DADDY FACE SS 『もうひとつの翔仔伝説 (16)』
by Sin



 翔仔が海の底で眠りについてから数年が過ぎた・・
 俺は相変わらずこの海の側で小児科医を続けていた。

 そんなある日・・
 いつものように患者の出入りが一区切りしたので、俺は昼飯にしようとしたが、
その時、入り口の開く音がした。

「なんだ、客か? ちょっと待ってろよ」
 そう言って俺が部屋を出ると、そこには懐かしい顔ぶれが揃っていた。

「く、草刈!? それに麻当と・・・美沙だったな・・ええとそれから・・」
「樫緒・・です」
「わ、わりい。樫緒だったな。それで・・いきなりなんの連絡もなくどうしたんだ?」
「その前に・・私、もう麻当じゃないから・・」
「え?」
「・・・その・・去年・・結婚したの・・しゅーくんと・・だから・・今は、草刈・・」
 真っ赤になって言う麻当・・いや、草刈・・・ややこしいから美貴でいいか。
「そいつは良かったな。それにしても水臭いぞ、草刈。結婚したならしたって連絡くらい
くれても罰はあたらねえぞ?」
「・・・どうせなら、もう一つの大切な事も一緒に伝えたかったので・・」
「・・もう一つ?」
 草刈の言ってる事がいまいち解らない・・
 一体、なんの話なんだ・・?
 訝しげな俺を見て草刈達が顔を見合わせて笑った。
「先生、ずいぶん待たせてしまってすみません。昨日、ようやく翔仔ちゃんを助けられる方法が
みつかりました」
 
 嬉しそうに言ってくる草刈。
 だが、俺は突然の事に呆然として、そのまま立ちつくしてしまった。

「え、えっとぉ・・・古谷先生?」
 戸惑った美沙につつかれてようやく気付いた俺は、思わず草刈の両肩をがっしりと掴んでしまった。
「ほ、本当か!? 本当に、翔仔を!?」
 興奮のあまり強く握りすぎたのか、草刈は一瞬顔をしかめたが、やがて俺に微笑むと、頷いた。
 その瞬間、俺の身体から力が抜けた。そのまま崩れ落ちるように座り込む。
「そうか・・・そうか・・っ・・・やっと・・・」
 溢れ出す涙を堪える事ができない・・
 そんな俺を、草刈達は優しく見守っていてくれた。

 それからしばらくして・・・
「先生、翔仔ちゃんが待っています。行きましょう」
 草刈の言葉に頷くと、俺は取るものも取り敢えず、一緒に車へと乗り込んだ。

 そして・・海岸に着いた俺達を迎えたのは、あの時よりも更に大きい空母だった。

「えへへ〜、かっこいいでしょ? 前のライトニングの弱点を克服して、更に強くなった『ライトニングU』だよ〜」
 まるで、自慢のオモチャを見せる子供のようなはしゃぎ方をする美沙に俺は苦笑する。
 そこに、見覚えのある長身の美女がやってきた。

「古谷先生、お久しぶりです」
「あ、え、えっと・・冴葉さん・・だったよな・・相変わらず美人だな」
「くすっ・・ありがとうございます。でも、翔仔さんの前ではそんな事言ってはいけませんよ」
「え?」
「愛する人の目の前で、他の女性を誉めるような事をしてはいけません」
「あ、ああ」
 冷や汗混じりに答えた俺にわずかに微笑むと、冴葉さんは美沙に資料を手渡した。
「ボス、各資材の搬入は完了しました」
「んで、冴葉〜。作業の進行状況は?」
「先ほど、翔仔さんの入ったカプセルにクレーンを接続しました。あと数分で引き上げられます」
「わかった〜。んじゃ、蘇生作業の方、よろしくね〜」
「わかりました」
 その言葉と共に作業が再開され、やがて俺達の目の前に、あのカプセルが姿を見せた。

「ずいぶん綺麗だね。海の底にずっといたんだから、もう少し汚れててもおかしくないのに」
 鷲士の言葉にその場の全員が頷く。
 確かに長い年月、海底に眠っていた割には、カプセルは殆ど汚れていなかった。
 今は海底から急激に引き上げた為に気圧の変化で耐圧ガラスが曇って中が見えないが、泥や海草のゴミは、全く絡んでいなかった。

「きっと、人魚が守ってくれていたんだよ」
 その鷲士の言葉に、全員が頷いた。

「では、蘇生作業を始めます。カプセルの解放後、ナノロボットの行動を活性化。翔仔さんの心肺が正常に動作するのを確認後、原子分解酵素の不活化を行います」

 カプセルが開き、翔仔が姿を見せる。
 その姿はあの眠りについた時とまったく変わっていない。

「いいなぁ・・私なんて・・年々・・」
 そんな愚痴をこぼす美貴に苦笑すると、俺はそれからの様子をただ呆然と見つめていた。

 そして・・全ての処置が終わった。
 
 本当に翔仔が生き返ったのか不安で、俺はそっと翔仔の心臓の音を聞いてみる。
 
− トクン・・トクン・・・

 規則正しく奏でる鼓動にホッとすると、俺は翔仔を揺り起こす。

「翔仔! 翔仔っ!!」

 何度も、何度も呼びかける。

 そして・・翔仔の目が開いた・・

「・・・大・・ちゃん・・?」
 戸惑ったように口を開いた翔仔を、俺はしっかりと抱きしめた。
「翔仔っ!!」
 強く、壊れそうなくらい強く抱きしめる。
 すると、翔仔も俺の背中に手を回して、しがみついてきた。

「大ちゃん・・・っ・・・会いたかった・・・」
「ああ・・・翔仔・・・!」
 じっと見つめ合った俺達は、そっと、キスをした・・・

「もう・・離さないからな・・・翔仔・・・」
 そんな俺の言葉に翔仔は何度も強く頷いた・・。












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