DADDY FACE SS 『想いを・・・』
by Sin



− この水さえあれば・・・また・・ゆうちゃんと・・・!

あのミーミルの水の事件から数日後、美沙は美貴の下を尋ねていた。
何も知らない美貴に、あの時の鷲士の言葉を伝える為に・・。

「ええっ、しゅーくんが?」
美沙から伝えられた事は、美貴にとって激しい衝撃だった。
「美貴ちゃんに会う為に命を賭けようとしたんだよ、鷲士くん・・・。
私とノイエが止めなかったら、今頃どうなってたか・・」
「そんな・・・」
「・・・いい加減にちゃんと鷲士くんに伝えなよ。命を賭けてまで会おうと
してる美貴ちゃんが、生きてるって解ったらそれだけで喜んでくれるって!!」
「で、でもぉ・・」
煮え切らない美貴の態度に、とうとう美沙も堪忍袋の緒を切った。

「いい加減にしてよ!」

激高して、手をテーブルに叩きつける。
「鷲士くんがなんで浪人したか知ってる?」
「え? それは・・お金が・・無くて?」
「なんでお金無かったんだと思う? 今でもちゃんと学費は払えてるのに」
狼狽えるように答えた美貴だったが、美沙のその問いに口籠もった。
だが、そんな様子が更に美沙を苛立たせる。

「美貴ちゃんを捜す為に、探偵を雇ったからだよ!!」

再び手をテーブルに叩きつけたその言葉に、美貴は絶句した。
口元を覆った手が、震えている。
「鷲士くん、言ったんだよ! いつも考えてた・・って! 高校を卒業したら
会いに行こうと思ってたって! もう彼氏がいるかもしれないけど、あんな
引き離され方したから、一目会えたらそれで・・って!」
「・・・っ!?」
次第に美沙の声に涙が混じり始める。
「あの時・・・目の前に、私・・いたんだよ? でも・・鷲士くんには美貴ちゃん
の事しか見えてなかった・・」
「で、でも・・・」
戸惑った美貴だったが、次の瞬間、息を呑んだ。
顔を上げた美沙の瞳から、涙が溢れかけていたからだ。
「鷲士くん・・一番大切な物を無くすってノイエに言われても・・・命なんていら
ない・・って・・」
こぼれる涙を拭いながら言う美沙の言葉に美貴は身体を震わせる事しかできない。

「鷲士くんは、私と一緒に生きていく事より・・美貴ちゃんともう一度会う事を
選んだんだよ!」

最後の言葉はもう叫びだった。
大好きな鷲士が目の前にいる自分よりも、死んだと思っている美貴の方を大切に
思っている・・・。
その思いが、美沙に激しい涙を流させた。

「美沙・・」
「なのに・・ひっく・・ぐすっ・・・なんで・・美貴ちゃん・・・ぐすっ・・・
鷲士くんの事・・信じてあげないのよぉ・・・」
「そ、それは・・・」
「こんなに美貴ちゃんの事愛してくれてる人を信じられないなら、美貴ちゃん、
鷲士くんに愛される資格なんて無いよ!!」

想いが溢れて止まらない。
鷲士も・・美貴も・・・2人とも大切なのに・・
大好きな2人と・・ずっと・・一緒にいたいのに・・・
その思いが美沙の胸を締めつける。
「・・・・胸が・・痛いよ・・・」
涙混じりに美沙がそう言った時、スッとその手に美貴の手が重ねられる。
顔を上げた美沙が見たものは、涙に溢れる瞳で、優しく見つめる美貴の姿だった。

「おかあ・・さん・・・」
「・・・すっごく久しぶりに・・そう呼んでくれたね・・・」
そう言って美貴は美沙を優しく抱きしめる。
「・・ごめんね・・美沙・・・つらい思い・・させちゃって・・・」
美貴のその言葉と抱きしめられた温もりに戸惑う美沙の頬に、雫が落ちた。
「・・・でも・・ごめんね・・・まだ・・まだ怖いの・・・・」
抱きしめてくる美貴の震えが美沙にも伝わる。
美沙には美貴の胸が張り裂けそうなほどに高鳴っている事が解った。
「しゅーくんも・・美沙も・・樫緒も・・みんな大好き・・・でも・・・」
痛いくらいに抱きしめてくる美貴の腕が、その心を伝えているようで、美沙は
美貴に身体を預けた。

「でも・・怖い・・・許してくれても・・しゅーくんの気持ちが・・ちょっとでも
離れてしまったら・・そう思うと・・怖くて仕方ないの・・・」
涙声でそう言う美貴に、美沙の心から溢れた想いは、いつしか静まっていた。
「だから・・お願い・・もうしばらく・・時間を・・頂戴・・」
「・・・鷲士くん、いつまた今回みたいに命をかけようとしちゃうか解らないよ?」
「・・・彼がもし死にかけても・・・私、絶対に側にいる・・もしそんな事になったら・・
私があの世からでも引っ張ってくる! だから・・」
その美貴の言葉に美沙はしばらく迷っていたようだが、やがて、大きく溜息をついた。
「・・・できるだけ・・待ってあげる・・でも、本当にどうしようもないと思ったら、私、
鷲士くんに美貴ちゃんの事ばらすよ!」
「う、うん・・・」
「ほんとに・・世話のかかるお母さんなんだから・・」
そう言って笑う美沙をぎゅっと抱きしめると、美貴も微笑んだ。

それから数日。

ヴェスターランドの海岸でいちゃつく両親の姿に、美沙は・・・
「まったく・・なにやってんだか・・」
そう言って溜息をついた。

「親子水入らずでくらす事くらい簡単なはずなのに・・・美貴ちゃん・・頑張ってよ〜」
美沙の夢が叶うのは、まだまだ先のようである・・・





                     
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