DADDY FACE SS 『翔仔の海』
by Sin



− 大ちゃん・・・わたし・・わたし・・死にたくないよう・・
「う、うう・・・翔仔ぉっ!!」
飛び起きて辺りを見回す。
だが、そこは見慣れた病室だった。
「夢・・か・・・」
古谷は机に立てかけてある写真を手に取った。
そこには高校生くらいの少女・・・翔仔の姿があった。
かつて、古谷はこの翔仔と愛し合ったが、巨大な存在によって
2人の人生は滅茶苦茶にされ、絶望の中で共に死ぬ事を選んだ。
だが結果は・・自分一人だけが生き残り、翔仔は海に消えた。

それから10年・・
「まさかお前にまた会えるなんて思わなかったよ・・翔仔・・」
そう言うと古谷はあの日の事を思い出す。

共に身を投げた時に翔仔が身につけていた古谷のジャンパー
それを身につけた少女は突然、彼の元にやってきた。
もちろん、初めはそれが翔仔だなんて思いもしなかった。
「だが、あいつが・・草刈が教えてくれたんだ・・・」

− 一緒に来て下さい、冬海ちゃん−いや、備藤翔仔ちゃんを、
なんとか救うために!

助けたかった・・・
もう二度と失いたくなかったから・・
だけど・・あいつの身体はもう・・・
残る頼みの綱は、人魚の肉・・・それしかなかった・・

あいつらは・・草刈達は本当に俺と翔仔のために頑張ってくれた・・
いくら礼を言っても足りないくらいだ・・・

普段はぼけっとしているくせに、いざとなったら俺なんかよりもずっと
強かった草刈・・あいつには本当に世話になった・・
あいつの娘・・美沙とか言ったな・・・あいつにも世話になった・・
それに草刈の息子・・樫緒・・だったか?
きつい事平気で言う奴だったが・・あいつがいなけりゃ、きっと今頃
翔仔は泡か水になって消えちまってただろう・・・
それに・・美貴・・とか言ったな・・あの美沙と樫緒の母親・・・
草刈には内緒にしていてくれって事だったが・・あれからあいつら、
どうなったんだろうか・・・

あいつらが頑張ってくれたおかげで・・翔仔は笑って死んでいけた・・・
だけど、翔仔は完全に死んじまったわけじゃねえ・・
この海の底で・・俺達があいつを救う方法を見つけるのを・・ずっと
待ってるんだ・・

霧に包まれた海を見つめながら古谷はたばこに火をつけた。
− 10年かぁ・・ブランク感じちゃうなぁ・・
「あんまり遅くなると、あいつ、もっとブランク感じちまうな」
そう言って笑った古谷だったが、1つ大事な事を思い出した。
「・・って、あんまり遅くなったら、俺、爺さんになってから
高校生の嫁さん貰う事になるのか!? ・・・それは勘弁だぞ
・・草刈・・頼む・・早く翔仔を助ける方法、見つけてくれ・・」

そう言うと、古谷はたばこの火を消した。
そして表に出ると、ガレージの中からバイクを引き出す。
妙にマフラーだけが赤いバイク・・
翔仔から送られた勘違いの赤いマフラー・・・
そのバイクに乗って、古谷は海岸線をいつものように走る。
ただ一つの思いだけを込めて・・・

「翔仔、絶対にお前をこいつに乗せて一緒に走るんだ! だから
絶対に帰ってこいよ!!」
古谷の叫びは、波の音にかき消される。

だが、遙か海の底・・・
そこで静かに眠り続ける翔仔は、本当に楽しそうに微笑んでいた・・・





                     
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