DADDY FACE SS 『もうひとつの翔仔伝説 (13)』
by Sin



波音が辺りに響く・・
翔仔の願いに答えて、処置は巨大な船−ライトニング−の甲板でする事になった。
今から翔仔は・・もう・・これっきり会えないのかも知れない・・・

− いや、違う! 何を弱気になってんだ俺は!
激しい思いで葛藤する俺の側で、翔仔はみんなに礼を言った・・
草刈の子供達・・それに麻当と冴葉・・
草刈は、絶対に反対するのが目に見えているし、下手をすると実力行使に出かねないからな・・
その辺は、さすがにあいつの子供達だ・・よく解ってる・・

「そっか・・お礼、言いたかったのにな・・」
ひどく残念がる翔仔だったが、突然、手紙を書くと言い出した。
そしてその手紙を俺に渡すと・・
「ちゃんと、お礼言っておいてね、大ちゃん」
「ああ・・わかった・・」
翔仔の言葉に頷いて、俺は手紙を懐にしまった。

「・・・じゃあ・・大ちゃん・・・・お願い・・・」
「あ、ああ・・・わかった・・・」

− この注射で・・・翔仔は・・っ・・!

「大・・ちゃん・・」
翔仔が、震える俺の腕にそっと触れた。
「翔仔・・おれ・・・っ・・」
「・・・これは・・わたしと・・大ちゃんが・・・もう一度・・一緒に・・生きていくために・・
必要な・・・事・・だから・・・」
「・・・あ、ああ・・じゃ、じゃあ・・やる・・ぞ・・」
「うん・・」
ゆっくりと翔仔の腕へと薬が送り込まれていく・・
薬が効くまでにはまだもう少し時間がかかるから、俺は翔仔と2人で甲板に座り、肩を寄せ合った。

全てを失ってしまうような不安・・この、手の届く所にいる翔仔が・・もうすぐいなくなってしまう・・
その思いが・・俺の身体を震えさせる・・
そんな俺の手を、翔仔はしっかりと握った・・
「翔仔・・」
「・・・海だよ・・大ちゃん・・・」
「・・・ああ。景気の悪い海だ」
「・・・でも・・これが・・わたしたちの海・・よね・・」
「・・・ああ」
「フフフ・・ねえ・・わたしの夢・・聞きたい・・?」
「・・・聞かせてくれよ」
「家はね・・・海の見える・・ところに建てるの・・・」
俺はただ・・翔仔の言葉を黙って聞いていた・・
これが最後になるかも知れない・・そんな想いが幾度も脳裏を過ぎる・・
だが、俺はそのたびに必死に否定していた・・
「・・でね・・旦那さまは・・お医者さんで・・。子供が・・いるの。2人・・。女のコと
男のコが・・1人ずつ・・。頭がすごくよくて・・両親想いで・・」
あの時、奪われた俺達の子供・・・
産まれる事を許されなかった俺達の子供・・・翔仔が目覚めた時・・その時こそは・・
「そのコたちも・・やがて結婚して・・・。わたしと旦那さまは・・落ち込むんだけど・・
すぐに孫ができて・・フフフ・・」
肩にもたれる翔仔の身体から段々力が抜けていく・・
しっかりと握っていた手にも、ほとんど力がなくなっていた・・そして・・
パタリと翔仔の手が落ちる・・
俺は必死に翔仔のその手を掴んだ。
「近所でも・・仲がいいって評判の・・おじいちゃんと・・おば・・・おば・・・」
翔仔の声が途切れ・・そして・・ゆっくりと倒れていく身体を、俺はしっかりと抱きしめた・・
「・・・翔仔・・・! 翔仔・・・!」
俺は必死に声を押し殺して泣いた。
声を上げてしまったら・・きっと・・翔仔はゆっくり眠れないから・・

その時、草刈が俺達の側にやってきた。
連絡を受けてすぐに来てくれたんだろう・・
だけど、俺は何も言えなかった・・

ただ・・翔仔を抱きしめ・・泣き続けていた・・・

草刈の手が、翔仔の首筋に触れて・・そして・・・がっくりと膝をついた・・
「な、なんてことだ・・・! あ、あんなに苦しんでたのに・・! あんなに・・あんなに
辛そうだったのに・・・! ぼ、ぼくはなにもできないままで・・!」

草刈の叫びが・・周りですすり泣くみんなの声が俺の中に溢れて・・更に涙を流させる・・

その時だった。

「ターイム・アップ・・ね」

その声に俺達は一斉に振り向いたが、草刈だけはそのままうつむいている。
そして振り返った俺達の視線の先には、赤い・・血のように赤いスーツの女が立っていた・・

女−ウルスラ・ダリアン−の声と共に、巨大なロボットが何体も姿を現し、俺達に襲いかかってくる・・
燃えさかる爆炎の中・・俺は、ただ必死に翔仔の身体を守っていることしかできなかった・・









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