DADDY FACE SS 『翔仔伝説 (7)』
by Sin



あれからしばらくして・・私はまた激しい痛みに倒れた・・
朦朧とする意識の中で、大ちゃんが私の身体を調べていたことだけは・・覚えてる・・
すごく・・怖い顔してた・・・そんなに・・私・・悪いのかな・・
でも・・大ちゃんがお医者さんなんて・・なんだかおかしい・・

どれくらいの時間が過ぎたのだろう・・
ふと気付くと、私は布団の中にいた。
辺りを見回してみても、誰もいない・・

ちょっと不安になった私は、そのまま紬屋を出て辺りを見回す。
と、その時、私は一台の車に目を惹かれた。
「うわぁ・・すごい車・・・」
すごく興味が惹かれた私は、車の周りをうろうろしながら、中を覗き込んでいた。

「翔仔、どこにいるんだ!? 翔仔!?」
ふと、背後から聞こえてきた声に気が付いた。
「大ちゃ〜ん、こっち・・・」
「・・・翔仔!? そ、外なのか!?」
声が聞こえて、すぐに大ちゃんがやってきた。
「・・・ねえ、これ・・・乗せてもらおっか? 二輪は・・限定解除とってたぐらいだもんね。
クルマの免許も・・取ったんでしょう・・?」
「・・・な・・・なに言ってんだ、おまえ!? いますぐ布団に戻れ!」
そう言って大ちゃんはクルマを叩いて怒った・・
怖い・・・そんなに怒らなくてもいいのに・・・
怖がる私に、大ちゃんは心配してるからって言うけど・・わかってるけど・・でも・・でも・・
私には・・もう・・・時間が・・ない・・

それから少しもめたけど・・
なんとか大ちゃんは説得できた。でも・・
その時、突然私の背後で車のドアが開いた。
それも、上に跳ね上がっちゃった・・・今って車、こんな風になってるんだ・・・
大ちゃんが、恐る恐る中を覗き込む・・
すると・・・

『・・・乗れば?』
突然美沙ちゃんの声がした。
ビックリして私も車を覗き込むと、前のガラスに美沙ちゃんの顔が映ってた・・
− すごい・・・こんな事までできるんだ・・今って・・
「ど、どうなってんだ・・・」
大ちゃんもビックリしてるみたい・・
ガラスに映ってる美沙ちゃんは、なんだか機嫌悪そう・・・
「お、おい・・・いいのか?」
「・・・仕方ないでしょ、医者が許可出したんじゃ。でもこのカンタくん、わたしの私物なんだからね。
ぶつけたりしたらひどいわよ・・・」
そう言うと、美沙ちゃんの姿が消えた。
と、同時に突然、ボボボンって音がして、勝手にエンジンがかかっちゃった・・
− ホントに・・すごいなぁ・・・

「大ちゃん・・・乗っていい?」
「あ、ああ」
驚いて呆然としている大ちゃんを避けて、私が先に車に乗り込む。
そのすぐ後に大ちゃんも乗ってきた。

ドアを押し下げると、勝手に1pくらいめり込んできて、プシューって空気の抜ける音がした。
前のガラスにもなんだか沢山の表示が半分透明の状態で浮かんでる・・
− ホントに・・まるで映画みたい・・・すごいなぁ・・・
「ブランク・・感じちゃうなぁ・・。10年って・・大きいなぁ・・・」
私がそう言うと、大ちゃんはなんだか辛そうにしてた・・・
「・・・ウハハハ! 飛ばすからな、しっかり掴まってろ、翔仔!」
「・・・うん、大ちゃん」
そうして私達は・・・初めての・・ドライブへと・・出発した・・・
初めての・・・最後になるかもしれない・・・ドライブ・・・

「記憶・・無かったんだって・・?」
「・・うん・・・ごめんね・・・」
「なに謝ってんだよ・・」
そう言って大ちゃんが私の額を小突く。
「だって・・・大ちゃんのこと・・忘れて・・・」
「・・・気にすんなよ・・・それで・・いつ・・記憶が戻ったんだ・・?」
「・・コンビニで・・私達のことが記事になってる雑誌を見た時に・・」
「そうか・・・」
大ちゃんはそう言うと、しばらく黙り込んでしまった。
私も何を話していいのかわからず、ただ、流れていく風景だけを見つめていた・・・

