DADDY FACE SS 『もうひとつの翔仔伝説 (5)』
by Sin



入退院を繰り返す翔仔・・・
最近ではサイレンの音が聞こえるたびに、半狂乱になって叫んでいる・・
必死に抱きしめていると、しばらくすれば落ち着くが・・これが・・あの明るかった翔仔なのか・・

悔しかった・・俺が守ってやれなかったから・・
俺が翔仔の笑顔を奪っちまったようなもんだ・・・

そんなある日・・
俺は病院で信じられない事を聞かされた・・

「が、癌!? う、嘘だろ・・・なんで翔仔が癌になるんだよ!!」
「・・・備藤さんは・・その・・過去の中絶手術の影響で内臓疾患を抱えてしまって・・その上、
何度も傷つけられてしまったために、悪性の腫瘍が子宮に・・・」

先生の言葉に、俺が愕然として座り込んだ・・その時だ・・
「あ・・あはは・・・あははははっ・・・」
「しょ、翔仔!?」

− 聞かれた!? ・・・一番聞かれたくないヤツに・・・っ!

「あははは・・・私・・子供・・産めなくされて・・・もう・・子宮に・・子供が宿る事なんて・・
無いのに・・・病気は・・宿っちゃうなんて・・ふふ・・・あはは・・・あはははははっ!」
壊れた機械人形のように笑い続ける翔仔・・
俺は・・呆然と立ちつくす事しかできなかった・・・

その日から、翔仔の様子はますます酷くなっていく。
日に日に痩せ衰え・・食事の量もどんどん減っていった・・
2人きりでいる時にはいつも俺に寄り添っていた翔仔が・・今では部屋の隅で呆然と座り込む日々・・

− もう・・どうする事も・・できないのか・・?

暗く沈んだ気持ちを少しでも奮い立たせようと、ふと見た雑誌の記事・・・
『三重・八百比丘尼伝説の謎に迫る −お里の遺言は何を意味するのか−』

− もしかして・・これなら! 

俺はそれからできるだけ多くの八百比丘尼伝説に関わる資料を集めた。
まずはお里の遺言。
『黄金の鶏と縄、朝日照り、夕日輝く二つ葉のもとに埋めたれば、他日草生滅亡の時来たらばこれを掘り出せ・・・』
初めは常明寺周辺の事だと思ってさんざん掘り返したけど何も見つからない・・
必死に考える中、俺はふと見ていた地図から、知多半島と志摩半島の形が二つ葉に見えた。

− ひょっとしたら・・それなら、朝日照り、夕日輝くってのは、昇る朝日と沈む夕日を交互に
 見れるような場所・・高地か!

俺は二つの半島の先端をラインで結べて、同時に草生の近くで高地となる場所を探した。
そして結びついたその場所は・・経ヶ峰だ!

それからすぐに俺は高度計を持って経ヶ峰に上り、正確な頂上部を探した・・

「ここか? いや、こんな展望台の近くなら、もう見つかっててもおかしくないはず・・」
辺りを見回すと、少し離れた所に森を見つけた。
「ひょっとしたら、あそこか・・!?」

必死に森の中を探して2時半ほど経っただろうか・・
「こ、これは・・まさか・・・」
俺は目を疑った。
「・・石室・・か!?」
辺りの土をかき分けると、小さな穴を見つけた。
どうやら呼吸用の穴みたいだった。

「よ、よし、ここなら指が入るな・・」
俺はその穴に手をかけると、必死に引き開けた・・・

そしてそこには・・・1人の女のミイラ・・そして、皮膚を剥がれた子供みたいなものがあった・・・

「こ、これが・・八百比丘尼・・・そして・・肉達磨・・」
背中に冷たい汗が流れる・・・

その時だった・・

「おぬし・・妾の頼みを聞いてはくれぬか・・?」
心臓が止まりそうだった・・
死んでいると思っていた肉達磨がうっすらと目を開けて俺をじっと見つめて、声をかけてきたんだ。

「い、生きてるのか・・・?」
「当然じゃ・・・この程度で死ぬような妾ではないわ・・」
冷めた目でそう言う肉達磨に、俺は必死に言った。
「あんたの頼みを聞く変わりに、一つだけ・・」
「なんじゃ・・?」
「頼む、あんたの肉を少し分けてくれ。おれの女が病気で死にそうなんだ。なんでもする、命が
欲しいならくれてやる。人間への恨みを、ぜんぶおれに被せてもいいから・・・だから・・」
必死に頼み込む俺をしばらくの間、肉達磨は冷めた目で見つめていたが、やがて・・
「・・ほ・・ほ・・・良かろう・・ならば、妾を海へと帰してくれたならばくれてやろう・・」
「ほ、本当か!?」
「妾に二言はないわ・・」
「わ、解った! そのままじゃ運べないから・・鞄を持ってくる! 少し待っていてくれ!!」
そう言って鞄を取りに戻った俺は、すぐに戻ってきた。
戻ってくる最中、おかしな話だが、夢であって欲しいなんて思っていた・・
だけど・・

「来たな・・」
「あ、ああ。じゃ、じゃあ運ぶから、この中に入ってくれ・・」
「・・よかろう・・」
俺は血の匂いのする身体をバッグに押し込んで海へ向かった。

まるで死体を運んでいる気分だった・・
しかも時々、ビクッと跳ねるし、バッグの端からもなんだか妙な液体がドロドロと滴って・・・
よく・・気が狂わなかったもんだ・・・

それからしばらくして・・俺は人目につかないようにして阿漕浦の浜で肉達磨−人魚−を
放した。
「さ、さあ、約束は果たしたぞ」
「うむ・・礼を言う。数百年ぶりに、我が家に帰れる」
「じゃ、じゃあ頼む・・あんたの肉を・・」
「・・・妾達の肉は、猛毒に等しい・・もしかしたら、今よりももっと酷い事になるやもしれん・・
それでも良いのか?」
「かまわない! 今の俺達には・・もう他に頼れるものがないんだ!」
「・・そうか・・」
人魚はそう言うと、左の腕をバキッとへし折って、肘から引きちぎって俺に渡してくれた。

「・・・人間・・名をなんと言う・・?」
「・・つ、塚原・・いや・・古谷・・大地・・・」
「大地・・か・・覚えておく・・・礼を言うぞ・・お前のお陰で、妾は海へ帰る事ができた」
「い、いや、俺だって・・その・・肉・・貰ったし・・な・・」
「長い年月の中では・・また会う事もあるやもしれぬ・・それまで・・達者でいるのだぞ・・」
「あ、ああ・・・」
「ではな・・・」
そう言うと、そのまま人魚はすぅっと海の中へと消えていった・・・







 
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