DADDY FACE SS 『もうひとつの翔仔伝説 (7)』
by Sin



翔仔を失ってからの俺は・・ずっと放心状態だったらしい。
結局、傷が癒えて退院するまで、一言も口をきかずにただ翔仔との想い出だけを、
なんども・・・なんども繰り返し思い出していた・・・

そして・・退院したその日・・・

家に帰った俺を待っていたのは・・
「ようやく退院か・・まったく・・あんな馬の骨のために、この塚原家の名を汚しおって・・
まあ・・いい。あの小娘が死んでくれたお陰で、これ以上の余計な手間をかけずに
済むからな」
「なん・・だと・・・」
「ちょうどいい。お前に見合いの話が来ている」
そう言ってあいつは俺に数枚の写真を投げよこした。
「その中から好きな女を選べ。どの女もそれぞれ名家の娘達だ。この女達なら塚原家の
名もまた大きく上がるのだからな」
その言葉に、俺は・・我慢が・・できなかった・・・

「言いたい事は・・・それだけか・・・」
「なに?」
初めて見せるあいつの戸惑いの顔・・
「俺にとって・・翔仔はかけがえのない・・一番大切な女だ・・それを侮辱して・・・死に
追いやったお前を・・俺は・・・俺は・・・・っ!」
「まったく・・まだ未練が捨てきれんとは・・あんな煩わしい事などせずに、さっさと始末
するべきだったな」
「貴様ぁぁぁぁっ!!」
その瞬間・・俺の中で・・なにかが切れた・・

ポケットに手を突っ込み・・中から取り出したナイフ・・
目を見張るあいつに身体ごと突っ込み・・
腹へと・・突き立てる・・・

手に伝わってくる鈍い感触・・
それを幾度も繰り返し・・・
激しい叫び声・・
誰かが俺を羽交い締めにして・・

「離せぇぇぇっ!! 殺す! 殺してやるっ!」
ナイフを振り回し、近づく奴等に斬りつけながら、俺は幾度もあいつに突き立てた・・
殺すつもりだった・・そして・・その後で俺も・・・

だけど・・・俺は・・また・・・止めを刺す事ができなかった・・・

その後、俺は母共々屋敷を追い出された・・
なぜか刑事事件にはならなかったが、どうせ、対面を気にした塚原家の奴等の仕業だろう。

それからの俺は、何をする気も起きず、ただ毎日を無気力に暮らしていた・・

しばらくして、そんな俺の様子を見かねた母が、進学を勧めてきた。
自分で何かを決める気力も残っていなかった俺は、母の勧めに従って、医大に通う事に
なった。
その後卒業した俺は、インターンを経て、東京で某有名医大付属病院で、胸部外科の
医師として働いていた。
どうせ塚原の名前がこんなエリートコースに進ませたんだろうが・・かまうか・・

俺は深い人間関係を築きたくなかった・・だから、投薬で治るような患部も容赦なく切除し、
執刀した後は、他の奴らに任せた・・

自分が治した患者が退院していくのが嬉しいとか言う奴もいたが・・
俺は・・患者が鬱陶しくてたまらなかった・・
患者の心の傷を癒すのも医師の仕事だ・・なんて言った奴もいたな・・
そんなのはデタラメだ・・もし・・それが本当なら・・
翔仔は・・あんなに傷つかなかった・・・

その頃、俺はやけに女から声をかけられた・・
べつにどうでも良かった・・
だから・・寄ってくるヤツは・・そのまま適当に付き合って、去っていくヤツがいても・・
気にもしなかった・・

それからどのくらい経っただろうか・・・
ある時、俺は仲間と行った沖縄の海を見た瞬間・・思わず口にしていた・・
「こんなの・・海じゃねーよ・・・」
青く澄み渡った海・・だけど・・こんなのは海じゃない・・
海ってのは・・あいつの・・翔仔の消えちまった・・あの・・霧に包まれた・・・・

俺はその翌日、付属病院を辞めた・・

もう、これ以上あんなところにいるのが嫌になったのが一つ・・
そして・・
翔仔を・・探すために・・・

1ヶ月後、俺はあの海に近い場所に小児科病院を開いた・・
そして・・暇を見ては海に潜って、翔仔の事を探した。
周りの奴等が色々言ってたみたいだが・・かまう事か・・・

俺は・・それからも毎日暇を見ては海に潜り続けている・・・
そして・・10年が過ぎた・・

最近、妙にこの辺りが騒がしい・・
やけに、ツッシーだの、海坊主だの騒いでいる・・
バカバカしい・・人魚ならともかく・・ツッシーなんてもんがいるわけない。

そんなある日・・・俺は・・あいつと出会った・・・




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