「・・・なぁ」
「ん・・・? どうしたの・・?」
「いや・・コンビニで記憶が戻った時・・・どうして・・どうして、すぐおれのところに来て
くれなかった?」
「う・・・うん・・・。だ・・だって・・・」
「・・・ああ」
「だって・・こんな体・・見られたくなかったから・・」
私がそう言ってうつむくと、大ちゃんもそれ以上何も聞こうとはしなかった。
しばらくの間、静まりかえる車内・・

「・・・・バカ。おまえの体なんか、隅から隅まで知ってんだぞ」
「だって・・・」
「・・・ああ」
「それに・・・その・・・」
「なんだよ」
「・・・ほ、他の女の人が出たら・・・どうしようって・・・。だって・・・10年だよ・・。
子供とかいても・・おかしくないし・・・。大ちゃんには・・幸せになって欲しいって思うけど
・・でも・・怖くて・・・」
私はそう言うと、うつむいた。
一番聞きたかったけど・・一番聞くのが怖いこと・・・
それを言ってしまったら・・後は・・大ちゃんの答えを待つしかなかった・・

「・・・バカ」
大ちゃんの言葉に私は思わずムッとした。
「・・・独身だよ。看護婦もいねーんだぞ。みんなおまえのせいだ。責任とってくれ」
そう言う大ちゃんに、私は思わず笑い出してしまった。
− 1人・・なんだ・・・良かった・・・・
身勝手・・かもしれない・・
わがまま・・かもしれない・・・
でも・・・私は・・大ちゃんを・・・失いたくない・・・
「大ちゃん・・変わらないね・・」
「・・そうか? オッサンぽくなったって、よく言われるぜ』
「うん・・。雰囲気は確かに・・」
「お、おいおい!? おれはまだ20代だぜ! 勘弁してくれよ!」
慌ててそう言う大ちゃんに、私は思わず吹き出した。

「でも・・大ちゃん・・・あったかくなった・・・」
「あん?」
「前は・・うん・・ちょっと冷たい感じだったけど・・うん・・いまは・・うん・・あったかい・・
大人・・。いい大人・・・」
「・・・もしそうだとしたら・・おれを変えたのはおまえだよ、翔仔」
すごく嬉しかった・・・
いつも・・大ちゃんのお荷物だったんじゃないかって不安だったから・・
「だ・・大ちゃん・・・!」
すごく・・・幸せ・・・大ちゃんにこんなに思われてるなんて・・・

だけど・・このままじゃ・・私・・・
「大ちゃん・・わたし・・わたし・・・死にたくないよう・・・!」
「しょ、翔仔!」
苦しい・・・辛い・・・でも・・なによりも・・・大ちゃんの温もりを・・失ってしまうのが・・
怖くて・・苦しい・・・
「くそっ、くそっ、くそっ・・・! ど、どうしてこんなことに・・・! おれが、人魚の肉さえ
食わせなかったら・・・! なにが、なにが、不老不死だ、この野郎! こんな、こんな効き方っ
てあるかよ・・・!」
大ちゃんは車を止めて私を抱きしめてくれる。
私も大ちゃんに縋り付いた。
「離れたくない・・大ちゃんと・・離れたくないよう・・」
「翔仔・・・っ!」
強く・・しっかりと抱きしめてくれる大ちゃん・・
私も絶対に離れないように大ちゃんに縋り付く・・でも・・・
「げほっ! げほげほっ!!」
激しい痛みと・・喉を裂くような咳・・・
私はそのまま倒れ込んだ。

「しょ、翔仔・・・!? おい、翔仔!? 翔仔ォォォォォォォォォォ!」
悲鳴みたいな・・大ちゃんの声が聞こえる・・・
− せっかくの・・ドライブ・・だったのに・・な・・・
そのまま、私の意識は途切れた・・・





 
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