DADDY FACE SS 『不死咎人(最終話)』
by Sin



 あの戦いから2週間の時が流れた。

 医者からは全治3ヶ月と言われていた虎雄だったがそこは彼も九頭竜の闘士。完全とはいかないまでも、ほぼ完治している。
 退院するその傍らには美沙が心配げな表情で寄り添っていた。

「虎雄、ホントに大丈夫? どこも痛くない?」
「大丈夫だって。ほら、この通り」
 そう言って虎雄はいきなり美沙を抱き上げる。
 唐突にされて美沙は真っ赤になると「こ、こらぁ!」と言ってポカポカ。
 それをくすぐったそうに受け止めながら虎雄が耳元に息を吹きかけると、美沙は首筋まで真っ赤になって身を竦ませた。

「虎雄くん、退院おめでとう」
 じゃれ合う2人に苦笑混じりの声がかけられる。
 見ると、そこにはにこやかに微笑む鷲士と、その腕にしっかりと抱きついた美貴の姿があった。
 少し離れて樫緒もふて腐れたような表情で佇んでいる。
「師匠、来てくれたんですか」
「もちろんだよ〜虎雄くんが退院するって言うんだから、迎えにくらいは来るよ」
「鷲士ってば心配してたよ、色々と…ね」
「い、色々って……」

「そりゃあ、(ピーーーーー)とか(ピーーーーーーーーーーーーーー)とかしてるんじゃないかってね」

 過激な美貴の言葉に虎雄や美沙ばかりではなく、鷲士達も顔を紅く染めた。
「み、美貴ちゃん、ちょっと過激すぎ……」
 その言葉に振り返った美貴の視線に怪しい物を感じて、鷲士は思わず後退った。
 と、その時……

「いつまで公衆の面前で抱き合っているつもりです、離れなさい!」
 唐突に近づいてきた樫緒が、虎雄達を引き離す。
「ちょ、ちょっと、樫緒!」
 不満げな美沙の言葉などまるっきり無視して、樫緒は虎雄を睨み付ける。

「ハッキリ答えなさい、虎雄。姉さまとは一体どんな付き合いをしているのです!?」
「ど、どんなって言われても……」
「答えなさいと言っているのか分かりませんか? 迷うこと、悩むこと、考えること、一切許しません! さあ、答えなさい! 今すぐに! さあ! さあさあさあっ!!」
 
 詰め寄る樫緒に後退る虎雄。
 ゆっくりと、だがしかし確実に虎雄は追いつめられていく。

 そして…その背中に固い物が触れる感触が。
 いつしか虎雄は完全に壁際へと追い込まれていた。
「う……っ」
 流れる冷や汗。
 恐る恐る目を向けると、青い光を全身に走らせながらじわじわと迫り来る樫緒の姿が…

「もう逃げられませんよ。即座に答えるならば良し、さもなくば……」
 一筋の光。それが通り過ぎた後は、全てが切り裂かれていた。
「この場で処分します!」
 ハッキリと言いはなった瞬間、ばっし〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん!という派手な音と共に樫緒の身体が吹っ飛ばされる。
 そのままどんどん飛んでいき、やがて、きらりん……とお星様になってしまった。

「あららら……随分飛んだわねぇ……」
「美貴ちゃん……」
 のんきに笑って言った美貴に苦笑する鷲士。
 その横では、『ふっとべ君、超特大バージョン』を振り切った格好のまま樫緒の消えた空を睨み付ける美沙の姿が。

「はぁはぁはぁ……ふざけんじゃないわよ! 虎雄にそんなに近寄って良いのは私だけなんだから!!」
「……そう言う問題か?」
「そう言う問題なの!」
 冷や汗混じりに苦笑する虎雄に美沙は顔を真っ赤に染める。
 
「樫緒も相変わらずのシスコンぶりねぇ……育て方、間違えたかな?」
「始めっからあんな感じだよ、樫緒は」
 美貴の言葉に溜息混じりに言い捨てる美沙。
「それにしても……ねぇ、虎雄?」
「ん?」
「あの時……私を助けてくれた時……どうしてあんなに早く動けたの?」
「そう言えば、あの時って鷲士にも見えてなかったよね?」
 思い出すように言った美貴に鷲士も頷く。
「そうだね。正直あの時は驚いたよ。でも、虎雄くんなら僕には出来ないことでも出来るようになるかもしれないとは思っていたんだ」
「えっ?」
「僕は、この左半身を動かす為に気の力で神経をバイパスしているから肉体操作に九頭竜の力を100%使い切れていないんだ。でも虎雄くんなら…」
「100%使えるって事?」
「うん、師匠が言ってたんだ。九頭竜の使い手は気を用いて無限の力を生み出すことが出来るってね。完全に力を使い切れない僕でも駅のホームを飛び越えたり出来るくらいの力が出せるんだ。だからもしも虎雄くんが完全に力を使い切れれば、僕なんかよりもずっと大きな力を使えると思っていたんだよ」

