DADDY FACE SS 『不死咎人(1)』
by Sin



「ふわぁ・・鷲士くん、美貴ちゃん、おはよ〜」
 寝ぼけ顔で、大きな欠伸をする美沙。
「おはよう、美沙ちゃん」
「おはよ。ずいぶん眠そうね、美沙」
 朝食の支度をしながら、鷲士と美貴が挨拶を返す。
 去年、ようやく本当の事を告白した美貴と鷲士は今年、結婚したばかり。
 今では当たり前になったこの風景だが、こうなるまでにどれだけ苦労した事だろうか。(特に鷲士が)
 結婚後、美沙は草刈と名を変え、樫緒だけは結城のまま留まった。
 現在は鷲士、美貴、美沙の3人暮らしだが、近々、もう1人増える事になるだろう。
 そう思えるほど、夫婦仲はとても良い。良すぎるほどに。

 眠そうに目をこすりながら食卓に着いた美沙は、ふとテレビから聞こえてくるニュースに目をやった。

『・・・本日、多数の婦女暴行殺人の罪により終身刑が言い渡されていた権堂被告の上告が棄却されました』

「ふーん、やっと決まったんだ・・ずいぶん時間かかったよね。この事件」
「この犯人って、カト女に忍び込んできたところを、しゅーくんが捕まえたんだよね。あの後、冴葉さんにその時のビデオ見せて貰ったけど、しゅーくん、かっこよかったよ〜」
 そう言って微笑む美貴に、鷲士は照れくさそうに苦笑する。

「こんなに時間がかかるなら、こっちの方で、さっさと片づけちゃった方が良かったかなぁ・・」
「こらこら、美沙ちゃん。法律をねじ曲げちゃダメだって」
 美沙の言葉に苦笑して言った鷲士。

 その時、不意に美沙の携帯が鳴り始めた。
「あ・・」
「どうしたの、美沙?」
 急に赤くなった美沙の様子に美貴が聞くが、美沙は「なんでもない。ちょっとごめん」と言って席を立った。

 慌てて部屋を出て行った美沙の姿が見えなくなると同時に、美貴はくすくす笑い出す。
「美沙ちゃん、急にどうしたんだろう?」
「あ・・え〜っと・・ね。今の着信音、虎雄くんからなのよ」
「えっ・・そうなんだ・・」
 ちょっと複雑な思いの鷲士。
 鷲士にとって一番弟子であり、同時に弟のような存在だった少年は、いつしか大きく成長し、今では愛娘との付き合いも深まっている様子。
 だが鷲士は知らない。すでに虎雄と美沙が、男と女の関係になっている事を。
 そしてこのしばらく後に、とんでもない出来事が待っていることを・・

 その頃、部屋を出た美沙は自室に戻ると、ようやく電話に出た。
「虎雄?」
『あ、やっと出た。何してたんだ?』
「鷲士くん達側にいたから・・それで、どうしたの?」
『どうしたの・・って・・・今日、一緒に出かける約束だろ?』
「そうだけど・・まだ時間には早いんじゃない?」
 そう言って時計を見る。
 時間は朝の8時半。待ち合わせは10時のはずだったから、これから用意すれば間に合う・・そう思っていたのだが・・
『8時までには来いって言ったの、誰だよ・・』
 溜息混じりに言われて、美沙は「あ、あはは・・」と笑うしかなかった。
 そう言えばそんなことも言ったな〜などと思いながら。

『家まで迎えに行った方が良いか?』
「う〜ん、今から用意するから・・」
 考え込む美沙に、電話の向こうで虎雄は溜息。
『じゃあ、少し時間潰して、そっち迎えに行くから』
「あ、う、うん・・ごめん・・」
『んじゃ、またあとでな』
「うん」
 そう言って電話を切った美沙は、今までと違う感覚に戸惑っていた。

 なにかが違う。あの日から・・

 以前は、いつも私の方から動き、それに虎雄がくっついてくる。そんな毎日・・・。
 でも・・あの日以来、虎雄は今まで以上に男らしくなって・・私をいつもリードしてくれるようになった。
 それは・・私が虎雄という存在を男性として見て・・そして彼の力強さや温もりを知ってしまったからかも知れない。

 そんなことを思い、美沙は顔を赤らめた。

「美沙〜、時間いいの〜?」
 その声に、急に現実に引き戻された美沙は、時計を見ると更に慌てて服を選び始めた。

 結局、それから1時間後。ちょうど用意が終わるのと同時に迎えに来た虎雄と共に美沙は街へと繰り出した。

「結構冷えるなぁ・・美沙、寒くないか?」
「うん・・・ちょっと寒いかも・・結構厚着してきたんだけどね・・」
 そう答えた美沙に、「そっか・・じゃあ、これ巻いとけよ。暖かいから」そう言って虎雄は自分の巻いていたマフラーを美沙に巻き付ける。
「え・・っ、でも・・虎雄が・・」
「いいから。たまには俺だってかっこつけさせてくれよ」
 照れくさそうに笑いながら言った虎雄の笑顔に頬を赤らめながら、美沙は「ありがと・・」と小さく呟いた。

「もうすぐ・・今年も終わりだね・・」
「そうだな・・」
 そんなことを話しながら、正月準備に追われる街の様子を見回す2人は、そっと寄り添ってウインドウショッピングを楽しんでいた・・・。

 だが・・2人は気付いていなかった・・

 2人の頭上、ビルに取り付けられた電光掲示板。そこに・・あの恐怖のはじまりが記されていたことを・・

 そこには、こう記されていた・・

 “『権堂 鬼丙』死刑囚が脱獄”







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