DADDY FACE SS
『鷲の卵を握りしめて〜草刈鷲士物語〜

 by  Sin


第1話

 白い…

 白くて…お母さんの顔が見えない……

 見えているのは…僕の手をしっかりと握った、お母さんの白い手…
 いつも僕を抱きしめてくれたお母さんの優しい手…

 白い世界…
 むせかえりそうなくらいに濃く、ミルクをこぼしたみたいに真っ白な世界…

 ゆらゆらと揺らめきながら、白い世界は僕を包み込む……

 それは…霧…

 目の前になにがあるのかすら分からないくらいに立ち込めた霧…

 霧が…僕とお母さんを引き離してしまうみたいで…

 怖い…

 怖くなって…僕はお母さんに呼びかける…

「ねえ、お母さん…どこに行くの?」
「もう少し…だから頑張ってね…」
「うん……」

 お母さんに励まされて、僕は頑張って歩く…
 
 だんだん足が痛み出した。

 どれくらい歩いたんだろう…

 足が痛い……

 もう…歩けない……

 座り込んでしまった僕を、お母さんはそっと優しく抱きしめてくれた。

「シュウジ…もう……歩けない?」

 哀しそうな声…
 僕を抱きしめてくれてるお母さんの身体が……震えてる…

「……じゃあ…お母さんはこっちに行くけど……待っててね…」
「えっ、お母さん……」

 お母さんの手が離れていく…
 僕の身体からお母さんの温もりが…消えていく…

「や、やだ! お母さん、行かないで!!」

 必死に追いすがろうとする僕。
 でも…

「お願い、待ってて! お願いだから!!」

 まるで泣いてるみたいなお母さんの声に、僕は思わず立ち止まった。

「シュウジ……っ……」

 霧の向こうにお母さんが消えてしまう…
 怖くて……泣きたくて……

 でも……お母さんが待っててって言ったから……
 僕はずっと待ってた…

 周りが段々暗くなってきて……
 でも、霧は全然無くならなくて……

 足が痛くなったから座りたかったけど…べたべたしてて気持ち悪い…

「っく…ぐすっ……お母さぁん……足痛いよぉ……」

 寂しくて……痛くて……
 どうしても我慢できなくて……

「お母さぁん…どこにいるの……お母さぁぁぁん!」

− お母さんはこっちに行くけど…

 そう言っていたから…僕はお母さんが行っていた方へ歩き出した…
 でも……

「え………っ!」

 ちょっと足を踏み出した途端……
 そこには…

 なにもなかった……

「ーーーーーーーーーーーっ!?」

 声にならない叫び。

 必死にどこかに捕まろうとして、僕はなにかを握りしめた。

 だけどそれでも落っこちるのは止まらない…

「お…お母さぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんっ!!」

 その瞬間…
 僕は掌と肩に鈍い痛みを感じて…
 そして…

 激しい音と共に、どこかに叩きつけられた……

「ぎゃあああああああああああああああああああっ!!」

 それが痛みだって事……初めはわからなかった……
 だって……こんな……こんな痛み……知らない…

「あ…ああぁぁっ、あうぁあぁぁぁっ!!」

 叫ぶ……何度も……何度も繰り返し……

− 待っててね……シュウジ……

「お母さん……う…くぅぁあぁぁっ…お母さんッ……」

 お母さんの言葉が……僕の中で渦巻く……

− 待っててね……

 その時、不意に僕の中でひとつの言葉が出来上がる…

<< 捨てられた >>

「ひぐっ……」

 自分で考えたことなのに……
 痛いことも忘れて、僕は何度も首を横に振った。

「違う! 僕は……僕はっ……」

<< いらない子なんだ >>

「違う! 違う違うッ!! お母さんが……そんな……そんな事ッ!!」

<< 手…離せば…? みんな…終われるよ…… >>

「やだ……やだぁぁっ!! お母さん! お母さぁぁぁぁん!!」

<< 無駄だよ……僕は…捨てられたんだ…… >>

「違う! 違うッ!! お前なんか……お前なんか消えちゃえ……消えちゃえぇぇぇぇっ!!」

<< 捨てられたんだ……いらない子なんだ……捨てられた……いらない子……捨てら…… >>

「うわああぁぁぁぁぁああぁっぁぁぁぁぁぁああぁっ!!」



 喉が裂けてしまいそうなくらいに叫んで……
 僕は…なにも解らなくなった……





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