DADDY FACE SS 『もうひとつの翔仔伝説 (9)』
by Sin



最近、どうも変な事が立て続けに起きやがる・・
あの海岸で会った若い男・・草刈って言ったよな・・
身体の方もとんでもねえが・・まさかあの歳で子供持ちたぁ・・それにはっきり喋れる子供
となると、かなり若い頃の・・まったく、とんでもねえ時代だな。

それに、やけにこの頃、俺の・・俺達の事を調べるヤツがいやがる・・
雑誌のライターに、女子高生・・それに、塚原の関係してるヤツら・・
一体どうなってやがんだ・・・

そんなある日の事だった。
いつものようにいくつかのカルテに目を通していた俺の元を、突然、ドアを蹴破らんばかりの
勢いで誰かがやってきた。
その音に俺が見ると、そこにはやけに険しい顔をした草刈の姿があった。

「・・・ゲ、またおまえか。勘弁してくれよ、なんなんだよ、今度は?」
そう言いながら、俺はドアの外を覗いて、思わず仰け反った。

「おおっ、ラ、ランボルギーニーじゃねーかよ・・・! こいつはスゲー・・・! な、なあ、
こいつ、おまえの・・・」
言いつつ振り返ると、草刈が俺の両肩を掴んできた。
「・・・どうした? 急患か?」
「・・・あなたの本名は、塚原、大地、ですね?」
まるで確認するように草刈のヤツは聞いてくる・・なんだ、いきなり・・
「・・ああ?」
「あなたの本名は塚原大地だ。塚原グループのドン・塚原大一郎の息子の。古谷とは
お母さんの旧姓・・そうなんでしょう?」
「・・・知らねえな」

− いきなりなんなんだ、こいつは・・一番俺の気に障る事を平気で聞いてきやがって・・

むかついた俺は草刈に背を向けて椅子に座ったが、あいつは覗き込むようにして更に
迫ってきた。

「い、いや、違う! 先生は塚原大地だ! 絶対に!」
「・・・なんなんだよ、てめえ!?」
マジにキレた俺は、立ち上がって草刈を怒鳴りつける。

「おれはおまえを治してやっただろうが! その礼が、人の古傷暴きか!? いったい
なにが不満なんだ!? 工藤の件か!? 連中なら、昨日入れ替わった県警の本部長が、
その日のうちに潰しちまったぜ! そうさ、おれは元・塚原だ! だがあいつを刺して、縁を
切った! 今じゃ跡取りは、キザな養子だぜ! どうだ、満足か!? じゃあ帰んな!」

吐き捨てるようにそう言って、おれは草刈に背を向けた。
だが・・・

「・・・ガレージのあのバイク・・なぜマフラーが赤いか、分かりました」
「・・・なんだと?」
思わず振り返る・・
「10年前の誕生日・・あなたは、当時付き合っていた彼女に、赤いマフラーが欲しいと
言った。すると女のコは、排気管をわざわざ赤く塗って、あなたに手渡した。だけど、
あなたが欲しかったのは、バイクのマフラーじゃない。首に巻くマフラーだったんだ・・・!」
「お、おまえ・・・ど、どこでそれを?」

− なんで知ってやがる・・あの事は・・俺と・・翔仔しか・・知らないはずだぞ・・・

戸惑って俺が聞くと、草刈はまるで自分を落ち着かせるような口調で、言った。
「・・・古谷先生、昔あなたが食べさせた人魚の肉が、10年後、彼女を死から蘇らせたと
同時に、今また死に追いやろうとしてます。一緒に来てください、冬海ちゃん・・いや、
備藤翔仔ちゃんを、なんとか救うために!」
「なっ・・・!?」

あまりの事に俺は思わず持っていたボールペンを落とした・・
床のタイルに跳ね返るペンの音がやけに遠くに聞こえる・・

「古谷先生!」

草刈の声にハッと気がついた俺は、医療道具を鞄に詰め込んだ。
「どこだ! 案内しろ!!」
俺の言葉に草刈は頷くと、ランボルギーニーに飛び乗った。俺もそれに続く。

俺と草刈を乗せたランボルギーニーは霧立ち込める海岸線を猛スピードで駆け抜けて
いった・・

それからしばらくして・・・草刈は海岸沿いの道路脇に車を止めた。
「お、おい、草刈! あいつは!?」
俺がそう言うと、草刈は一点を指さした。
目をこらすと、霧の中に女が1人いる事に気がついた。

− まさか・・あの女は・・

草刈と初めて会ったときのことを思い出す。
あの時側にいた女が・・まさか・・翔仔だったなんて・・・

俺は・・恐る恐る近づいた・・・
なんて声をかけていいのか分からない・・だけど・・
いつしか俺は彼女のすぐ側まで来ていた。

「・・・翔仔?」
その瞬間、彼女の身体が、ビクン、と跳ねた。
彼女はスカートにまとわりついた土を払いながら、立ち上がって振り向いた。
「ああ・・・! なんてこった・・! ああ、なんてこった・・・! なんて、なんて・・・!」
「あ・・あの・・! わ、わたし・・!」
彼女は真っ青になって目を泳がせている。
やがて・・笑った。だけど俺にだって分かる・・あれは・・無理矢理の笑いだ・・
「ご、ごめんね・・大ちゃん・・! わ、わたし・・戻ってきちゃった・・! アハハ・・・
か、カッコ悪いよね・・・! ごめんねぇ・・・!」

眼帯に隠されていない方の瞳から・・涙が溢れる・・でも・・笑う事をやめようとしない・・
もう・・俺は・・我慢できなかった・・・・
気がつくと・・砂を蹴った俺は思いきり翔仔を抱きしめていた。
潰してしまいそうなほどに・・強く・・

「翔仔・・! ああ、翔仔、翔仔、翔仔、翔仔、翔仔、翔仔・・・!」
「大ちゃん、ごめんよぅ・・・! ごめんよう・・・!」
翔仔が俺のシャツを掴みながら泣きじゃくる・・
俺も・・いつしか涙を流していた・・

そのまま俺達は・・翔仔が倒れてしまうまで・・そうして抱きしめ合っていた・・・




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