DADDY FACE SS 『恐怖 -鷲士-』
by Sin



「しゅ…鷲士……く…」
美沙ちゃんの顔が段々青ざめていく……
嫌だ! ……この子は……この子は僕の……僕とゆうちゃんの………っ!!
ウルスラの笑い声……美貴ちゃんの叫び……樫緒くんが……みんながただ呆然と
僕達を見つめている……
誰か………お願いだ……僕を…止めて!!

バサッ!!

「はぁ……はぁ………また……あの時の……夢………」
全身が汗ばんでいる事が解る……
もうこれで何度目だろう……
「美沙ちゃん………っ…」
あの時、ゆっくりと美沙ちゃんの身体から力が抜けていくのが解った………
九頭竜を身につけた僕は……人の気の流れが解るから……
でも……あの時だけは……それが……つらかった……
美沙ちゃんの気の流れが……どんどん弱くなって……
僕の手の中で……消えてしまいそうに………
「ーーーっ!!」

あの光景が脳裏に浮かんで、僕は思わず目を閉じた。

怖い……もしもまたあんな事があったら……あの時はいづなさんが助けてくれたけど……
今度は助けてもらえないかもしれない……
そうなったら……今度こそ美沙ちゃんは………

その時だった。

『きゃあああああああああっ!!』
突然、美沙ちゃんの悲鳴が聞こえてきた。
急いで美沙ちゃんの部屋に駆けつけると、ノックも無しにいきなり扉を開いた。
「美沙ちゃん、どうしたの!」
「鷲士……くん……」
僕の声に泣きそうな瞳で見つめてくる美沙ちゃん。
怖い夢でも見たんだろうか……
そう思って僕がそっと美沙ちゃんの肩に触れた瞬間。
「い、嫌ああああああああああっ!!」
一瞬の痛み。
美沙ちゃんが突然僕の手を払いのけたんだ。

「あ、わ……わたし……」
戸惑った様子で僕を見つめる美沙ちゃん。
ただ、ひどく身体を震えさせている。
「……美沙……ちゃん……?」
泣きそうな瞳で僕を見つめている。
だけど、そんな美沙ちゃんの瞳にははっきりと怯えが現れていた。

「僕が……怖い……?」
そんな事を聞かなくたって、美沙ちゃんが怯えているのは間違いなく僕だ……
当然だよね……たとえ操られていたって言っても……僕のこの手が……美沙ちゃんを……
殺しかけてしまったんだから………
でも、今の美沙ちゃんからは、恐怖だけではなく、戸惑いも感じられる。
きっと、僕を怖がっているのがなぜなのか、わかっていない……いや、わかりたくないんだ……
「美沙ちゃん……」
………こんなに怯えている美沙ちゃんをほっておいて……僕は何をしてたんだ………
一人で夢に怯えて……してしまった事……もう済んでしまった事にくよくよして……
もう……二度と……この手で美沙ちゃんを傷つけたりなんかしない……
たとえ……その為に僕の命を失う事になっても………

今……美沙ちゃんを安心させてあげるには……これしか……ないよね………
「ごめん……」
そう言って僕はいきなり美沙ちゃんを抱きしめた。
「い、嫌あああああああああああああああっ!!」
ひどい恐怖に暴れる美沙ちゃん。
何度も叩いたり引っ掻いたりして、僕から逃れようとする。
でも……今離してしまったら、きっと美沙ちゃんはこれからずっと怯えていかなくちゃいけなくなる……
だから……
「大丈夫…もう……大丈夫だから………君を傷つける人は…もういないから……」
そう言っても、まだ美沙ちゃんは怯えてひどく暴れる。

だけど………
「もしも次に僕が君を傷つけるような事があったら………僕は……死を選ぶよ……」
その瞬間、今まで暴れていた美沙ちゃんが急に静かになった。
「美沙……ちゃん?」
不思議に思って見ると、美沙ちゃんは身体を震わせて泣き出していた。
「やだ……やだよぉ………鷲士くん、死んじゃったらやだぁ………」
そう言って僕に縋り付いてくる。
………死ぬ事が……この子達を守る事には……ならないんだね………
「私、もう鷲士くんの事……怖がったりしないから………だから……いなくなっちゃやだ
……やだよぉ………」
美沙ちゃんは泣きじゃくりながら、絶対に離れまいとするかのように僕にしっかりと
しがみついている。
そんな彼女の背中に、僕はそっと手を回して抱きしめた。
「ぐすっ……鷲士くん………」
涙に濡れて見上げてくる美沙ちゃんに僕は優しく笑いかける。
「いなくなったりしないよ。美沙ちゃんを残していなくなったりできるもんか」
「………ほんと……に?」
「うん。ほんとだよ」
「鷲士……くん……っ……」
それからしばらくの間泣き続けた美沙ちゃんは、やがて泣き疲れて眠ってしまった。

これから先……どんなにつらい事があっても……負けてなんかいられない……
「ゆうちゃん……僕、強くなるよ………二度とあんな奴らに操られたりしないくらい……
僕と君の子供達を……何があっても守り抜く為に………」

抱きついて眠る美沙ちゃんを優しく抱きしめる。
「………大好き……だよぉ………鷲士……くん………」
そんな寝言を言う美沙ちゃんの頭をそっと撫でると、窓の外を見つめた。
夜空はとても澄んで、一杯の星が広がっていた。

「ゆうちゃん………また………会えるよね………」

夜空はまるで僕の言葉を吸い込むように静かに広がっている………
きっと…会える……
……きっと……いつか………





                     
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