DADDY FACE SS 『不死咎人(5)』
by Sin



 あの化け物との遭遇から3日。
 八方手を尽くして捜索を続けている美沙達だったが、なんの手がかりも掴めてはいなかった。
 だが、あの化け物が関わっていると思われる事件は日増しにその数を増やしている。
 遭遇したあの日に2人、その翌日に3人。昨日は5人・・そして今日もすでに連絡が取れなくなった人が数人いるらしく、皆、緊張の色を隠せなくなっていた。

 いつものようにカト女へと向かう美沙。その傍らには虎雄の姿が。
「ねえ、虎雄。やっぱりあの化け物って、権堂だと思う?」
「話を聞く限りではそうじゃないかと思うよ。そう考えると、行動の辻褄も合うし・・」
「そうよね・・・だとすると・・やっぱり狙われるのかな・・私・・」
 呟いて不安げな表情を浮かべる美沙。その肩をそっと虎雄が抱き寄せた。
「あ・・」
「心配するなよ、美沙。もしあいつがお前の事狙ってきても、その時は絶対に俺が守るから」
「・・・うん・・ありがと・・」
 優しく微笑んでくる虎雄の姿に、美沙は思わず頬を赤らめる。

 何気ない会話を楽しみながら、2人がカト女の前に辿り着いたその時だった。

「・・・美沙、離れるな・・」
「えっ?」
 急に緊張した声で制止してくる虎雄に戸惑って振り返った美沙。
「なんだかおかしい・・気配が・・感じられない・・」
「どういう事?」
 不安げに虎雄の様子を窺う美沙だったが、その緊張した表情に、思わず辺りを見回した。
「人の気配は少しするけど・・虫も動物も・・いて当然なものがなにもいない・・」

 虎雄がそう言った瞬間だった。

− い、嫌あああああああああああああああああああああっ!!

 突然の叫び。

「美沙! お前はここに・・・いや、一緒に来い!!」
「う、うん!」
 一瞬置いていこうと思った虎雄だったが、1人にする方が危険だと思い直し、美沙の手を引いて悲鳴の方へと向かった。

 走った。息が苦しくなるくらい全力で・・・。そして辿り着いた2人が見た物は・・
 無数の赤く透明な・・あの化け物の姿だった。

「出やがったな!!」
「こ、これが!?」
 虎雄の言葉に美沙が引きつった声を上げる。
「ああ、この前見たヤツと同じだ! 姿は違うけど・・」
 その時、美沙が化け物に追われる女生徒達を見つけた。
「虎雄っ、あそこに!」
「くっ、間に合えっ!!」
 今にも化け物に覆い被さられそうな女生徒達。
 だが、間一髪で虎雄が2人を抱きかかえてその場を離れる。
「な、なんとか間に合ったな。大丈夫か?」
 そう言って呼びかけてみるが、女生徒達は気を失っていた。

「虎雄、その子達大丈夫?」
「気を失ってる。怪我はなさそうだけど、とりあえず校舎の方に」
「うん」
 急いで校舎へと向かう美沙達。一歩中に入ると、そこには十数名のシスター達が心配気に集まっていた。

「草刈さん、無事でしたか! よかった・・」
「シスター! 他のみんなは?」
「無事です。今はそれぞれ教室で待機しています。が・・皆、不安がっていますね・・」
「そう・・無事だったんだ・・よかった・・」
 美沙が胸をなで下ろした時、背後から虎雄が声をかけた。

