DADDY FACE SS
『妹』

by Sin

 良く晴れたある日の昼下がり…

 幽は、珍しく美月と2人きりで買い物を楽しんでいた。
 それというのも……

 朝食の後、不意に美月に声をかけられた幽。
「幽、今日って暇?」
「ええ、特に用事はありませんが」
「だったら…買い物、付き合ってくれない…かな?」
 なんとなく恥ずかしげにそう言う美月に、幽は微笑む。
「いいですよ。いつ頃出かけますか?」
「朝食の片づけが終わったらすぐに出たいんだけど…」
「わかりました。用意して待っていますね」
「お願いね」

 そうして2人で出かける事になった幽と美月。
 珍しく、優夜やその他の妨害もなく、いつもよりも楽しそうな美月に幽の表情も和らいでいた。

「おや、美月ちゃん。綺麗な男の子連れちゃって…デートかい?」
 そんな風にからかわれても、美月は照れくさげに笑って否定しようとはしない。
 むしろ、喜んでいる様にも見える。

 そうして2人で色々と見回っていた時…。
「あ、姉さん、買い物?」
 不意に声をかけられて見ると、そこには麟太郎と仲良く腕を組んだ美緒の姿があった。
「あら、美緒じゃない。麟太郎くんも一緒なのね」
「こんにちは、美月さん」
「ええ、こんにちは。麟太郎くん、美緒の相手するのって大変でしょうけど、見捨てないであげてね」
 からかうように言った美月に、膨れっ面の美緒。
 だが、麟太郎に「見捨てるなんて…僕の方が離れられないんですよ」そう言って微笑まれて、顔を赤らめた。

 その時、ふと美月の側にいる幽の姿に気付いた美緒は、悪戯を思いついた子供のような表情を浮かべる。
「あれっ、幽も一緒なんだ。へぇ…そう言うこと…」
 訳知り顔に笑う美緒に、思わず美月の顔が引きつる。
「美緒ちゃん、邪魔しちゃ悪いよ」
「まあねぇ……あ、そうだ! ついでだからこのままダブルデートって言うのはどう?」
「べ、別に、私達はデートって訳じゃ…」
 顔を真っ赤にして言う美月だったが、幽に「たまにはそれもいいですね」と言われて、ますます顔を赤らめる。
「え、えっと…その……幽がそう言うんなら……」
 恥ずかしげに答える美月に、美緒達は顔を見合わせて苦笑した。

 誰もが認める美男美女のカップルが二組も揃っていると、当然のように声をかけてくる輩も少なくない。
 普段なら、容赦なく美緒の鉄拳制裁か、美月の銃撃が待っているところだが、今日は少々違っていた。

「美月さん、下がっていて下さい」
「幽?」
「この程度の輩、美月さんが相手するまでもないですよ。それに…」
「それに?」
「たまには格好つけさせて下さい」
 そう言って笑う幽に、美月は照れくさげに頬を赤らめて微笑む。
「うん…じゃ、お願い」
「はい」
 美月の答えに満足したように頷くと、幽は絡んできた輩と対峙する。
 たかだか5〜6人。そんな輩が幽に勝てるはずもなく…
 瞬く間に全てが近くのゴミ箱に捨てられてしまった。
 
「それじゃあ、行きましょうか。美月さん」
 そう言って笑った幽に美月の頬が赤くなる。
「……うん…ありがとね…幽…」
「えっ?」
「な、なんでもない! じゃ、じゃあ行きましょ!」
 聞き返されて、美月は顔を更に真っ赤にすると、慌てたように歩き出した。
 その様子に美緒達は苦笑して後を追いかける。
「今日の姉さん、なんだか凄く可愛いかも……ね、麟太郎くん」
「あはは、そうだね」
「ひょっとして…私より可愛い?」
「比べられないよ。僕にとっては美緒ちゃんが全てだから」
「や、やだ、麟太郎くんってば……」
 真剣な顔で言われて、今度は美緒の顔が真っ赤に染まった。
 
 幽達が立ち去った後…
 彼らをつけようとする無数の影が、一陣の風によって消え去った事に気付く物は誰もいなかった。
 
 それからしばらくの間、二組のカップルは楽しくダブルデートを楽しんでいたが、やがて日が暮れてくると徐々に口数が減ってきていた。
 その理由が、美緒達にある事は間違いない。
 何故なら、辺りが薄暗くなってくると共に美緒と麟太郎はその親密さを更に深め、直視するのが恥ずかしくなる程の熱々っぷりを見せつけていたからだ。

 その時、不意に手に温もりを感じて美月が恐る恐る目を向けると、いつの間にか隣にいた幽の手が、そっと自分の手に重ねられていた。
 一気に真っ赤になる美月だったがその手を振り解こうとはせず、逆にそっと指を絡めて恥ずかしそうに俯く。

 そっと寄り添い合う二組のカップル…沈み行く太陽の光がその姿を二つの影へと変えた…

 風がその間をすりぬけてビルの屋上へと舞い上がっていく。
 そこでは、二つの瞳が彼女達の姿を苦笑しながら眺めていた。
 
「……美月、美緒……幸せそうだな…」
 そう呟く彼の足下には、美月達を狙っていた『しっと団』やその他の面々が転がっている。
「たまには邪魔の入らない日があってもいいだろ……気まぐれな兄貴の贈り物だ。まあ、楽しくやれよ」
 思い出すのは、かつて守れなかった自分の弱さ。
 だからこそ、雪人は願う。

 誰よりも妹達の幸せを……
 眼下に見えるその姿に満足げな微笑みを浮かべて、雪人は風のようにその場から姿を消した……。



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