DADDY FACE SS 『もうひとつの翔仔伝説 (14)』
by Sin



 燃えさかる炎の中・・ウルスラと草刈の話が俺の耳にも聞こえてくる・・
「ま、まさか・・工藤商会の人間を使って、わざわざ騒ぎを大きくしたのは・・!」
「出てくると思わない? 人魚本人が? しかもその備藤翔仔には、かつて直接関わっていたのよ? でも・・見捨てられてしまったようね」
「お、おまえは、そんなことのために・・・!」
 そう言って草刈が立ち上がる。
 俺の所からは見えないが、その背中に激しい怒りが満ち溢れているのが解る。
「あら、怒ってるの? いいじゃない、10年後にこうやって会えたんだから。青臭いガキの
恋愛って大嫌いなんだけど、サービスよ」
 その言葉に、俺は我慢ができなかった・・
 青臭い? サービス? 俺達の想いをそんな言葉で表されてたまるか!!
 確かに若かった・・幼い考えもあったかも知れない・・だけど・・
 だけど、俺達は真剣だった!
 命を賭けて・・その想いを貫き通した・・!
 それを・・それを・・・・っ!!
「て、てめえ! バカにするのもいい加減にしやがれ!」
 激昂して、周りにいたヤツらの銃を奪った。
 そしてトリガーに指をかけて・・
「殺してやる!」
 そう言った瞬間だった・・

「・・・あなたたちの体は動かない!」
 ウルスラのその声に俺達は完全に動きを封じられた・・・
 そして・・
「フフフ・・言ったでしょう。無駄無駄ってね」
 その言葉と共に俺に銃が向けられる・・

「もっと美談にしてあげるわ。そうね・・10年後、再び死んでしまった彼女を想い、医師になった男もあとを追うって言うのはどう?」
 その瞬間・・激しい爆音と共に、俺は甲板に倒れた・・

「ぐうぅぅぅ・・・! しょ、翔仔・・・!」
 目の前に倒れる翔仔の姿・・
 必死に手を伸ばそうとするが、体は言う事を聞かない・・
 鈍い痛みが・・俺の腹をかき回す・・
 撃ち抜かれた腹から・・真っ赤な血が・・辺りに溢れていくのが解った・・・

− 死ぬのか・・・俺は・・翔仔がどうなるのかも・・見届けないままに・・・

 大量の出血だ・・このまま行けば・・間違いなく死んじまうだろうな・・
 辺りが騒がしい・・
 ボンヤリと目を開けた俺の視界に飛び込んできたのは、娘の首を絞める草刈の姿だった・・

− あの・・バカ・・・なにやってやがんだ・・・

 必死に止めようとする草刈・・だが、体は自分の意志では動かせないみたいだ・・
 全てが絶望に包まれようとしたその時だった・・

−− やめなさい、ヒトの子よ。

 辺りに響き渡るその声・・そして、草刈達も、そしてロボット達も自由を取り戻した。

 それでもウルスラの声にまた動き出そうとする草刈の体・・だが・・あいつは・・自ら
腕をへし折って・・娘を守った・・
 そして・・更に両方の鼓膜を叩き破る・・
 子供達がその様子に愕然としているが、草刈は子供達に笑いかけ、レシーバーで何事かを伝えると、娘の頭をポンポンと叩いて、静かに立ち上がった。

 ゆっくりと振り返る草刈・・・だが、その様子はどこか違う・・
 異常なほど冷めた眼差し・・
 今までのあいつには見られなかった表情だ・・
 そして・・
「・・・決めたぞ」
「な、なにをかしら?」
 あまりの殺気に、さすがのウルスラも怯む。
「・・・ぼくは、おまえを殺そうと思う」
 ゆっくりと眼鏡を外す草刈・・そして・・その途端に、レンズはフレームごと砕け散る。
 その瞬間、草刈の体から息が詰まりそうなほどに激しい殺意が吹き出した。
 全員が震え上がるほどの殺気に身を包み、草刈はウルスラに向かっていった。
 自動小銃の銃弾を手で弾き、信じられないほどの戦闘能力でウルスラと互角以上に
ぶつかり合う草刈。
 やがて、形勢が悪くなってきたウルスラは、ロボット達に命令して草刈を攻撃させようと
するが、その時、あの海坊主が姿を見せた。
 どうやらあいつだけはウルスラの声に支配されないみたいだ。

 その間に、数人のヤツらが翔仔を避難させる為にジープに乗せていた。
 俺の所にも2人がやってきて、左右から支えてくれる。

 と、その時・・
 海坊主の視線が不意に俺と翔仔に・・いや、翔仔に向けられた。
 一瞬・・ほんの一瞬だった。
 死んでしまった翔仔を見た海坊主がひどく悲しげな顔をしたのを・・俺は確かに見た・・

 そして・・次の瞬間・・・海坊主はその怒りを露わにした。
 胸のシャッターが開き、レーザーが次々と放たれ、周りのロボットを切り裂いていく。
 更に、水面下に消えると同時に、最後の一体がゆっくりと沈んでいった。

 ウルスラが呼んだロボットは、それっきり二度と海上に姿を見せる事はなかった・・

− へ・・へへ・・・あの野郎・・・やってくれる・・ぜ・・・

 思わず緩んだ口元・・だが、俺の気力もここまでだった・・
 激しい出血で、俺はそのまま意識を失ってしまった・・・










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