DADDY FACE SS
『鷲の卵を握りしめて〜草刈鷲士物語〜

 by  Sin


第2話

 なにか…音が聞こえる……

 すごく遠いみたいな……ううん……やっぱりすごく近く……

「坊や! しっかりするんだ! 坊や!!」

 ……呼んで……る?
 僕を……呼んでる………?
 誰……?

 そして僕は……目を覚ました……

 開いた瞳に一番始めに映った物…
 それは初めて見る光景…
 とても白くて…寂しい風景……

 どこ…だろう……?

「坊や!! 気がついたのかい!?」

 ……この……おじさん……?
 僕を……ずっと呼んでいたのは……

「よかった! 本当によかった!! 一時はもう助からないんじゃないかと心配したよ」

 そう言って僕の頭を撫でてくれる…とっても優しそうなおじさん……でも……

「……おじさん……誰……?」

 僕が聞くと、おじさんは「まだ20代なんだから、おじさんは勘弁してくれよ〜」そう言って笑った。

「坊や、君の名前は?」
「……しゅうじ…」
「しゅうじくん…しゅーくんだね。じゃあ、名字は…解るかな?」

 名字ってなんだろう…?
 解らなくて横に首を振ると、おじさんは「う〜ん、わからないか…」って、なんだか残念そう…

「ここ…どこ?」
「病院だよ。君は、この先の山で崖から落ちて、途中の岩棚に引っかかっていた所を助けられたんだ」
「崖……?」
 その瞬間、僕の頭の中に、お母さんの声が響いた。

− 待っててね……しゅうじ……

「あ……ああ……」
「どうしたんだい、しゅーくん?」

<< 捨てられた >>

「あう…あ……あぁぁっ………」
「しゅーくん! しゅうじくんっ!!」

<< いらない子なんだ >>

「ああああぁぁぁぁあぁぁぁぁっ! うあぁぁっ、わぁぁぁあああぁあああぁっっ!!」

 叫ぶ……
 喉が裂けてしまうくらいに…
 お母さんの言葉も……あの嫌な声も……全部……消えてしまえばいいんだ……

 胸の中が黒く染まっていく……

 楽しかったことも……
 嬉しかったことも……
 哀しかったことも……
 
 みんな……みんな……消えていく………

 これで、もう苦しくなくて済むんだ…

「しゅうじくん! しっかりするんだ!!」

 誰かがなにか言ってるみたい…
 でも……いいや……

 もう……どうでもいい……

 どうでも……

「坊や!!」

 その瞬間、僕は何か暖かい物に包まれた……

「泣いていい! 泣いていいんだよ! ずっとこうしててあげるから! だからいくらでも泣きなさい!」

 暖かい……

 なんだろう……

 もう……どうだっていい……はず……なのに……

 胸の奥の方が……暖かくなって……

「なんにも恥ずかしい事なんてないよ…ほら…泣きたい時には我慢なんてしなくていいの…いくらでも泣きなさい……いくらでも甘えなさい……私が側にいてあげるから…こうして、抱きしめててあげるから……」

 なにかが……込みあげてくる……

「貴方は1人じゃない…こうして私達が一緒に居るんだから……ね、しゅうじ」
「――っ!?」
 
 その言葉が、僕の中で弾けた。

 ゆっくりと見えてくるのは優しそうな女の人……

 さっきのおじさんも、心配そうにその後ろで見つめてる……

「う……う………うぁぁ……うああああぁぁっ……ひっく……ひっく………」

 真っ黒になっていた僕の胸の中が……いっぺんに光に包まれた……

 抱きしめられたまま、僕は……

「うぐぅ……ひっく……わああああああああぁぁぁっ、ああああぁぁぁあああぁぁあっ!!」

 溢れ出してきた想いと一緒に……泣いた……

 ギュッと抱きしめてくれる胸の暖かさに包まれて……
 涙と一緒に…何か嫌なものが……流れ出ていくような気がする……

「ずっと側にいてあげるからね……しゅうじ……」

 優しそうな女の人の声に、僕は…いつしか眠ってしまった……





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