DADDY FACE SS 『子猫さまの災難(3)』
by Sin

完全に周囲を囲まれてしまった鷲士達。
だが、樫緒は彼等を睨みつけると言い放った。
「お前達、姉さまをこんな目に遭わせてただですむと思っているのですか!」
「ふっ・・・結城の御曹司か・・・来ると思っていたよ」
「・・・目的はなんです・・」
「しれたこと・・・復讐なのだよ、これは」
「復讐? 姉さまがお前達に復讐されるような事など、何もない!」
「その小娘のために、我々はそれまでの地位を、名誉を失い、安住の地を持つ事も許されなくなった・・・それに対する復讐なのだ」
「ばかばかしい! それはお前達が間違った事をしていたからだろう! なんの理由もなく、人を傷つける事に喜びを感じるような姉さまではない!」
「黙れ! そんな小娘が我々のような存在を裁こうという事自体が罪なのだ!」
「・・・そんなことの為に・・貴方達は、彼女をこれほどまでに傷つけたのか・・・?」
「くくく、ズタズタにしてやってもよかったがな。とりあえずは生かしておいてやったんだ。ありがたく思うんだな」
「貴様達・・・そんな事で姉さまを・・・」
あまりの怒りに樫緒の周囲にある物が浮かび上がっては砕け散る。
だが、周りを囲む連中はそんな事を意にも介していないように薄ら笑いを浮かべている。
「・・・・樫緒くん、美沙ちゃんを冴葉さんの所に・・」
「父さん!? こいつらをこのままにして・・」
「行くんだ! 僕の理性が少しでも残っているうちに・・」
そう言うと、鷲士はゆっくりと眼鏡を外した。
と、同時に眼鏡は音を立てて砕け散る。
「と、父さん・・・解りました・・姉さまを預けたらすぐに戻ります」
「美沙ちゃんを頼む・・樫緒くん」
「解っています・・っ!?」
「どうしたんだ?」
「・・・・おかしな力が働いているようです・・跳ぶ事ができません・・・」
「なんだって!?」

「ふふふ・・逃げようとしても無駄よ・・・」

「なっ・・いつの間に・・」
「僕が気配を読み落とした!?」
唐突に現れた女性に慌てて二人は美沙をかばう形で下がった。

「宗主さま、こんな男一人とガキ一人程度、我々の敵では・・」
「甘いわね・・貴方達では束になってもかなわなくてよ・・そうでしょう? ダーティ・フェイス!」
「僕の事を知っている・・まさかお前は!?」
「元はミュージアムのハイ・キュレーターだったわ。ヴラド・ベラリア。ヴラド婦人と呼ぶ者もいるわね」
「ヴラド・・ってまさか・・」
「一度は聞いた事があるでしょう? ヴラド・ツェペシュ。吸血鬼のモデルとなった串刺し公の名を。私はその呪われた一族の末裔よ・・」
「それじゃあまさかお前が美沙ちゃんの血を・・!?」
「ふふふ・・こんなに美味しい血は初めて・・だから殺さないでおいてあげたのよ。私に毎日美味しい血を提供してくれる家畜としてね・・」
「ふざけるなっ!」
その怒声と共に、樫緒の力がヴラドを引き裂く。
だが・・・

「あら、これでお終いなの?」

突然背後からした声に樫緒が慌てて振り返ると、いつの間にかそこには引き裂かれたはずのヴラドの姿があった。
「ば、馬鹿な!?」
「知らなかった? 吸血鬼は霧になる事ができるのよ。勉強不足ね、ぼ、う、や」
優しく抱きしめてくるヴラドに再び樫緒は力を放ったが、またも霧となって避けられてしまった。
「くっ、どこに・・」
「こ、こ、よ」
「なっ!?」
その瞬間、慌てて振り返ろうとする樫緒の首筋を狙ったヴラドは何かにはじき飛ばされた。
「な、なに?」
驚いた様子でヴラドが見ると、先ほどまで自分のいた場所に鷲士がいる事に気づいた。
「邪魔しないでくれるかしら?」
「もうこれ以上、樫緒くんにも美沙ちゃんにも手を出させはしない・・僕の子供達を傷つける事は許さない!」
「言ってくれるじゃない、フェイス。でも、いくら貴方が蝦夷の妖拳法、九頭竜の使い手だとしても、私の身体は傷つけられないわよ・・・」
「一つ聞きたい・・」
「なにかしら?」
「貴方は血を飲まないと・・生きていけないのか?」
「ふふふ・・もしもそうだと言ったら?」
「・・・僕はお前を許す事はできない・・だけど、それが生きる為の手段なのだとしたら、僕は・・貴方の存在全てを否定する事はできないから・・」
「・・・お人好しねぇ、ダーティ・フェイス。残念だけど違うわ。私が血を飲むのはこの美しさを保つ為・・吸血鬼の力と、この美しさを永遠の物にするには、うら若き乙女の血が必要なのよ」
「・・・じゃあ、僕はお前を絶対に許さない・・・自分の欲望の為だけに美沙ちゃんをこんな目に遭わせたお前を・・僕は・・殺す!」
「できるものならやってみなさい! フェイス!」
「樫緒くん、美沙ちゃんを頼む!! こいつは僕が倒す!!」
「解りました。姉さまの事は任せて下さい」
「お前達、もうその娘はいらないわ。好きにしていいわよ」
「くくく・・ようやく恨みを晴らすときが来た・・・」
「そんな時は永遠に来ません!」
そう言うと同時に樫緒は周囲を取り囲む者達に同時に力を放った。だが・・
「甘い・・甘いのだよ・・宗主さまの力ほどではないが・・我々でもお前ごときの力、よける事くらい造作もない事・・」
「ふふふ・・吸血鬼は下僕を作る事ができるのよ・・・私に比べれば弱いけれど、吸血鬼としての力も持たせられるしね」
「くっ・・ではいくら砕いても無駄という事ですか・・・」
「そういうことね。諦めてその子が私の下僕達に好きにされるところを見ているが良いわ」

