DADDY FACE SS 『不死咎人(10)』
by Sin



「美沙!?」
 悲鳴の様な美貴の声。
「美沙ちゃんっ!!」
 全力で守ろうと走る鷲士。
「姉さまっ!!」
 樫緒の世界が、青い火花を散らす。
 だが、そのいずれも間に合わない。
 美沙の足下から突き出された数本の触手は、すでに美沙の目前にまで迫っていたのだ。

「・・・・・・虎・・雄・・っ!!」
 もはやどうする事も出来ない。
 誰もがそう思った・・はずだった・・

 それは・・まるでスローモーションのようで・・
 今にもその身体を貫かれそうになったその時、美沙は激しい衝撃で、なにかに突き飛ばされた。
 そのまましたたかに背中を打ち付け、息が詰まる。
 咳き込みながら、ゴロゴロと転がって落ち着こうとする美沙。

 突然の出来事に、周囲は静まりかえる。

 風の音だけが辺りを吹き抜けて・・

「・・・っ・・いたたた・・・あ・・あれ? え、えと・・私・・生きて・・る?」
 見回すと、所々擦り剥いてはいるものの、大怪我には到っていない。

「・・・なんで・・? 絶対に・・私・・死んだ・・って・・」
 思い出す恐怖。
 美沙はその場にへたり込むと、ポロポロと涙を溢れさせて震えだした。

 だが、一体何が起こったのか・・

 それを確かめようと顔を上げた美沙の目に映った物は・・・

「・・・・・・・虎・・雄?」

 言葉が続かない・・

 足下に広がっている赤い物・・
 あの化け物?

 違う・・

 赤くて・・・暖かくて・・

 それは・・

 美沙の目が、大きく見開かれる。
 わなわなと震える唇が・・・言葉を紡ぎ出す・・

「・・・・い・・嫌あああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!」

 叫ぶ・・喉が裂けんばかりに・・
 叫べば、目の前の光景が嘘になると信じるかの様に・・

 そこには・・幾本もの触手に身体を貫かれた、虎雄の姿があった・・・

 ずるりと抜け落ちる触手。
 吹き出す鮮血が辺りを朱に染め、虎雄の身体はその血溜まりに沈んだ。

「虎雄・・・虎雄ーーーーーーーっ!!」

 泣きながら駆け寄ろうとする美沙。
 だが、その足下からはまた数本の触手が美沙を狙ってくる。

「させませんっ!!」
 間一髪、樫緒の瞬間移動が美沙を救う。
 直ぐさま鷲士達の側に現れた樫緒達だったが、美沙は樫緒の手を振り解いて、また虎雄の側に駆け寄ってしまった。
 そのまま、倒れ伏す虎雄の身体に縋って泣きじゃくる。
「姉さま!?」
「樫緒くん! 美沙ちゃん達の足下から触手が出てこられない様にして!」
「あ、は、はい!」
 鷲士の声に、樫緒が直ぐさま美沙達の足下に力を張り巡らせる。
 時々、青い光が弾けているのは、その場所から触手が突き出ようとした跡だ。

「美貴ちゃん、背中任せてもいいかな?」
「しゅーくんのお願いだったら、私何でも聞いちゃうよ(はぁと)」
「い、いや、だからそう言う場合じゃ・・と、とにかく・・僕達で、美沙ちゃんと虎雄くんを守るんだ」
「うぅ・・しゅーくんのいじわる・・」
 頬を膨らませながらも、美貴は美沙達を中心に鷲士と背合わせになる様にして、薙刀を構えた。

「樫緒くん、以前僕の身体を治してくれたみたいに、虎雄くんの事も治せる?」
「・・見えている範囲ならば可能でしょう・・」
 その返事に、鷲士は頷く。
「じゃあ、頼むよ。その間は僕と美貴ちゃんで守るから」
「解りました。父さん」
 答えた樫緒に微笑むと、鷲士は美貴と視線を交わした。

「美貴ちゃん、気を付けてね」
「大丈夫。こう見えても私、結構強いんだから」
「それはよく知ってる・・」
 そう言って笑う鷲士に、「も〜っ、しゅーくんのいじわるぅ」そう言って美貴も笑った。

「冴葉さん! 急いで病院の手配を!」
「すでに完了しています。あと5分ほどで、ヘリが到着しますので」
 落ち着いて答える冴葉に頷くと、鷲士は周囲から次々と姿を見せる触手を睨み付けた。

− オレノモノ・・・ジャマシヤガッテ・・・ヨコセ・・オレノオンナァァァァッ!!

 襲い来る触手を、鷲士の閃刀が、美貴の薙刀が、次々と薙ぎ払っていく。

 そんな中で、樫緒は泣きじゃくる美沙の側に立つと、じっと虎雄の姿を見下ろした。

「腹部に2箇所・・胸部に1箇所・・右足太腿と、左の肩口が抉られていますね・・このままでは・・」
 樫緒の脳裏を、先程の光景が過ぎる。
 今にも貫かれそうになった美沙を、虎雄は鷲士ですら間に合わないほどの距離を一瞬で移動し、自らの身を挺して救った。
「嫌・・嫌よ・・虎雄、死んじゃ駄目ぇぇぇっ!!」
「・・・虎雄・・僕は・・貴方を認めはしない! 姉さまの事が大切なら・・どうして姉さまを泣かす様な真似をする!」
 突然の樫緒の言葉に、美沙は泣いていた事も忘れて思わず見つめた。

「死んでも守るなんて言わせません! もし貴方が死ねば、姉さまがどれほど悲しむのか・・それくらいの事が、何故解らないのですか!!」
「樫緒・・」
「死なせはしない・・この程度で死んで貰っては困るんです! 死なれて・・姉さまが・・母さまのようになってしまったら・・ッ!!」
 脳裏に浮かぶ美貴の表情・・
 それは、涙を流し、血を流し・・
 無限に繰り返される哀しみに押しつぶされる母の姿・・
 愛する人と引き離されたショックから、何度も自傷行為に走った美貴・・
 そんな姿が・・今の美沙に重なる。

「あんな表情・・母さまにも姉さまにも・・もう絶対にさせはしない!!」

 口数も少なく、愛情表現が苦手な樫緒・・
 その樫緒が言い放ったのは・・限りなく大きな愛情・・いや、激情の誓い。
 言葉は言霊となり、より大きな力となる。

 いつしか樫緒の身体は、青白い光に包まれていた。

「いつまで寝ているつもりです! とっとと目を覚ましなさいっ!!」

 樫緒の放った力は青い閃光となって、虎雄の身体へと降り注いだ・・





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