DADDY FACE SS 『私だけのお父さん(加筆修正版)』
by Sin



辺りが静寂に包まれた中、音も立てずにスウッと襖が開き、ひょこっと
美沙が顔を出した。
鷲士と共に暮らすようになってから、美沙は夜中に不意に寂しくなると
こうして鷲士の所へやってくるようになっていた。

だが、その様子は怪しい。
鷲士に気づかれまいとするかのように気配を消し、足音を忍ばせてゆっくりと
近づいていく。

初めは、ちょっと鷲士を驚かすつもりだった。
自分に気づかない鷲士にいきなり抱きついて、驚かそうと・・だが・・
「ゆうちゃん・・・」
夜の闇に溶けていく言葉。
と、その閉ざされた瞼から一滴の涙がこぼれた・・・

「鷲士くん・・・」
いつもは見せる事のない父の涙・・・
でも、美沙は知っている。
彼がいつも心の中で涙を流している事を・・

だから美沙はいつものように父に甘える。
彼の心を少しでも癒せるように・・・
そして自分の寂しさを埋める為に・・・

「鷲士くん・・起きてる?」
眠っている事は解っているのに、わざと聞いてみる。
そうすれば、鷲士が起きてくれる事を知っているから。
「う・・ん・・・・美沙・・ちゃん?」
「あ、起こしちゃった?」
寝ぼけ眼で起きあがる鷲士の側に、わざと子供らしくトテトテと駆け寄る。
「どうしたの? 眠れない?」
心配そうに聞いてくれる鷲士・・
ずっと側にいて欲しかった、お父さん・・・
「鷲士くん・・一緒に寝ても・・いい?」
そう言えば、鷲士は断ったりしないと知っている・・・
でも、もしも断られてしまったら・・大好きな鷲士に拒まれてしまったら・・
それが怖くて、美沙はいつもこの瞬間、ぎゅっと枕を抱きしめる。

「いいよ。ほら、こっちにおいで」
そう言って自分の横に招いてくれる。
「うん」
美沙だって、もう中学生だ。
お父さんと一緒に寝るのはちょっと恥ずかしい。

− でも、今まで一緒にいられなかったんだからいいよね・・
そう思い直して、スッと鷲士の横に身体を滑り込ませる。

「鷲士くん・・・」
美沙は、時々ちょっと不安になる。
今こうして側にいる時、彼は私を見てくれてるのか・・・
それとも、私の姿に、母の姿を見ているのか・・・
そう思いながらも、確かめる勇気が出なくて聞く事が出来ない・・・
「どうしたの?」
不思議そうに見つめてくる鷲士。
言葉に出来ない気持ちが身体を動かして、鷲士の胸に抱きついた。
「美沙・・ちゃん?」
鷲士が戸惑うように聞いてくる。
頬が赤く見えるのは、灯りの所為ばかりではないだろう。
「今は・・私を見ていて・・」
「えっ?」
美沙の言葉に、鷲士は戸惑う。
「鷲士くん・・今日は・・このまま抱きしめていて・・・」
「え、えっと・・・」
潤んだ瞳で見つめられて、鷲士の顔は真っ赤に染まる。
彼の胸が高鳴っていくのを頬に感じて、美沙は少し嬉しくなった。
「私のこと・・嫌い?」
最終兵器を持ち出して、鷲士に迫ってみる。
「う、ううん、大好きだよ」
「だったら・・ね。今晩だけ・・ぎゅっと抱きしめてて・・・」
「・・・・わかった・・今晩だけだよ・・」
そう言って優しく抱きしめてくれる鷲士。
その温もりが嬉しくて、美沙は頬を彼の胸に預けてゆっくりと眠りについた。

今だけは・・・私だけの・・鷲士くん・・だよ・・・


後日・・

毎度のように美沙に縋ってくる美貴だったが、なかなか進展しない二人の関係に
苛立った美沙が美貴をからかっていた。
「もぉ・・美貴ちゃんがぐずぐずしてると、私が鷲士くん取っちゃうよ〜?」
「ちょ、ちょっと、美沙・・」
だが、その後の一言がまずかった。
「はぁ・・あの夜の鷲士くんの温もりが忘れられない・・」
その瞬間、美貴の目つきが変わった。
「美沙? あの夜・・って?」
そう言ってそっと美沙の首に手を回してくる美貴。
身の危険を感じて一目散に逃げ出した美沙だったが、美貴は恐ろしいほどの早さで
迫ってくる。

人の間をくぐり抜け、障害物を跳び越え、様々な目くらましをかけて逃げるが、
美貴はそのすべてをはじき飛ばして追いすがってくる。
「もぉ、いい加減にしてよ〜美貴ちゃん」
「う〜っ、しゅ〜くんは私のなんだぞ〜、なのに〜、なのに〜」
「はぅ〜・・・助けて鷲士く〜ん、ガミガミ大魔王が追ってくるよ〜」
不用意な一言から、鷲士との夜の事を知った美貴に、延々5時間も追い回された
美沙だった。





                     
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