DADDY FACE SS 『翔仔伝説 (1)』
by Sin



ライトニングレディの甲板・・・
その先端に制服姿の少女の姿があった。

少女の名は備藤翔仔。
10年前・・恋人の古谷大地と共に、この津市の海に身を投げた悲運の少女。
だが、彼女は再びこの地に立っていた。
かつての姿、そのままに・・

霧に包まれた海をぼんやりと見つめながら、翔仔は10年前の事を思い出していた。


全ては彼と出会ったあの日から始まった・・・

あの日、私はクラスメイトの数人からグループ交際の人数あわせに連れ出された・・
誰かとつきあうなんて、そんな気なんて全くなかったけど、私は断り切れずに仕方なく
ついて行ったの・・・。

はじめて大ちゃんに会った時・・私は怖い・・って思ってた・・
だから彼が時間を作れって言ったら、他にしたいこともなかったから、私は彼に会いに行った。
でも、何度もそうして会っている内に、彼が本当は凄く優しくて温かい人だって解ったの・・

いつからだろう・・私は彼のことが好きになっていた・・
一緒にいることが嬉しい・・寄り添って側にいてくれると暖かくて・・安心する・・

彼はバイクが好きだったけど、私は興味がなかった・・
でも、大ちゃんと一緒に乗ってるのは、大好き・・だって、どんなに抱きついたって、
周りの人に変な目で見られなくてすむもの・・

月日が流れて・・いつしか私達はいつも一緒にいるようになっていた。
コンビニでも、ファミレスでも、CD屋でも、ガソリンスタンドでも・・
私達は、いつも一緒だった・・

そんな中、私達は一つの決断をした。

結婚・・
今のまま恋人同士でいるよりも、もっと先へ・・そう考えたの。
ただ、私達の結婚には色々問題もありそうだった・・
だから・・・
「既成事実・・」
「えっ?」
私がぽつりと言った言葉に、大ちゃんは驚いたように振り返った。
「私が・・大ちゃんの子供を妊娠したら・・そしたら・・・結婚・・できる・・かな・・?」
「翔仔・・お前・・」
「・・大ちゃん・・私・・大ちゃんの側にいたい・・いつまでも・・ずっと・・側にいたいよ・・」
そう言った私を大ちゃんは強く・・痛いくらいに強く・・抱きしめてくれた。

あの日・・私は大ちゃんと初めて結ばれた・・
そして妊娠が解るまで・・何度も・・何度も・・愛し合った・・

それから数ヶ月・・
私のお腹の中には、新しい命が宿っていた・・

妊娠が解ったその日、私も大ちゃんもすごく喜んだわ・・
大ちゃんも私のことしっかりと抱きしめて・・絶対にこの子が産まれるまでには結婚しような・・
って・・

少しでも早く結婚する為に、私達は会う時間を減らして、バイトに専念するようになっていた。
ちょっと心配なのは、大ちゃんのお父さんが私達の結婚に反対してるって事・・
でも、大ちゃんは、絶対に説得してみせるからって言ってくれた・・

本当に幸せだった毎日・・・
あの日が・・来るまでは・・

今でもあんな事があったなんて・・信じられない・・ううん・・信じたくない・・!
でも・・私の身体に残された傷が・・あれが現実だったって思い知らせてくる・・

あの日・・バイトを終えて帰ろうとした私は、突然、数人の男の人に連れ去られた。
必死に抵抗したけど・・途中で何かの薬で眠らされて・・
気付いた時には、全てが・・終わっていたの・・

いつも行ってた産婦人科に行ったとき、私はその事を知らされた・・
「中・・絶・・!?」
「・・知らなかった・・の? で、でも、確かに処置した跡が・・」
「じゃ、じゃあ、赤ちゃんは!? 私の・・私達の赤ちゃんは!?」
目を伏せた先生の様子に、私は全てを知った・・
「そんな・・・そんなっ!!」
私のその叫びに、大ちゃんが慌てて診察室に入ってきた。
「どうした、翔仔っ!!」
「大ちゃん・・・赤ちゃんが・・・赤ちゃんがっ!!」
縋り付いて泣きじゃくる私の代わりに、先生が大ちゃんに説明してくれた。

大ちゃんはもの凄く怒って・・でも、どうすることも出来なくて・・
ただ・・私を強く抱きしめてくれた・・

「・・いったい誰がそんな事しやがったのか解らないけど・・翔仔・・もう一度・・もう一度
作ろう・・誰かに殺された俺達の子供の分までその子を愛してやろう・・」
「大・・ちゃん・・・」
大ちゃんの言葉に励まされた私が頷こうとした時だった・・

「無理・・なの・・」
先生の言葉が私達を凍り付かせる・・
「無理って・・・? せ、先生、無理って・・どういう事なの!?」
「・・・あなたの身体は・・無理な・・中絶処置のせいで・・もう・・子供は・・」
その瞬間、私は目の前が真っ暗になった・・
崩れ落ちるように倒れた私を大ちゃんが支えてくれる・・
私には・・もう、泣き叫ぶだけの気力すら・・残されていなかった・・・





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