DADDY FACE SS 『もうひとつの翔仔伝説 (6)』
by Sin



人魚の肉を手に入れた俺は、大急ぎで翔仔の元へと帰った。
そして祈るような気持ちで、その肉を調理し、翔仔に食べさせた・・・
「大ちゃん・・これ・・?」
「ああ、手に入れたんだ・・人魚の肉を・・これを食えば、きっと死なずにすむ!」
俺がそう言って差し出すと、翔仔はすがるように口に入れていた・・

でも・・それから何日経っても・・
翔仔の身体が良くなる事はなかった・・いや・・それどころか、益々悪くなっていった・・

そして・・・病院から帰ってきたある日・・

「・・・大ちゃん・・・わたし・・・もう・・生きていけない・・・」
翔仔の言葉に・・俺も・・頷いていた・・・
俺も・・もう・・限界だった・・・
だけど・・翔仔を1人で逝かせるなんて・・嫌だから・・・
「・・・俺も・・いつまでも・・どこまでも・・一緒だ・・翔仔・・」
「大・・ちゃん・・・」
いや・・違う・・俺が望んだんだ・・・俺が・・いつまでも・・翔仔と一緒にって・・
そして・・そのまま抱きしめ合った俺達は・・最後にもう一度だけ・・愛し合った・・・

その夜・・・俺達は・・紬屋の側の崖に向かった・・

海から吹き上げてくる風が、俺達の身体から熱を奪って・・翔仔はその寒さに身体を震わせていた。
「翔仔、ほら、これ着ておけよ」
そう言って、俺は自分の着ていたジャンパーを翔仔に着せた。
「大ちゃん・・ありがと・・」
ギュッとジャンパーを抱きしめた翔仔は俺にそっと寄りかかった・・

「・・生まれ変わっても・・俺は・・絶対にお前と一緒だ・・絶対・・離さないからな・・」
「生まれ変わったら・・今度こそ・・幸せになろうね・・大ちゃん・・」
崖っぷちに立った俺達はそう言ってしっかりと抱きしめ合う。
心を決めていても・・やっぱりいざとなると身体が震えてくる。
だけど、俺が怖がってたら・・翔仔だって・・安心できないよな・・
「怖い・・か?」
「うん・・・」
「俺が・・ついてる・・」
「・・うん・・・」
今までよりも・・ずっと強く抱きしめ合う・・決して離れないようにする為に・・
「翔仔・・愛してるよ・・」
「私も・・大ちゃんを愛してます・・・」
「・・・行こうか・・」
「・・うん・・」
強く・・本当に強く抱きしめ合って・・俺達は・・崖の上から・・身を躍らせた・・・
そして俺は・・激しく水面に叩きつけられて・・意識を失った・・・

それから・・どのくらいの時間が過ぎたんだろう・・

ふと気付くと、俺は真っ白なベッドに寝かされていた・・
ここは・・どこなんだ・・?
まったく何がどうなったのか解らない・・だが・・やがて俺は大切な事を思い出した。
「そうだ・・翔仔! 翔仔! どこにいるんだ!?」
そう言って辺りを見回すが、どこにも翔仔の姿は見えない・・いつも俺から離れなかったのに・・
俺は身体中に付けられた物を引きはがし、点滴を引き抜くと、ベッドから降りようとした。
だが・・俺は身体を支えきれずにその場に倒れ込んだ。

「う・・・あっ・・・なんだよ・・・これ・・・」
それでも必死に這いずり回って、翔仔の姿を探す。
「どこだ! どこにいるんだ! 翔仔っ!!」
その時だった。

「つ、塚原さんっ! 寝てなくちゃダメですよっ!!」
大慌てで看護婦が俺の身体を抱き起こす。
「貴方は、死にかけてたんですよ! まだ起きてはダメです!!」

− 死にかけ・・? 死・・じ・・さつ・・・

『生まれ変わったら・・今度こそ・・幸せになろうね・・大ちゃん・・』

その瞬間、俺は全てを思い出した。

「な、なんで・・なんで俺は生きてるんだ・・・・翔仔・・翔仔は!?」
看護婦に縋り付いて聞いた俺は・・その表情に・・全てを悟った・・

「そ・・んな・・・なんで・・俺だけ・・・っ!」
がっくりと崩れ落ちるようにその場に倒れた俺を、看護婦が病室まで運んでくれた・・

それからしばらくして、俺は医者から全てを聞いた。
「きみは、伊勢湾内を漂っていた所を、通りがかった漁船に拾われたんだよ。正直、もう
助からないかと思っていた」
「翔仔・・は・・?」
俺のその問いに医者は黙って首を振った。
「なにか・・なにかあいつの物・・一つだけでも・・・」
「いや・・なにも無かったらしい・・」
「・・・・しばらく・・・1人に・・してくれ・・・」
「わかった・・だが・・自棄にだけは・・ならないで欲しい・・」
「いいから・・1人に・・」
「・・・わかった・・」
そう言うと医者は看護婦を連れて病室を出て行った・・

俺だけになった病室・・
目を閉じると・・まだ翔仔が側にいるようで・・だけど・・手を伸ばしても・・話しかけても・・もう・・
翔仔は・・いない・・

「くっ・・・ううっ・・・・なんでだよ・・なんで・・こんな・・・っ!」
涙が・・溢れる・・
堪えきれない想いが・・・俺の心を・・引き裂いていく・・・
「・・・・翔・・仔・・・っ・・」

『大ちゃん、早く2人の子供、欲しいねっ』
そう言って笑っていた翔仔・・
『大ちゃんの身体・・暖かいね・・』
俺の胸に抱きついて・・眠っていた翔仔・・・
『生まれ変わったら・・今度こそ・・幸せになろうね・・大ちゃん・・』
・・2人で・・・逝くはずだったのに・・・俺・・1人だけが・・・っ!

「う・・ううぅ・・翔仔・・・翔仔・・・・っ・・」

『大ちゃん・・・』

「・・・翔仔ーーーーーーーーーーっ!!」

悲しみが・・・叫びとなって・・・辺りに響き渡った・・・・








 
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