「美沙、この子達早く中へ!」
「あ、う、うん! シスターも手を貸して下さい!!」
 その言葉に美沙の背後を見たシスター達は、虎雄に抱きかかえられた女生徒達を見て血相を変えた。
「えっ? ああっ、彼女たちは!?」
「いいから早く!! 虎雄も、早く中に!!」
「いや、俺はここで奴等が近づくのを食い止める! 美沙は師匠や冴葉さん達に連絡を取って、なんとか応援を呼んでくれ!」
「で、でも・・待っている間に虎雄が・・・」
「俺は大丈夫だ!! だてに九頭竜の訓練続けてないって!」
「でも・・虎雄にもしもの事があったら・・私・・」
 泣きそうになりながら呟く美沙を虎雄はそっと抱き寄せて、力強く抱きしめた。
「虎雄・・」
「絶対に大丈夫だ。せっかく美沙と結ばれたって言うのに、こんな所でくたばってたまるかよ!」
「・・・絶対・・だよ・・」
 虎雄の胸に顔を埋めて必至に涙を堪えていた美沙だったが、やがてそっと手を離してじっと見つめる。
 そしてそのままゆっくり瞳を閉ざすと唇を重ねた。
「約束だからね・・虎雄・・」
「ああ。だから今は・・」
「うん・・」
 名残惜しそうにしながらも美沙は虎雄から離れ、シスター達に振り返った。
「じゃ、シスター。彼女達を保健室に」
「あ、は、はい。では草刈さんも・・」
「・・・私、まだやる事がありますから・・」
「えっ、ちょ、ちょっと草刈さん!?」
 慌てて呼び止めるシスターの声も届かぬまま、美沙はその場を駆け出し、やがてシスター達の姿が見えなくなると、鷲士へと電話をかける。
『はい、草刈・・』
「鷲士くん! お願い、助けて!! このままじゃ虎雄が・・虎雄がっ!!」
 まるで叫ぶような涙混じりの美沙の声が、電話の向こうへと響き渡った。

 そしてその頃、虎雄は・・

「くっ、近づいて来やがった・・」
 
− 助けて・・痛い・・痛いよ・・・
− 苦しい・・おねがい・・助け・・て・・
− だれか・・・助けて・・・もう・・嫌・・・ぁ・・

 呻き声が、啜り泣きが、周りを取り囲んでくる。
 目の前で蠢く物体は、女性の姿になっては呻き、そしてまたドロドロと崩れ去る。
 やがて虎雄の周りは10数体もの女性の姿をした正体不明の物体に取り囲まれていた。

「くそ・・どうやって倒す・・?」

 だがその瞬間、虎雄の脳裏にこの前の美沙の言葉が過ぎった。

『・・・取り込まれた女性を自分の分身として彼方此方に放っているんじゃないかと思う・・』

「だとしたら、もしこの目の前のを倒しても、本体を倒さないと意味がないって事じゃ・・」

 攻撃に出るのを悩む虎雄。だが、次の瞬間、目の前の物体が一斉に襲いかかってきた。

「くっ・・俺は・・俺は・・っ!!」
 そして、一体の攻撃が虎雄に当たりそうになった瞬間。
「俺は・・美沙を、守るんだぁぁぁぁぁぁっ!!」

− ぎゃあああああああああああああああああっ!!

 激しい絶叫と共に目の前まで近づいていた化け物が、一瞬で引き裂かれる。

「九頭・左竜閃刀。とことん師匠と訓練してたから助かったな・・」
 そう言いながら次々と化け物達を切り裂いていく虎雄。
 激しい絶叫に気が狂いそうになるが、その度に美沙を守るという思いだけで戦い続けた。
 だが・・

「ば、馬鹿なっ!!」
 思わず目を見張る虎雄。
 それも当然だろう。倒したと思ったばかりの化け物が、次々に再生して起きあがってきたのだから。

「不死身か・・こいつら!?」
 後退る虎雄にじわりじわりとその間を詰めてくる化け物達。
「くそっ、それなら・・これでどうだ!!」
 叫びと共に、体内を駆けめぐる微細な電流を一気に集めて解き放つ。
 九頭・左竜雷掌。その強烈な電撃に化け物達が一斉に距離を開けた。

「こいつなら・・どうだ・・?」

 どうやら若干の効果はあったらしく化け物達はしばらく動きを止めていたが、やがて再び立ち上がり迫ってきた。
「これでもダメなのか!? くそっ!!」
 その時、不意に踵に当たるものが。
 見ると、いつの間に下がったのか、すぐ後ろに校舎の入り口があった。
「このままじゃ、校舎の中にこいつらが・・もし入られたら・・」
 脳裏に、美沙の言葉が浮かんでくる。

『取り込まれた女性を自分の分身として・・』

「もし、美沙がこいつらに取り込まれたら・・美沙までこんな姿に・・」
 そう思った瞬間、意識の深いところでなにかのスイッチが入った。
「そんな事・・絶対にさせるかぁぁぁぁっ!!」

 爆発・・そう言える程の凄まじい気の高まり。
 その衝撃に、近づいていた化け物達は一気に校庭の中程まで吹き飛ばされる。

「絶対にここから先には進ませない!! 美沙は・・俺が守る!!」

 虎雄の咆吼がカト女中に響き渡った。







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