斬魔大聖デモンベイン SS 『白き衣の天使』
by Sin
第3話
扉を開け、一気に中に飛び込む。
襲ってくる妖魔を警戒してすぐに構えたが……
「……あれ?」
おかしい。
暴走の中心ともなれば、妖魔が無限に溢れていてもおかしくないはずなのに……
「く、九郎……あれを……見ろ!」
「ん……? こ、これはっ!?」
「大十字さん……? 何が……ありましたの?」
驚きに動く事もできない俺に姫さんが問いかけてくる。
「見なよ、姫さん……アンタの親父さん……スゲェ人だったんだな……」
「え……っ?」
不思議そうに俺の横から覗き見る姫さん。
そして次の瞬間、目を見開いて叫んだ。
「お、お父様ぁっ!!」
そう。
そこにいたのは……いや、あったのは……
生前の面影をはっきりと残したままミイラ化した姫さんの親父さんの姿だった。
「見よ、九郎。あれはバルザイの偃月刀だ」
言われて気付いたが、確かに親父さんが手にしているのはバルザイの偃月刀だ。
彼が魔術に通じていたかは定かではないけど、それを手に暴走する魔導機器を結界で封じ込め、被害を最小限に抑えていたんだろう。
親父さんの背後には、その立ったままミイラ化した親父さんを支えている女性の姿もあった。
「姫さん……あっちの人が……」
「――っ……お母様……っ…」
「ずっと…守り続けてくれていたんだ……親父さんも、お袋さんも…」
「……ずっと……ずっと待っていて下さったのですね……お父様…お母様……っ……」
両親の身体に縋り付いて泣きじゃくる姫さん。
永い年月を越えてようやく親子の再会が叶ったんだ。
「九郎、この魔導機器……もはや再暴走寸前だったようだな」
「ああ。今の内にぶっ壊して被害を食い止めないと……ここまでたった二人でずっと護り続けてくれた姫さんの両親の意志を受け継ぐ為に」
俺達がそう言って『召還剣デモンベイン』を構えたその時だ。
突然辺りが揺れ始め、壁に亀裂が走る。
「………なんだ……この揺れは……まさか!?」
その瞬間、目の前にあった魔導機器の形が一気に崩れ、巨大な妖魔となって膨れ上がってきた。
このままじゃ、全員生き埋めにされちまう!!
「執事さん、姫さんと親父さん達を護っていてくれ! 今から脱出する!!」
「わ、判りました、しかし、一体どうやって!?」
「こうするのさ! やるぞ、アル、リル!」
「うむ!」
「うんっ♪」
両肩の二人に呼びかけて頷きあうと俺は『召還剣デモンベイン』を天に掲げる。
そして……
「憎悪の空より来たりて!」
「「正しき怒りを胸に!」」
「「「我等は魔を断つ剣を取る! 汝、無垢なる刃、デモンベイン!!」」」
言霊と共に展開される魔法陣。
そして剣は粒子なって魔法陣の中へと消え…
地響きと共に、その巨大なる勇姿を現した。
俺達の身体も光となってデモンベインの中へ。
慣れ親しんだコクピットに落ち着くと、俺はデモンベインの手を伸ばして姫さん達をすくい上げる。
「ここから脱出するぞ! クトゥグァ!!」
デモンベインの片手に召還する回転式拳銃クトゥグァ。
その銃口を天井に向け、連続発射。
分厚い地上までの岩盤を一気にぶち抜いて、赤く染まった空が見えたのを確認し、クトゥグァを戻す。
「断鎖術式解放! 壱号ティマイオス! 弐号クリティアス!!」
デモンベインの手で姫さん達を潰してしまわないように慎重に包み込むと、俺は脚部シールドの力場を爆発させた。
この狭さではシャンタクは使えない。
だからシールドの爆発力で一気に跳躍する。
そして地上に飛び出してみると…
「な………っ!?」
「なんだと!?」
俺、そしてアルも絶句。
さっきの妖魔……
この僅かな間に、100メートル近い大きさまで成長してやがる…!!
