DADDY FACE SS 『雪人の悩み<改>(5)』
by Sin



 ドーラの家へ向かう雪人。
 当然周りへの警戒も怠っては居ないが、美緒ならばともかく、美沙の衛星攻撃を気配で読み取る事はほとんど不可能。
 それにレーザー光線だから、無音。
 一瞬でもやばそうな予感がしたら、即座に判断して動くしか逃れる術はなかった。
「はぁ・・はぁ・・ったく・・このままじゃ、ドーラの家に着く前に・・・うわっと!」

 一瞬、視線の端に赤い光を捕らえた雪人は、横っ飛びにその場を飛び退く。

「あ、あっぶねーっ、今のはマジにやばかった・・って!?」

 なんとかレーザーをかわして安心した雪人をあざ笑うかのように、じわじわとレーザーが雪人に近づいてくる。

「じょ、冗談じゃねえぞっ! いくら九頭竜だからって、こんな大出力のレーザーなんて弾けねえっ!!」

 慌てて逃げ回る雪人をレーザーがどこまでも追いかけてくる。
 その通過点にある物を、すぱすぱと切り捨てながら・・

 そして・・・逃げ始めてから30分が経過した。

「た、確か、草薙は30分間しか、連続照射ができなかったはず・・そろそろ・・」

 雪人がそう思ったその時、唐突にレーザーが消えた。

「・・・ジャ、ジャスト・・30分・・し、死ぬかと・・・なっ!?」

 安心して座り込もうとした雪人に、突然上空から襲い来る影が・・・

「女の怒り〜っ!! くっらえーーーっ!!」
「た、対艦ミサイル!? そこまでやるかよっ!!」

 ハリアーから発射された対艦ミサイルが雪人に迫る。だが・・・

「ダメーーーーーーーーーーっ!!」

 その声と共に、対戦ミサイルはくるりと向きを変え、ハリアーの横を通り過ぎて上空で爆発、四散した。
「な・・・なんだ・・・?」
 目の前で起こった出来事に呆然としながら、背後の声に雪人が振り返ると、そこには小さな子犬を抱いた美花の姿があった。
「み、美花? どうして・・・」

「美沙姉さま、雪人兄さまのこといじめちゃダメ!! みんな仲良くなの!」

 うるうると目を潤ませながら言う美花。その横にはまるで美花を守るかのように、樫緒の姿もあった。
「う、うっるさーい!! しっかりお仕置きしなくちゃ駄目なんだからっ!!」
「お仕置きしなくちゃいけないのは・・君の方だよ、美沙ちゃん」
 唐突に横から聞こえてきた声。驚いて振り向くと、なんとキャノピーの向こう側に、鷲士の姿が・・

「しゅ、しゅ、しゅ、鷲士くん!? い、いつの間に・・」
「蓮華歩舟で、ハリアーの進行方向に駆け上がってきたんだよ。最近出来るようになったから」
「で、出来るようになったって・・・」

 あまりの出来事に美沙は絶句。
 だが、その様子を下で見ていた雪人は更に驚きを隠せずにいた。
 自ら九頭竜を学び、それなりに実践していたつもりが、まだまだ上には上がいると言うことを、まざまざと見せつけられたからだ。

「とりあえず、もうこんな事は止めるんだ。こんなの、もう姉弟喧嘩なんかじゃない。いくらお姉さんでも、やって良いことと悪いことがあるんだ。見てごらん。さっきまで君が撃っていたレーザーの為に、周りの人達があんなに迷惑しているんだ」

 そう言われて、初めて辺りの様子を見回し、その惨状に美沙はうつむく。

「自分がしたことが解った? もうしない?」
「で、でもぉ・・雪人が・・」
 なおも食い下がろうとする美沙だったが、次の瞬間、更に絶句した。
 目を上げた瞬間、真っ正面の空中に、虎雄の姿を見たからだ。
「と、虎雄っ!? な、なん・・・あ、あんたがなんで・・・・」
「向こうのビルから飛び降りて、目の前に蓮華歩舟してた。師匠みたいに駆け上って来れないからさ」
 そう言って苦笑する。

