DADDY FACE SS 『もうひとつの翔仔伝説 (8)』
by Sin



いつものように急患で呼び出された俺は、診察を終えた後、久しぶりに海岸沿いを
RVで走っていた。
「今日もまた・・霧が濃いな・・」

『ほら、真っ白・・凄い霧だね・・大ちゃん・・』

「あいつ・・こんな霧の日は・・妙にはしゃいでいたよな・・」
こうしているといつも翔仔の事を思い出す・・
「そう言えば・・あいつに告白したのも・・この先だったな・・」
そう思って、ふと海の方を見たその時だった。

突然、目の前に巨大な影が・・・
「なっ!?」
俺は慌ててRVを止めると、海岸に向かって走った。

− あれは・・まさか・・・噂の、海坊主・・・か!?

見ると、海岸に1人の若い男がいる。
どうやらあいつも海坊主に気付いているみたいだ。いや・・
海坊主の方もあいつに気付いてる! やべぇ!!
あいつ、何か武器になりそうなものを持ってやがるのか!?
間違いなく海坊主はあいつを狙ってる!

俺はその若い男に背後から近づくと、持っていた懐中電灯を背中に押し当てた。
こんな物でひるんでくれればいいんだが・・
「動くな・・! 武器になりそうなものを捨てろ・・!」
その瞬間、若い男は硬直した。
どうやら懐中電灯を危険なものと思ってくれたみたいだな。しかし・・
自分でやっておいてなんだが・・なんでこんなので思いこめるんだ?
「・・聞こえなかったのかよ? 捨てろ! 武器になりそうなものを、す・て・ろ!」
俺も必死だ。このままじゃ俺まで一緒に巻き込まれる。
海坊主は武器を持ったものを狙ってくるって聞いた事あるからな・・
「ぶ、武器って言われてもっ・・・!」
引きつった笑いを浮かべて若い男はそう言ったが、その瞬間、海坊主が更に近づいてきた。

− やばい! マジでやばいっ!

「こ、この野郎! 死にてえのか!? とっとと捨てろ!」
「はっ、はい! はいはいはいはい! でも武器なんて・・・!」

そう言って若い男は慌てて身体をまさぐった。

− 本当に何も持っていないのか?

俺が不安になったその時だった。

「あ、あら?」

男は自分でも驚いたかのようにトレーナーの下から、銃を取り出した。

「ううっ、習慣って怖い・・・!」
「モ、モデルガン・・!? なんてこった、こんなもんにも反応するのか・・・?」
俺が動揺したのが伝わったのか、男はゆっくり振り返ろうとする。
「と、とにかく捨てろっ! 今すぐだ!」
「は、はいっ!」
やけくそのような感じで、男は銃を横に放った。
と、同時に、海坊主の動きも止まり、ゆっくりと遠ざかって行った。

緊張してたんだろう。それからしばらくして、ようやく波の音が聞こえてきた。
「・・・ふ〜っ。やばかったな。もうダメかと思ったぜ。単なるホラ話かと思いきや・・
とんでもねー。ツッシーなんか目じゃねーな。たまげたぜ」
気が抜けた俺は、そのまま後退ってタバコに火を付けた。

− そう言えば、翔仔はタバコの煙が苦手だったな・・

『ケホケホッ、もぉ、大ちゃん! タバコは外で吸ってよ!」

そう思ってふと顔を上げると、さっきの若い男が俺を見つめている。
「・・・ん? ああ、あいつな、武器らしいもの持ってると近寄ってくるらしいんだよ。
近場の漁師が、何人か目撃しててよ。ほら、網に引っかかった鮫をブチ殺すために積んでる銛、
あんだろ? ああゆーのでもダメらしいんだな」
「え・・・? だ、だってあなた、ぼくの背中に、銃・・・」
「銃?」

− 銃ってのは・・まさかこれか?

俺はポケットの中の懐中電灯を引っ張り出して明かりを点けた。

「・・・銃ってな、こいつのことか? にーちゃん?」
「か、懐中電灯・・? そんな・・・!」
「後ろから背中小突かれたら、拳銃になんのか? オイオイ、いい歳して、くだんねー映画や
ドラマと現実を混同してんじゃねーよ」
「う・・・!」
男は赤くなって頭をかいた。まあしょーがねえよな。こんな懐中電灯を銃と間違えてるんじゃ。

タバコを吹かしてふと見ると、男の放り投げた銃が目に入った。
拾い上げて見てみると、まるで本物みたいだ。
「・・・はー。最近のオモチャは、やけにリアルにできてんだな。なんだこれ? スミス&
ウェッソンか? コルトか?」
「い、いえ、確かルガーかと・・・」
「おおっ、ルガー。渋いねー」
俺は軽口を叩きながら、銃口を砂地に向けて引き金を引いてみた。
まあ、最近のオモチャがどの程度のものなのか、興味があっただけなんだが・・・

−−−ドガン!

火薬が炸裂する音が、辺りに響き渡った。

− じょ、冗談じゃねぇぞ・・マ、マジでこれ、モデルガンなのかよ・・

冷や汗混じりに男をジロジロと睨み付けてみる。
「・・・ずいぶんと派手だな」
「よ、よくできてますよね!」
「これ・・マジにモデルガンなんだろうな?」
俺の言葉に大慌てでごまかす男を俺は不審げに睨んでいたが、しばらくして銃を男に放った。
ふと見ると、男のすぐ向こうに高校生くらいの女が・・

− 女連れか・・まあいい・・

「・・おら、彼女が困ってるぞ。心配ねえって言ってやれよ」
俺はそう言って背を向ける。
道路に上がった所で振り返ると、さっきの男もこっちを振り返っていた。
「・・・おまえら、地元の人間じゃねーだろ? この辺りはな、いま理屈じゃ説明できねえような
イカレた事態が、立て続けに起こってる。これに懲りたら、観光なら沖縄にでも行ってるんだな。
んじゃ・・・あばよ」
タバコを踏み消しながらそう言うと、俺はそいつらに軽く手を振ってRVに乗り込み、そのまま
その場を後にした。

「海坊主に、訳のわからねえ兄ちゃんか・・まったく・・何がどうなってやがる・・」

俺は誰に言うでもなくそう呟くと、RVのスピードを上げた・・・





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