DADDY FACE SS 『不死咎人(3)』
by Sin



 権堂が脱走して姿を消してからすでに一ヶ月。
 捜査は一向に進展しないまま、時間だけが虚しく過ぎ去っていく・・
 そして、それに平行するように新たな事件が繰り返されていた。

『現在、17人の女性が行方不明となっています。どの現場にも女性が身につけていたと思われる衣服が散乱しており、婦女暴行後の誘拐を視野に入れた捜査が行われております。また、行方不明になっている女性4名の交際相手であった男性4名の白骨化した遺体が、それぞれの散乱した衣服の側にあった事から、猟奇事件としても捜査を進めていく方針です。では、次のニュース・・逃亡中の死刑囚、権堂 鬼丙の行方は依然不明のまま1ヶ月を迎えてしまいました。市民の間では当局の捜査不足を叫ぶ声や、不安の声が高まっています。現在・・』

「まだ捕まってないんだね、あの脱走犯」
 ニュースを見ていた美貴の言葉に、美沙は大きな溜息をついた。
「そーなのよ・・FTIのスタッフにも協力依頼があったから草薙まで使って探してるんだけどね〜。一体どこに消えたんだか・・」
 頬杖を付いてまた溜息。
「また事件起こさなければ良いんだけど・・ひょっとして、さっきのニュースの犯人ってあいつなのかも・・」
「女性の誘拐は可能性あるけど、男性が白骨化していたのも関係あるのかな?」
「普通の人間には無理よね・・もしそんな化け物だったら、前に鷲士くんが捕まえた時にもっと大変な事になってただろうし・・」
 考え込む美沙達に、突然、「その件なのですが・・」と声がかかった。

「うわっ、な、なに?」
「さっ、冴葉!? なんで・・っていうか、どうやって入ったの!?」
「火急の事でしたので、断り無く入らせて頂きました。どうやったかは・・フフ・・ヒミツ・・です」
 怪しげな微笑みを浮かべてそう言う冴葉に汗ジトの美沙と美貴。

「そ、それで、急ぎの用ってなに?」
 なんとか立ち直った美沙が聞くと、冴葉は一瞬にして表情を引き締めた。
「それなのですが・・権堂の行方を捜索していく内に、おかしな事が分かったのです」
「おかしな事?」
「はい。権堂は拘置所を逃亡した後、一台のワゴン車を強奪し、富士樹海方面へ逃走しています」
「じゃあ、樹海に逃げ込んだって事?」
「おそらく。当該車両が樹海内に放置されたいたことから考えても、間違いはないかと」
「んじゃ、すぐに樹海を・・って、わかってるならもうとっくに捕まえてるよね・・んで、なにがあったわけ?」
 興味深そうに覗き込んでくる美沙にいつもなら即答する冴葉が言葉を濁らせる。
「どったの?」
「・・・権堂が潜伏していたと思われる場所は、すぐに発見されました。ですが、その周囲一体には一切の動植物の存在が無くなっていたのです」
「・・どういう事?」
「これを・・」
 そう言って差し出してきたのは、樹海を移した衛星写真だった。
「・・なに、これ・・樹海の半分くらいが消えてる・・」
「冴葉さん、これって一体・・?」
「それは、現時刻から5時間前に写された樹海の写真です。ここ、消えた樹海の最深部を拡大したものがこれです」
 更にもう一枚の写真を差し出す冴葉。
 そこに写し出された物に2人は絶句した。

「冴葉・・これって・・」
「はい、最近連続して起こっている白骨化した遺体と同種の物です」
「この周りにも・・」
「ええ、同様に女性の服が散らばっていたとの報告が入っています」
「身元は?」
「白骨化していた男性の名前は飯崎 洋平。大学生です。3週間程前、恋人の春日 沙和子さんと一緒に樹海へハイキングに行くという話を友人にしていたとの事なので、おそらく周囲の衣服の持ち主はその女性かと思われます」
「3週間前って言うと・・この事件が始まった頃よね? ひょっとして・・」
「はい。事件が起こった道筋を辿っていくと、この場所を起点としている事が判明しました」
 冴葉の言葉にしばらく考え込んでいた美沙だったが、ある事に思い当たって顔色を変えた。

「冴葉・・ひょっとして、権堂の仕業だって言うの?」
「可能性は極めて高いと思われます」
「で、でも、樹海をこんなにしちゃうなんて、人間業じゃないよ・・それに男の人が白骨化してるって言うのだって・・」
「現在は想像の域を出ないのですが・・権堂はこの樹海最深部で何らかの力を得た、もしくはその場にいたなにかを目覚めさせてしまった・・そう考えるのが妥当かと」
 淡々と答えてはいるが、冴葉の顔色も青くなっている。