「姫さん達は安全なところに避難していてくれ!! こいつは俺達が倒す!!」
そう言って姫さん達を物陰に降ろすと、俺は妖魔へと向かい合った。
「九郎、彼奴は暴走した魔術の圧縮体だ。倒すとなれば、生半可な力では歯が立たぬぞ!」
「って事は、必滅の術式で一気に決めてやれって事だな!!」
「そう言う事だ!! ……だからといって、シャイニング・トラペゾヘドロンを使おうなどと思うでないぞ! そんな事をすれば、また異次元に飛ばされかねないからな!!」
「そりゃそうだ……あれは二度とごめんだからなぁ……」
「当然だ。では、やるぞ、九郎! リルもあと少しだ。頑張るのだぞ」
「うんっ、リル頑張る〜♪ えいえいお〜♪」
そんなリルの様子に苦笑しながら、俺は妖魔へと右手を翳す。
「メチャクチャ馬鹿でかい奴だけど……一撃で決めてやる!!」
俺達の魔力がデモンベインで増幅され、更に巨大な物へと膨れ上がる。
「アル、ヒラニプラシステムアクセス!!」
「ナアカルコード承認! 術式解凍!!」
「いつでもいけるよ、パパ!!」
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」
天に翳した両の剣指を左右に開いて魔法陣を描き出す。
「光差す世界に汝等暗黒住まう場所無し! 乾かず、飢えず、無に帰れ!!」
脚部シールドの出力を全開にして妖魔へと突撃。
相手の攻撃も全て弾き返しながらその右手を突きつける。
「レムリアァァッ! インパクトォォォォォォォォォッ!!」
掌に宿した術式が妖魔の身体へと叩き込まれ、その全体へと広がっていく。
そして……
「「昇華!!」」
アルとリルの言霊が重なった瞬間、妖魔は一点から一気に光へと変わっていく。
その全てが光となった瞬間、凄まじい魔力の高まりと共に、妖魔が爆散する。
「拙い! 防御陣を……っ」
俺達が知覚するよりも早く、その衝撃はやってきた。
「ぐあああああああああああああああああっ!!」
「「きゃあああああああああああああああああああっ!!」」
衝撃に吹き飛ばされるデモンベイン。
あの幾重にも張られた結界をぶち抜いて、爆散するとは思っていなかった俺達は、まともにその衝撃を受けてしまった。
そして……
どれだけ気を失っていたのだろうか。
ふと、誰かに呼ばれたような気がして目を開ける。
『………字さん! 大……さん!!』
ノイズ混じりに聞こえてくるその声は……
「姫……さん?」
俺が認識するのと同時に、モニターが回復した。
そして目の前には……
「どわああああああああああああああっ!?」
胸の谷間まではっきり判るくらいアップになった姫さんの顔が目の前に現れて、俺は思わず叫んだ。
「にゃあっ!? な、何事ッ!?」
俺の声にびっくりしたのか、アルとリルが一斉に飛び起きる。
あ〜あ、リルの奴、びっくりしすぎて涙目になってるよ……
『大十字さん! 大十字さんっ!! 無事なのですか!? 返事をして下さい!! 九郎さんっ!!』
こっちも完全に涙目になって必死に俺を呼んでくれてる。
答えないと悪いな……心配してくれてるんだから。
「姫さん、俺達なら大丈夫だ。ちょっとばかり意識が飛んだけどな」
そう言ってコクピットのハッチを開けると……
「きゃっ!!」
「んどわぁっ!?」
………いきなり姫さんが俺の上に振ってきた。
どうやらちょうどハッチの上に乗っかっていたようで、空いた途端に落ちたみたいだな。
「い、痛たたぁ……」
「姫さん……大丈夫か?」
「えっ? あ、あぁっ、大十字さん、大丈夫ですか!? お怪我は!? ご無事でっ!?」
「あ、あのさ、姫さん……」
「あ……え…えっと…はい?」
「……なんて言うか……その……この格好……ちょっとヤバイ……」
「え?」
俺の言葉に、今どんな状態なのか気付いたのだろう。
顔を真っ赤に染めて俺の上から飛び退いた。
「し、失礼しました……」
「い、いや、その……お粗末様で……」
「なんの挨拶だ、なんの」
照れまくる俺と姫さんに、アルのジト目が突き刺さる。
「ところで……あの妖魔は……?」
「あれっきりです。どうやら本当に最後の最後の反撃だったようですわね」
「そうか……良かった……」
「えっ?」
「姫さんの親父さん達が折角ここまで守り通してくれたのに、俺達がしくじったら全て無駄にしちまうところだったからな。最後にちょっと食らったけど、なんとか無駄にしないですんだから……まあ、いいか」
「大十字さん……」
「姫さんの親父さん達もこうして無事に……って言うか、見つける事が出来たし……一応、これで依頼は完了…って事でいいかい、姫さん?」
俺がそう言うと、姫さんは微笑んで頷く。
「本当に……ありがとうございました、大十字さん……貴方がいなければ、私は両親をゆっくり眠らせてあげる事も出来ず、アーカムシティーもまた、再度の魔術暴走事故でどうなっていた事か……いくら感謝してもしたりません……本当に……ありがとう……」
深々と頭を下げて礼を言う姫さんに、逆に俺の方が恐縮しちまうよ……
「大十字さん、今回は……報酬をお支払いするだけでは私の気が済みません。どんな事でも構いません。私に出来る事があったら仰って下さい。覇道財閥の総力を挙げてでも応えさせて頂きますわ」
「なんでもいいのか?」
「はい、どうぞ仰って下さいな」
「じゃあ……姫さん、ちょっと耳を……」
「はい?」
不思議そうな表情で、それでも俺に耳を貸す姫さんに、俺はそっと耳打ちする。
「それで……よろしいんですの? もっと……」
「いや、それで十分。ってゆーか……今の俺の望みって……それなんだよ」
照れくさくなって頬を掻きながらそう言うと、姫さんはクスッと笑って頷いた。
「判りました、大十字さん。では、こちらの支度ができ次第、連絡しますわ」
「ん、了解。じゃあ、とりあえず姫さん達を屋敷まで送って、後は帰るとするか。アル、リル」
「うんっ♪」
「それは構わぬが……一体、小娘に何を頼んだのだ、九郎?」
「秘密だ。その時が来ればわかるよ」
「うぬぬ〜妻である妾に内緒事だと〜〜〜〜〜っ」
「お前が絶対に喜ぶ事だから、楽しみに待ってな」
「……うぅぅ…どうしても内緒なのか……?」
「お前を驚かせたいからな。まあ、長い事じゃないからのんびり待ってな」
「………いくら聞いても無駄なようだな……ふぅ…仕方あるまい…とりあえず、待つとしよう……」
「じゃあ帰ろう。デモンベイン、もう一仕事、頼むぞ!」
俺の声に答えるようにデモンベインの機器が唸りを上げる。
背にシャンタクが展開し、近くにいた執事さんや姫さんの両親もまとめてすくい上げると、デモンベインは大空へと舞い上がった。
夕日を浴び、雄々しき姿を人々の目に焼き付けながら飛翔する。
コクピットの中、今一納得のいかない様子のアルに苦笑しながら、俺達は0番区を後にした……
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