 鷲士にそう言われて照れくさげに頬を掻いていた虎雄だったが、やがてポツリと呟いた。
「あの時…俺はとにかく美沙を助けなくちゃいけないと思って…ただ無我夢中だった…間に合え…1秒でも早く…1歩でも先へ…ただそれだけを考えていたんだ…」
「虎雄……」
「自分でもあの時のことは良く覚えてないんだけど…少しでも早く動こうとするたびに、身体のどこかが壊れていくのを感じたよ。でも、まぁ…美沙を助けることしか頭になかったからなぁ…」
 そう言って苦笑する虎雄に鷲士達も微笑む。
 美沙は恥ずかしそうに頬を赤らめながらも、嬉しそうにギュッと彼の腕に抱きついた。

「虎雄くん。美沙ちゃんを守ってくれて本当にありがとう。君がいなければ、今頃美沙ちゃんは…」
「い、いや、俺、なにがなんでも美沙のこと守りたかっただけだから…」
「大切に思ってくれてるんだね…」
 鷲士の言葉に、虎雄は照れくさげに苦笑いしていたが、やがて力強く「……はい」と頷く。
「一番、大切ですから」
 そう続ける虎雄に美沙は顔を赤らめ、その様子に美貴も鷲士と視線を交わして微笑んだ。
 
「それはともかく…君達、本当にどこまで…」
「それは……そのぉ……」
 口籠もる美沙。その時……

「ね・え・さ・まぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
 遙か遠くから響いてくる声。
 その瞬間美沙は再び『ふっとべ君』を構える。
 
「いい加減に……」

 美沙の声に答えるかの如く『一撃必殺!!』の文字が炎のように浮かび上がり、紅い光の帯が『ふっとべ君』の軌跡を辿るように弧を描く。
「しなさいよォォォォォォォォォォッ!!」

 一閃。

 ぶぅんと唸るような音と共に、巨大ハリセンが再び戻ってきた樫緒、そしてその場にいた鷲士をも巻き込んで吹き飛ばす。
「なんで僕まで〜〜〜〜〜〜」という情けない声と共に、きらきらり〜ん…と彼方に星が2つ瞬いた。

「さてとぉ……これで邪魔者は消えたし……」
「えっ?」
「あ、美貴ちゃん。鷲士くんのことお願いね〜」
 その言葉にクスクス笑うと、美貴は「しゅーくんのことなら、お母さんに任せなさいっ」と言って、飛んでいった鷲士の後を追った。

 そしてその場に残ったのは美沙と虎雄の2人だけ……

「虎雄……」
「ん?」
「……本当にありがとう…虎雄がいなかったら…私……」
 俯いた美沙の肩を、そっと虎雄が抱き寄せる。

「いいって、気にするなよ…俺が守りたかったから守ったんだ」
 そう言ってクシャクシャと髪を撫でつける。
 くすぐったそうに目を細めていた美沙は、「…うん…」と頷いて、瞳を閉ざした。

 唇にそっと触れる温もり…
 お互いに感じながら、抱きしめ、抱きしめられる手に力が入る。

「大好き……虎雄……」
「美沙…」

 囁き、視線を交わして微笑む2人。
 完全に2人きりの世界に入ってしまった美沙達が、周囲の視線に気付くのにはまだしばらくの時間が必要だった…


 数日後……

 ラマダンでは溜まりに溜まった書類の処理に追われる美沙の姿があった。
「はぅ……こんなの終わらないよぉ……」
 溜息をついて机に突っ伏す美沙。
 その視線の先には照れくさげに笑う虎雄の写真が…

「……虎雄…」

 なんとなく嬉しくなって写真を突いていた美沙だったが…

「うっ……?」

 一瞬、吐き気のような違和感を感じて口元を押さえたが、すぐに何事もなかったかのように違和感は消え去った。

「………なんだろ? 疲れてるの……かな? ま、いっか」

 そのまま、またしばらく写真を見つめていた美沙は、やがて大きく伸びをすると書類に向かう。

「さてと…んじゃ、頑張りますか。ねっ、虎雄」

 そう言って写真に軽くキスをすると、再び仕事を始める。
 また始まるいつもの時間…

 だが、この時…美沙の身体にはある異変が起こっていたのだが、彼女がそれに気付くのは、まだまだ先のことだった…

 
 −不死咎人− (完)



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