DADDY FACE SS 『もうひとつの翔仔伝説 (15)』
by Sin



 俺が気がついた時、ウルスラの姿は甲板になかった。

「ううっ・・草刈のヤツ・・勝ったのか・・?」
 だが、辺りを見回してみても、草刈の姿はどこにもない。
 辺りの様子も妙に騒がしい・・
 いったいどうなってやがる・・

「ヤ、ヤダ・・! 鷲士くん上がってこないよぅ・・・!」
 その声に俺は思わず振り返った。
 そこには海面を見つめて涙ぐんでいる美沙の姿が・・

「ま、まさか・・草刈のヤツ・・ウルスラと・・・!?」
 美沙の背後で、麻当もへたり込んだ。
「しゅーくんっっっっっっっっっ!」
 麻当の絶叫が辺りに響き渡る・・
 俺は思わず拳を甲板に叩きつけた。
「草刈っ・・・俺と同じ思い・・麻当にさせる気かよ・・・!」
 だが、その時だった。

 麻当の叫びにまるで呼応するかのように海面が盛り上がった。

「な・・・っ!?」
 驚く俺達の目の前で、黒い影が海面から飛び出し、俺達の更に後ろに降り立った。

「く、草刈!?」
 呆然とした俺達だったが、事はそれだけじゃなかった。
 草刈に続くように、今度は巨大なものが波間を突き破って姿を見せる。
「あ、あれは・・・」
 フジツボに覆われた巨大な腕。海坊主の腕だ。
 そしてその指の間には、ウルスラの姿があった。

「は、放せっ! 放しなさい! このロボット!」
 そう言って暴れるウルスラには腕がない。草刈がやったのか・・?
 叫ぶウルスラの口から血が溢れ、骨の砕ける音がここまで響いてくる。
「くそっ、どこなのよ、なぜ姿を現さないの!? こ、こんなことで! 私が誰だか
知ってるの!? かつて世界を沸かせた・・うぐぐぐ! ギギギ!」
 そして・・ウルスラの断末魔の悲鳴と共に、幕切れは訪れた。

 砕け散り、バラバラに千切られたウルスラの体は、ただ一つを残して、バラバラと
波間へ消える。ただ一つ・・首だけを甲板に残して・・・

 信じられない光景だったが・・ウルスラはこんな姿になってもまだ生きていた。
 その時・・草刈が、その首の前に立つ。そして、その上に片足を上げた。

− 草刈に・・やらせるわけにはいかない・・あれは・・おれの役目だ・・・

「・・・よくも翔仔ちゃんを・・・!」
 そう言って踏み潰そうとした草刈を俺は痛む腹を押さえながら止める。
「・・・待ちな!」
「せ、先生!?」
「・・・キャラじゃ・・ねーだろ・・バカ野郎・・! おまえは・・そんなことで
ヒトを殺しちゃいけねえ・・タイプだぜ・・! それは・・おれの役目だ・・!」

 ろくでもねえヤツだが・・翔仔とまた会わせてくれた事は感謝している・・
 だが・・
「だが・・許せねえのは・・ヒトの生死なんか・・はなから無視してるトコだ・・!」
 そう言って、足を上げる。
 だが、一つ思い出して付け加えた。
「・・そうそう・・美談は続くぜ・・きっとな」
 おれの言葉に戸惑ったようなウルスラを、おれは一気に踏み潰した。

 靴の裏に伝わってくる鈍い感触・・
 それを感じる間もなく、おれの意識はまた遠ざかり始めていた。

 よろめいたおれを、この船のスタッフらしい女が支えてジープに運んでくれる。
 そこには、安らかな表情で眠る翔仔の姿があった・・

「翔仔・・絶対に・・目覚めさせてやるからな・・」
 そう言って翔仔の身体を抱きしめてやる。
 冷たく、固くなり始めていた身体を、そっと・・優しく・・

 また意識が遠くなる。
 おれは翔仔をしっかりと抱きしめたまま・・意識を失った・・・

 それからどのくらいの時間が経っただろう。
 誰かに呼ばれた気がして俺が目を開けると、そこには心配げな草刈の姿が
あった。
「草刈・・か・・・」
「古谷先生、起きられますか?」
「・・・ああ・・なんとか・・な・・」
 痛む腹を押さえながら起きあがる俺の背中を草刈がそっと支えてくれる。

「翔仔ちゃんの準備、終わりましたから・・」
「そうか・・・」
 草刈の肩を借りて立ち上がると、俺は甲板へと出て行った。

 そこには、麻当や美沙、それに他の連中も集まっていた。

 そして、その中央には、カプセルに入れられた翔仔が、見覚えのない制服に
着替えさせられて、眠っていた。

「この服は・・?」
「ああ、着てた服、ボロボロになっちゃってたから、あのジャンバー以外は
変えてあげようと思って、カト女の制服なんだけど・・ダメだった・・?」
 そう言う美沙の頭をポンポンと軽く撫でてやる。
「ありがとよ。翔仔もきっと喜んでるぜ。いっそのこと、目覚めたらそこに
通わせてやった方が良いかもな」
「アハハ・・学費、高いわよ〜」
「・・・善処します・・」
 そう言う俺の様子に、辺りからクスクスと笑い声があがった。
これでいい。湿っぽくなるのは俺達の趣味じゃない。
それに、二度と会えなくなる訳じゃないしな。

 そして・・俺達は翔仔に一時の別れを告げた。
 ゆっくりとカプセルが色々な機材ごと海の中へと沈められていく。

「・・・絶対に目覚めさせてあげるからね・・冴葉、すぐに翔仔ちゃんを
目覚めさせる方法の調査と開発に取りかかって」
「はい、ボス」
「結城も、できるだけ協力します。必要な事があったら言って下さい、姉さま」
「うん、ありがと、樫緒」
「美沙、樫緒、絶対に翔仔ちゃんを助けてあげてね」
「まっかせて。FTIの総力を結集して絶対に助けてみせるから!」
「美貴さんは心配しないで下さい。結城とFTIが総力を結集すれば、不可能など
ありませんから」
「古谷先生・・そろそろ部屋に戻りましょう。あんまり歩き回らない方が良い・・」
「ああ・・・翔仔・・またな・・」

 そういいながら、俺は波間に消えた翔仔の姿をいつまでも・・見送っていた・・











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