DADDY FACE SS 『恐怖 −美沙−』
by Sin



− や、やめろぉぉぉっ!!
鷲士の絶叫が木霊する。
そして銃口が私の額に向けられて・・・
銃声が轟いた・・

「きゃぁああああっ!!」
自分の悲鳴と共に意識がはっきりしてくる。
辺りを見回すと、そこは見慣れたアパートの部屋だった。
「・・はぁ・・はぁ・・・ゆ、夢・・?」
思わず額に手をやるが、当然そこには傷などあるはずもない。
だが、お気に入りのリボンは1つしか無くなってしまった。

思い出す度に震えてくる・・・
大好きな鷲士の手が自分に銃口を向けて・・・
「・・・っ!?」
美沙は思わず目を閉じ、耳を塞いだ。
− あれは・・鷲士くんがやったんじゃない・・絶対・・違うんだから・・
必死に思いを振り払おうとするが、余計にその後の事まで思い出してしまう。

「フェイス! 自分の手で娘を絞め殺しなさい!」

あの時、鷲士の手は確かに自分の首に掛かっていた・・・
− もし、ウルスラの催眠から逃れる事ができなかったら今頃私は・・・
そう思うと美沙の身体は更に震え出す。

「美沙ちゃん、どうしたの!?」
さっきの悲鳴を聞きつけたのだろう。
鷲士が慌てて美沙の部屋に飛び込んできた。
「鷲士・・くん・・・」
泣きそうな顔で見上げてくる美沙の肩に鷲士が手をかけたその時だった。

「い、嫌ああああああああっ!!」

バシッ・・っと激しい音が部屋に響く。
美沙が鷲士の手を振り払ったのだ。
「あ・・わ・・・私・・・」
自分でも何がどうなっているのか解らない。
ただ、美沙の身体は激しく震えていた。
まるで怯えるように・・・

「美沙・・ちゃん・・?」
戸惑いを隠せない鷲士。
それも当然だろう。ついさっきまで何気なく抱きついてきた美沙が、急に
自分の事を拒否したのだから。
だが、そんな中で鷲士は美沙の瞳に浮かぶ、怯えの色に気が付いた。

「・・・僕が・・・怖い?」
そう問いかけてくる鷲士の瞳はとても優しくて、怖くなんて全然無い・・
なのに・・
そう思いながらも、鷲士に触れられる事を本能的に恐れてしまっている事には
美沙自身、気づき始めていた。

「美沙ちゃん・・」
怯えて後ずさる美沙。その時、鷲士はいきなり美沙を抱きしめた。
「い、嫌あああああああああああああああっ!!」
あまりの恐怖に激しく暴れる美沙。
だが鷲士は、たとえ殴られても引っ掻かれても決して美沙を離そうとはしない。
「大丈夫・・もう・・大丈夫だから・・・君を傷つける人は・・もういないから・・」
その言葉にも美沙は更に暴れる。
美沙の心に深く刻み込まれた傷は、ちょっとやそっとでは治りようもないほど
深いものだったのだ。
「もしも次に僕が君を傷つけるような事があったら・・・僕は・・死を選ぶよ・・」

・・・と、それまで暴れていた美沙が急に大人しくなった。
「美沙・・ちゃん?」
訝しげに鷲士が見ると、美沙は鷲士の腕にすがって、泣き出していた。
「やだ・・やだよぉ・・・鷲士くん、死んじゃったらやだぁ・・・」
そう言ってすすり泣く美沙。
鷲士への恐怖よりも、鷲士を失う恐怖の方が勝ったのだ。
「私、もう鷲士くんの事・・怖がったりしないから・・・だから・・いなくなっちゃやだ
・・やだよぉ・・・」
泣きじゃくる美沙。
その身体を鷲士は優しく抱きしめた。
「ぐすっ・・鷲士くん・・・」
涙に濡れて見上げてくる美沙に鷲士は優しく笑いかける。
「いなくなったりしないよ。美沙ちゃんを残していなくなったりできるもんか」
「・・・ほんと・・に?」
「うん。ほんとだよ」
「鷲士・・くん・・っ・・」
それからしばらくの間泣き続けた美沙は、やがて泣き疲れて眠ってしまった。

「ゆうちゃん・・僕、強くなるよ・・・二度とあんな奴らに操られたりしないくらい・・
僕と君の子供達を・・何があっても守り抜く為に・・・」
そう言って鷲士は腕に抱かれて眠る美沙を優しく抱きしめた。
「・・・大好き・・だよぉ・・・鷲士・・くん・・・」
寝言を呟く美沙に鷲士は微笑むと、窓の外を見つめる。
夜空はとても澄んで、一杯の星が広がっていた。

「ゆうちゃん・・・また・・・会えるよね・・・」

鷲士の呟きは、夜空のプールへと消えていった。
いつか会える・・その想いを乗せて・・・





                     
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