「・・・寝ぼけて貰っては困る・・」

「なんですって?」
訝しげに見るヴラドを一瞥すると、樫緒は再び周りの者達に目を移した。

「お前達、僕の力ぐらい避ける事は造作もないと言ったな・・ならば、これならどうだ!」
樫緒がそう言った途端、周囲の風の流れが止まった。
「な、なんだ?」
「・・・水蒸気をいくら砕いても無駄・・ですが、氷ならばどうです?」
「なっ・・う、動けん!?」
「お前達の周りの空間を固定しました。もはやお前達は身動き一つできない・・」
「や、やめろ・・・」
「吸血鬼ならばそう簡単には死なぬはず・・姉さまを傷つけたこと、死ぬより後悔するといい!」
その瞬間、まるでガラスが砕け散るかのように周りの連中の身体が砕け散り、無数の破片となって辺りに散らばった。
そんな状態になってもまだ死ねないのか、破片はいつまでも蠢いていた。
「お前達にふさわしい最後です・・永遠に苦しむがいい・・」

樫緒が周りの者達を片づけたそのころ、鷲士はヴラド相手に苦戦していた。
何度攻撃しても霧になって避けられるので、効果的な一撃を与えられずにいたのだ。
だが、そんな中、鷲士はヴラドの動きに一定の法則を見つけかけていた。
「この程度かしら? 九頭竜もたいしたこと無いわね」
「・・・・(さっきはこっちで攻撃してここに現れた・・じゃあ次は・・))
「ふふ・・さあ、どうしたの? もう降参かしら?」
ヴラドがそう言うと同時に鷲士はヴラドに右竜徹陣を叩き込んだ。
再びヴラドは霧となって逃れる。だが・・
「そこだぁっ!」
「ぎゃああああっ!」
ヴラドの絶叫が辺りに響き渡る。

− 九頭・左竜落崩。

ウルスラの足を切断したあの技が、今度はヴラドの右肩を切断した。

「な、なぜ・・・」
「お前の動きは見切った・・これで終わりだ!!」
そう言って飛び上がった鷲士はうずくまるヴラドの首に両足首を引っかけてその勢いで投げた。

−ボギリ!

− 九頭双竜・顎。

「が・・は・・・」
頸骨をへし折られたヴラドはそれでもふらふらと立ち上がった。吸血鬼の再生能力で首が元に戻る。
と、その時、ヴラドの身体から白い煙が立ち上り始めた。
「な、なによ、これは!? い、嫌あああああっ!」
やがて、完全に煙に包み込まれたヴラドの姿が、徐々に見えてきた。
だが、そこにいたのは・・
「なっ・・・」
「父さん、終わったのですか? ・・・な、なに・・」
「これが・・彼女の・・本来の姿・・」
驚愕のあまり、動く事もできない鷲士と樫緒。
それもそのはずで、先程までヴラドがいた場所には、朽ち果てたミイラがあるだけだったのだ。
「・・・恐ろしく昔から女の子の血を吸って生き続けてきたけど、力を使い果たしてミイラに・・ということみたいだね・・」
「オ・・・ノ・・レ・・・・ワタシハ・・・・エイエンニ・・ウツクシイ・・ノ・・ニ・・スベテノ・・・ムスメハ・・・ワタシ・・ノ・・モ・・ノ・・・ワタ・・シ・・ノ・・・・」
かすれるような声で言うヴラド。
だが、その言葉が鷲士の怒りに再び火をつけた。
「消え失せろっ!!」
その言葉と共に鷲士の右手が霞み、次の瞬間、ヴラドの身体は天高く打ち上げられた。

− 九頭・右竜翔扇。

そして落ちてくるヴラドに向かって再び鷲士の腕が霞む。

− 九頭・左竜雷掌。

激しい生体電流でヴラドの身体に無数のひびが入る。
そして更に一撃。

− 九頭・右竜徹陣。

一陣をも打ち砕くと言われる一撃で、ヴラドの身体は完全に砕け散り、後に残ったのはぼろ切れのようになった服だけだった。






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