DADDY FACE SS 『秘書として、そして女として・・・』
by Sin



「ふぅ・・・」
色っぽい溜息が静まり返ったライトニングレディーの艦橋に響く。
「キャプテン、なにか?」
「いえ、気にしないで・・・」
そう言うと冴葉は再び溜息を漏らした。

− 私が・・・あの時判断を誤らなければ・・

ライトニングレディの甲板で、あの日鷲士にすがって泣いていた美沙の姿が
今でもはっきりと思い出される。

− 私は・・・ウルスラの催眠に落ちているなんて・・全く思ってなかった・・

あの時引き金を引く事ができなかった為に、結果として、美沙に恐怖を与え、
鷲士にも怪我を負わせる事になってしまった・・・

「ボスを守れなくて・・・何が秘書・・よ・・」
握りしめた手が震える。

あの時は幸いにも、何者かが助けてくれたから美沙の命は助かり、鷲士にも
娘を殺してしまうという地獄を味会わせずに済んだ。
だが、もしもあの時、誰も助けてくれなかったら・・・
あれから何度も夢に見た光景を冴葉は振り払う。

− あの時・・鷲士さんの手が止まらなければ・・・今頃ボスは・・・

「・・・単衣、しばらくここを任せます。緊急の時はすぐにコールを」
「は、はい、キャプテン」
戸惑ったような単衣の声に背を向けて、冴葉はブリッジを離れる。
やがて自分の部屋にたどり着くと、そのままベッドに倒れ伏した。

こうしていると、あの時の鷲士の言葉が脳裏に浮かんでくる。
『冴葉さん、美沙ちゃんたちと古谷先生のこと、お願いします』
いつもの優しげな鷲士の声とはどこか違う・・暖かみはあるが、その裏に
激しい怒りと悲しみを秘めた声・・・

「鷲士さんの・・あんな声はもう・・聞きたくない・・・」

美沙と樫緒の父であり、美貴の最愛の人であり、そして冴葉にとっても・・・

「・・・私には・・そんな事を思う資格はありませんね・・」
そう呟いた冴葉の瞳から、一滴の涙がこぼれた。
− あの人には・・すでに大切な人がいるのだから・・・

と、その時だった。
「冴葉〜、いる?」
扉の向こうから聞こえてきた美沙の声に冴葉は思わず飛び起きた。
「ちょ、ちょっと待って下さい!」
そう言うと慌てて鏡に向かう冴葉。
眼の赤さはごまかせそうもないが、とりあえず服装と髪の乱れだけは直して
扉を開ける。

途端に冴葉の心から悩みが吹き飛んだ。
そこにはひまわりのような笑顔を見せる美沙と、いつも通りの鷲士の姿が
あった。

「・・・どしたの? 眼、赤いよ?」
「すみません・・・眠っていたものですから・・」
うまい言い訳が思いつかなかったので、冴葉がそう言うと、鷲士が心配そうに
見つめてきた。
「大丈夫ですか、冴葉さん。疲れてるんじゃ・・?」
「え、そうなの、冴葉?」
鷲士の言葉に心配げに美沙も見つめてくる。

2人の優しさが嬉しくて胸に熱いものがこみ上げてきた冴葉は、そっと胸に手を当て、
涙に潤んだ瞳で微笑んだ。
「心配して頂いて、ありがとうございます。でも、大丈夫ですから・・・」
その表情に鷲士が・・そして美沙も真っ赤になる。
「どう・・しました?」
2人の様子に戸惑った冴葉が聞く。
「あ、いや・・その・・」
「冴葉がそんな風に笑ったの、初めて見た・・・」
美沙の言葉にコクコクと頷く鷲士と、そう言って笑う美沙の様子に再び冴葉は笑った。

− この人達となら、何があっても乗り越えていける・・たとえ思いが叶わなくても・・・

「冴葉?」
2人と共にブリッジに戻る途中、その声に冴葉がふと見ると、美沙が不思議そうに見ている。
「ボス、何か?」
「あ、ううん、その・・なんていうか・・・いつもと違うね、冴葉」
「えっ?」
小首を傾げながら答える美沙に、戸惑ったように冴葉は自分を見回した。
「ちょっと耳かして、冴葉」
「はい?」
美沙の考えが解らないままに冴葉はかがみ込む。
「・・冴葉、鷲士くんの事、好き?」
その言葉に冴葉は一気に真っ赤になった。
「な、なにを・・・!?」
「どうしました、冴葉さん?」
前を歩いていた鷲士がその声に振り返る。
「い、いえっ、なんでもありません!」
大慌てでそう言う冴葉の様子に鷲士は目を丸くしていたが、やがて背を向けて歩き出した。
「ボ、ボス、私は・・別に・・・」
取り繕う冴葉の手を、美沙が握った。
「・・・駄目だよ・・・鷲士くんは・・私達のお父さんなんだから・・・」
「わ、解っています・・・」
そう答えた冴葉だったが、途端に美沙が笑った。
「ボス?」
「やっぱり鷲士くんの事、好きなんだ〜」

− 引っ掛けられた・・・

そう思うと照れくさくなって、冴葉は頬を赤らめる。
「・・・鷲士くんの事・・守ってね・・冴葉・・・」
「えっ?」
美沙の言葉に戸惑ったように聞き返す冴葉。
「鷲士くんの事好きなら・・・守ってね・・・」
「ボス・・・」
「あ、でも・・・」
「解っています。美貴さんから取ったりはしませんから・・」
その言葉に美沙は笑って頷くと、ふと何かを思いついたかのような表情を見せた。
「そ〜だ! ねえ、冴葉が鷲士くんにアプローチしたら、美貴ちゃんも焦って・・」
美沙のその言葉に冴葉は苦笑すると、横に首を振った。
「遠慮しておきます。私はまだ、死にたくありませんし」
「あ、それもそっか。美貴ちゃん嫉妬すると怖いもんね〜」
そう言う美沙と共に冴葉も笑った。

− 本当は・・そんな危険を冒しても鷲士さんと・・・

心の奥でそんな事を思いながら・・・





                     
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