「それともうひとつ・・」
「え?」
「事件の起こっている道筋を辿っていくと、ある一点を目指していると思われる節があります」
「ある一点?」
「・・・ボスの通っている、カトレア女学院です」
「なっ・・・」
 絶句する美沙。冷たい汗が背中を流れ落ちていく。

「これが私がこの事件の犯人を権堂と考える一番の理由です。彼はこのカト女に忍び込み、事件を起こそうとしたところを鷲士さんによって妨害され、逮捕されています。この事件の犯人が権堂であるとすれば、その目的地がカト女である理由としても納得できるのではないかと・・・」
「・・・洒落に・・なんないね・・」
「はい。もしこれが権堂の犯行とすれば、ボスが狙われる可能性も大いにあり得ます」
「あ・・・」
「ですから、これからしばらくの間はボディーガードとして、虎雄さんに常にボスの側に付いていて貰う事にします」
「と、虎雄にっ!?」
 思わず声が裏返ってしまう美沙。
 その様子に緊張した面持ちで聞いていた美貴は思わず吹き出した。
「な、なによぉ、美貴ちゃん・・」
「な〜んでも。ふふ・・美沙ってば可愛い・・」
 そう言ってぎゅ〜っと抱きしめてくる美貴に美沙は「ちょ、ちょっと美貴ちゃんっ!」とジタバタ。
 
 状況を忘れたかのような母子のスキンシップは苦笑する冴葉を横目に、延々と続けられるのだった。

 そしてちょうどその頃・・・

 いつもの修行を終え、帰り道を急ぐ鷲士と虎雄。
「虎雄くん、だいぶ動きが良くなってきたね。右竜なら、合格点だよ」
「ほんとですか、師匠!」
 鷲士の言葉に嬉しげな虎雄だったが、鷲士も師としての威厳がついてきたのか、誉めるばかりではなかった。
「うん。でも、左竜の方ももうちょっと頑張らないとね。輪頸はかなり良くなったけど、雷掌や閃刀だと、気の練り方がまだまだ甘いから」
「あ・・・う・・・苦手なんですよね・・」
「まあ、1つ1つ段階を踏んで覚えていけばいいから。でも、九頭竜の基本は気を練る事からだからね。普段から無意識に気を練っていられるようになるようにしないと、本領を発揮するのは難しいよ」
「はい」

 その時、街灯の少ない路地を歩く2人の耳に、微かだが悲鳴のような物が届いた。

「師匠、今のは!?」
「悲鳴・・? 虎雄くん、急ぐよ!」
「はいっ!」

 途切れ途切れに聞こえてくる悲鳴。その声を頼りに駆けつけた鷲士達が見た物は・・・
 必死な形相で逃げまどう少女と、それを追う赤いゲル状の物体だった。

 ・・たす・・け・・て・・・お・・ねが・・い・・・

「い、いやっ、こ、来ないで!!」

 ・・・おね・・がい・・・くるしい・・の・・・たすけ・・て・・・

「ひ、ひぃっ!!」

 足に触れられて悲鳴を上げた少女を、危ういところで鷲士が抱えて飛び退く。
「ひゃあぁぁぁぁぁっっ!!」
「お、落ち着いて! もう大丈夫だからっ!!」
 抱きかかえられたまま鷲士にそう言われた少女は目を瞬かせて呆然としていたが、やがて安心したのか鷲士に縋り付いて泣き出した。

「師匠、あれは一体・・」
 駆け寄ってきた虎雄の言葉に、鷲士もそちらに目をやる。
 そこには赤いゲル状の物体が全裸の少女の姿でふらふらと立っていた。

 ・・・たすけ・・て・・・・

 ゆらりゆらりとそう呟きながら迫ってくるその物体に、鷲士に抱かれた少女は悲鳴を上げた。

「一体何なんだ・・これは・・」
 その時、その赤いゲル状の物体の横を野良犬が通りすぎようとした。

「あ、危ない!」
 虎雄が慌てて駆け寄ろうとしたが、その瞬間、赤い物体はドロリと崩れ落ちるように溶けて野良犬に降り注ぐ。

「ギャン! ギャワンッ!!」

 まるで悲鳴のような犬の鳴き声が響き・・やがて赤い物体が地面に染み込むように消えると、そこには白骨化した犬の死体が転がっていた。
 その様子に少女は完全に気を失い、虎雄もその場にへたり込む。
 唯一、鷲士はその様子をじっと見つめていたが、それでも身体の震えを押さえる事はできなかった。

「なんなんだよ・・これ・・・」
 震える唇で虎雄が呟く。

「いったいなんなんだよーーっ!!」

 白骨化した犬の死体を悔しげに握りしめ、虎雄の叫びが夜の闇の中に響き渡った・・・






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