DADDY FACE SS 『不死咎人(7)』
by Sin



「しゅーくん! 美沙が、美沙がっ!!」
 突然目の前に現れた光景に、パニック状態の美貴。
 泣きすがってくるその身体を鷲士は強く抱きしめてその光景を見入る。
「美沙ちゃん・・虎雄くん・・・・今、助けるッ!」
 そっと抱きついている美貴を離れさせると、鷲士は裂帛の気合いと共に化け物へと飛びかかっていった。
 だが・・

「な、なんだっ!?」
 驚きの声と共に鷲士がその場から仰け反るようにして下がった。
「しゅーくんッ!?」
 慌てて駆け寄ろうとする美貴を制して、鷲士は目の前に現れた化け物の大群を睨み付ける。
 そこには、あの化け物と同じ、赤く透き通った物体で出来た女性の姿をした者が十数体。それに、熊や犬のような動物達・・
 さらには巨大化した昆虫のような物まで、大量に姿を現していた。
 その数は時間と共に増え続ける。

「時間がないって言うのに!! 美貴ちゃん、君は・・」
 そう言って振り返った鷲士は、思わず目を見開いた。
 先程まで、何も持っていなかったはずの美貴が、大きな薙刀を構えていたからだ。
「み、美貴ちゃん、それは・・?」
「ああ、これ? 冴葉さんに貰った、どんな大きな物でも1つだけ入れておけるっていうこのキーホルダーに入れてたの」
 美貴はそう言いながら腰に下げたキーホルダーを揺らして見せる。
「そ、そうなんだ・・」
 思わず冷や汗が流れる。
 どんな物でも入れられる・・って事は、もし結婚していなかったら入れられたのは・・僕かも・・
 そんな事が頭に浮かんだ鷲士だったが、今はそんな事を考えている場合ではない事を思い出し、イメージを振り払った。

「私の事なら大丈夫だから・・今は・・美沙を!!」
 凛としたその様子に、鷲士は笑みを浮かべる。
「な、なに?」
「美貴ちゃん、やっぱりお母さんなんだなぁ・・って思って」
 鷲士の言葉に顔を赤く染める美貴。
「・・そ、それは・・その・・やっぱり・・娘の事だし・・あーん、もう、今はそんな事より、こっち!」
 恥ずかしげな美貴の様子に鷲士は口元を弛めるが、やがてキッと化け物を睨み付けた。

「・・美貴ちゃん、しばらく1人で大丈夫?」
「あんな奴、大したこと無いわよ。それより〜」
「えっ?」
 突然口調の変わった美貴に、戸惑う鷲士。
「これ、終わったらご褒美・・ね」
「ご、ご褒美!?」
「・・・今日は・・寝させないからね・・」
「う・・ぜ、善処します・・」
 引きつった笑いでその場を切り抜けた鷲士は、もう一度気合いを入れ直すと、化け物の群れに突っ込んでいった。

 飛びかかる直前、脳裏に浮かぶのは数日前の犬の様子。
「直接触れるのは拙いな・・それならっ!」
 群れの直前で、鷲士は一気に地面を蹴り付ける。それと共に、大きく地面が盛り上がって1枚の壁のようになった。
「とりあえず・・・埋まっていろぉぉぉっ!!」
 右竜徹陣が土壁を砕く。
 そして化け物達に一気に覆い被さった。
 残るはあと十数匹、それに美沙達を閉じこめているあの大物。

「そこを、退けぇぇぇっ!!」

 全身に漲らせた気を溢れさせながら、1話の鷲の如く、鷲士は上空から化け物達に飛びかかっていった・・・


 − 誰かの呼ぶ声が聞こえる・・
 朦朧とする意識の中、虎雄は確かに誰かの声を聞いた。

 − そうだ・・・俺はあの化け物に取り囲まれて・・
 ふと、腕の中の温もりに気付く。
 目を向けると、そこには震えながら固く目を閉じてしっかりと抱きついている美沙の姿があった。

 その姿に、萎えかけていた虎雄の闘志が再び燃え上がる。

「守るんだ・・何があっても・・俺が・・俺がぁぁッ!」

 虎雄の叫びに呼応するかのように、消えかけていた虎雄の気が一気に高まりだした。

 その変化にいち早く気付いたのは鷲士だった。
「虎雄くん!?」
 まるで爆発するかのように高まる虎雄の気が内側から化け物達を押し開いていく。
「俺が・・・美沙を・・・守るんだぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
 叫びが、闘志が、虎雄の姿を一瞬、金色に輝く巨大な猛虎のように見せる。
 その瞬間を、鷲士は逃さない。
「今だぁぁぁっ!!」

 虎雄の体内に生まれた強大な電流が一気に迸る。

 − 九頭・左竜雷掌
 
 − 九頭・左竜閃刀

 内側から弾ける雷撃。そして外から切り裂く刃。
 その2つが同時に化け物を貫き、一瞬にして弾き飛ばした。

「はぁっ、はぁっ、はぁっ・・・み、美沙、大丈夫か・・?」
 虎雄が呼びかけると、美沙は気を失っていたのか、一瞬呻いてからゆっくりと瞼を開いた。
「虎・・雄・・?」
「良かった・・なんともないみたいだな・・くっ・・」
 まるで全身から力が抜けてしまうような感覚に、倒れ込む虎雄。
「虎雄っ!!」
 慌てて支える美沙だったが、虎雄は立つ事も出来ない程、酷く衰弱していた。

「美沙ちゃん、虎雄くん、無事か!?」
 駆け寄ってくる鷲士と美貴に、美沙は強く虎雄を抱きしめたまま答える事が出来ずにいた。
「美沙・・ちゃん?」
 いつもと違う美沙の様子に、鷲士は戸惑いを隠せない。
「美沙、どうしたの?」
「・・・虎雄・・このまま死んじゃったら・・私・・・私・・・っ・・」
 震えている。いつも気丈で、鷲士や美貴がどんなに絶望しそうな時でも、なんとかしてしまうような美沙が。
「もし・・虎雄が・・いなくなっちゃったら・・・」
 泣いていた。今までにも何度も見た事がある涙ではない。
 初めて・・美沙が初めて得た、誰よりも・・何よりも大切なものを失いそうな時に流す涙・・
 その涙に秘められた想い・・鷲士と美貴には、それが誰よりも分かった。

『つよくなる・・ぼく、つよくなるよ・・ゆうちゃん・・』
 その涙に誓った幼き日の誓い・・
 あの日に流したお互いの涙を、2人は絶対に忘れない。
 だからこそ・・今の美沙の気持ちを、誰よりも分かる事が出来た。

「美沙ちゃん、大丈夫だよ。虎雄くんは・・大丈夫」
「ホント?」
 涙目で見つめてくる美沙を、鷲士はそっと抱きしめる。
「今は酷く疲れているだけだから、ゆっくり休ませてあげれば、大丈夫だよ」
「そ、そうなんだ・・・よかった・・」
 ホッとしたのか、また美沙の瞳からぽろぽろと涙が溢れてきた。
「あ、あれ? あれれっ?」
 自分でも抑えられない涙に、戸惑いを隠せない美沙。
 そんな様子に、鷲士と美貴は視線を交わすと、微笑んだ。

 だが・・その時!

「しゅ、鷲士くんっ、後ろ!!」
 突然の美沙の声に慌てて振り返った鷲士が見たものは、これまでにない程巨大で、形の定まらないあの化け物の姿だった・・






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