頭を抱えて瞳を涙でいっぱいにしている美緒の様子に美花はしばらく考え込んでいたが、やがて・・
「え〜っ、おかしいなぁ・・・あ、きっと美緒ちゃんがしなくちゃいけないことをしてないからなんだよ」
「しなくちゃ・・いけないこと?」
「みんなに、ごめんなさいってすること」
「でもぉ・・あれはお姉ちゃんに言われたから・・」
 そう言ってぐずる美緒を優しく撫でながら、美花は言った。
「やっちゃったのは美緒ちゃんだよね? だったら、まずはそれをあやまんなきゃ。ねっ」
「う〜っ・・」
「ほ〜ら、美緒ちゃん」
「・・・う・・うぅ・・・ご、ごめんなさい・・・」
「はい、よくできました」
 その美花の言葉に、美緒はようやく涙に濡れた顔で笑った。









 
 戻る    次頁