 軽く、ハリアーのノーズに乗ってくる虎雄。
「美月ちゃんから話は聞いたよ。もうここいらで良いだろ。美月ちゃんは雪人のこと、許したって言ってたぞ」
「え・・・美月が・・?」
「僕達に連絡をくれたのも美月ちゃんなんだよ。どういう事なのか事情を説明してくれて、もうそろそろ雪人くんのことを助けてあげてってね。このままだと、ドーラちゃんに会う前に大怪我しそうだからって」
 鷲士のその言葉に美沙はしばらく考え込んでいたが、やがて大きく溜息をつくとトリガーから手を離した。

「解ったわよ・・・とりあえず・・ドーラがなんて言うか、聞いてからどうするか決める・・・冴葉」
『はい』
 美沙の声に反応して、目の前のモニターに冴葉の姿が映った。
「今の話、聞いてたよね?」
『はい、全て聞いていました』
「んじゃ、あとのことよろしく」
『了解です、ボス』
 その言葉と共に冴葉の姿が消えると、美沙はゆっくりとキャノピーを開いた。
 それと共に、激しい風が顔に吹き付けてくる。

「(まったく・・鷲士くんも虎雄も、どうやったらこんな風の中で話なんて出来るのよ・・)」
 そう思いながらも、美沙はハリアーを自動操縦に切り替えて、虎雄の手を取った。

「じゃあ、降りようか、虎雄くん。美沙ちゃんと一緒で、大丈夫かな?」
「降りるだけなんで、大丈夫です」
 虎雄の言葉に頷くと、鷲士はまるで階段を下りるかのように空中を歩き始めた。虎雄も美沙を抱きあげて、ゆっくりと落下速度を抑えながら降りていく。やがて、3人は地上へと降り立った。

 その様子を呆然と見ていた雪人だったが、唐突に背後から小突かれて地面に突っ伏した。
「・・ってぇぇっっ!! な、なんだぁっ!?」
 打ち付けた額を抑えながら、雪人が振り返ると、そこにいたのは不機嫌そのものと言った表情の樫緒・・
「あ、兄貴、一体何を・・」
「雪人・・貴方がもっとしっかりしていれば、美花がこんな危険なことをする必要など無かったのです! 反省しなさい!」
「う・・」
 何も言い返せず、うつむくしかない雪人。
 だが、救いの手は再び差しのべられた。

「樫緒兄さまぁ、雪人兄さまのこといじめちゃダメ〜」
 腕に縋りついて訴える美花の様子に、一瞬にして崩れた氷の表情。
 だが、状況を思い出して樫緒は、すっかり緩みきってしまった顔を無理矢理引き締めて言った。
「・・・美花は優しいですね・・仕方ありません・・雪人、美花に免じてこの場は許してあげます。二度と、美花を危険に巻き込むようなことはしないように」
「あ、ああ、わかった・・(・・最強のシスコンだな・・)」
「なにか言いましたか?」
「い、いやっ、な、何もっ!!(じ、地獄耳・・)」
「・・・まぁ・・いいでしょう・・」

 樫緒がそう言って、美花に振り返ったその時だった。

「見つけたーーーーーっ!!」

 天から降ってきた声に全員が空を見上げる。

「み、美緒!?」
 慌てて逃げ場を探すが、周囲には鷲士や美沙達もいる。
 このままみんなを置いて逃げるわけにも行かず、雪人は立ちつくした。

「くっ、状況が見えていないのですか!? 美花、姉さま、早くこちらに!!」
 樫緒は2人を呼び寄せると、結城の力で3人分のシールドを張った。
「ちょ、ちょっと樫緒! 虎雄と鷲士くんはどうするのよ!!」
 慌てた美沙の言葉に樫緒は2人を振り返ると・・

「父さん、そちらはお任せします」

 その言葉に鷲士も虎雄も、そして雪人も青くなる。

 そして・・・

「くっらえぇぇっ!! 天地竜杞憂っ!!」

 美緒の、必殺の一撃が放たれた・・・・














 
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