斬魔大聖デモンベイン SS
『力の意味』
by Sin


第10話
 邪神の脅威を退けた俺達だったが、それは完全勝利というには程遠く、デモンベインの受けたダメージもかなり酷い。
 彼方此方が紫電を散らす中で、傷ついた俺を休ませながらアルが魔術を行使した。

『王冠、叡智、理解、慈悲、苛烈、美、勝利、栄光、基盤、王国……巡れ巡れ、命の樹を巡れ』

 その呼吸に応じてデモンベインの全身に魔力が行き渡り、破損部分を修復していく。

「パパ……大丈夫?」
 心配げに見つめてくるリルの頭を優しく撫でながら、俺はゆっくりと身体を起こして頷いた。
「ああ、心配ない。ちょっと血が流れすぎただけだからな」
「うつけ! それは大丈夫とは言わぬわ!!」
 魔術を行使しながらアルが睨みつけてくるが、
「お前の一撃が一番きつかったんだが?」
「〜〜〜〜♪」
 苦笑混じりに言った俺の言葉に視線を逸らして鼻歌で誤魔化した。

 それからしばらくの時が過ぎ……

「ふむ、これで大丈夫であろう。九郎、デモンベインの修復完了だ」
「ん、了解。んじゃあ帰るとするか。凍てつく荒野より飛び立つ翼を我に……シャンタク!!」

 俺の魔力に応えて、シャンタクが輝きを放ちながら爆発的な魔力を放出する。

「それにしても……とりあえずなんとかなったな」
「うむ。しかし一時はどうなる事かと思ったぞ、まさかこんな街中に、ガタノトーアのような強大な邪神を召還するなど、正気の沙汰とは思えん……一歩間違えればアーカムシティーはおろか、この国、いや、この星そのものが消えてなくなっていた所だ」
「それを判っていたのか、それともクラウディウスにも予想外の事だったのか……」
「彼奴も逃げてしもうたからの…ただ、少なくとも彼奴が単独で考えた事ではないようではあったがな」
 そう言うと厳しい視線で虚空を見つめるアル。

「……神父…だな?」
 俺の言葉に頷くアルと視線を交わしながら、あの時クラウディウスが言った言葉を思い出していた。

「ああ、彼奴の言っておった神父と言う呼び名。汝はどう考える?」
「さてな……まあ、あいつらが真っ当な神様を信仰するとは思えんし、邪教の神父……邪神を崇めるもの……最悪、邪神そのものって事も……」
 その時、俺の脳裏を過ぎる嫌な予感。
 一瞬過ぎったその影は、炎の如き三つの眼と全てを嘲笑うかのように裂け広がった口を持った邪神……
「真逆とは……思うけど……な……」
 おそらくアルも同じ事を思っているんだろう。
 真剣に考え込む俺達。
 と、その時だ。

 きゅるるるるるる〜〜〜〜と、なんとも間の抜けた音が。

「「へ?」」
「え、えへへへ……はふぅ……リル、お腹減っちゃった〜〜」
 きゅう〜と言った感じで突っ伏したリルの姿には思わず吹き出す俺達。

「ふふ、そうだな、我等も流石に疲れた。普段ならば覇道の邸で好きなだけ食らう所だが、今の現状を鑑みればそうも行くまい。適当にどこかで食うて帰るとしよう」
「「賛成〜〜〜〜っ♪」」
 アルの言葉に俺とリルがそう返したその時だった。

「っ!?」
 不意に感じるとてつもなく嫌な感じ。
「九郎?」
「パパ?」
 辺りの様子を伺う俺に不思議そうな視線で見つめてくる二人。

「何だ………?」
 まるで警鐘のように繰り返されるその予感が俺の気持ちを焦らせる。
「――っ!? なんだか判らんが……急ぐぞ!!」

 嫌な予感の発生源は……目の前に見える地球……いや、ついさっきまで俺達がいたあの場所。
「何が……何があるって言うんだ……?」
 気持ちばかりが焦る俺の様子を不思議そうに見つめるアルとリル。
 そうしてようやくアーカムシティ上空、高度数万メートルに達した所で、俺達はその異常に気付く事になった。

「パパ! 召還陣が!!」
「―――っ!?」
「真逆っ!!」

 遥かに下方。
 数万メートル下に有った召還陣。
 通常なら、召還されたものが滅びたなら召還陣も消え去るはず。
 だけど、あの召還陣は消えないまま、魔力が暴走直前になっていた。

「トラップか!?」
「彼奴め!! なんという厄介な代物を!! 急げ九郎! 食い止めねば、アーカムシティーは確実に消し飛ぶぞ!!」
「ちぃぃぃっ!! デモンベイン!!」
 俺の声に応えて、急降下で召還陣へと飛行するデモンベイン。
 見る見る内に地上が近づいてくるが、このままの勢いで地上に降りたら、その衝撃で覇道邸一帯は間違いなく吹き飛んでしまうだろう。
「九郎! このままでは!?」
「判ってる! この勢いのまま、デモンベインを送還してマギウスウイングで降下する! リル! アルにしっかりしがみついてるんだ!!」
「うんっ!」
「妾達は大丈夫だ! やれ、九郎!」
「応よ! 悪ぃなデモンベイン! 一気に送還するぞ! 魔法陣展開! 機神送還!!」
 急降下で地面へと飛翔するデモンベインの前に展開される魔法陣。
 そこを通り過ぎた瞬間、俺達の身体は空中に放り出された。
 音と空気の壁が俺達に襲い掛かろうとするが、その尽くを結界でブチ破る。

「九郎!」
「マギウス・ウイング!!」
 大きく広がる二対四枚の翼。
 これまでのデュアル・マギウスのウイングよりも遥かに大きなその翼をはためかせて、俺はアルの手を取り、更に急降下していく。その速度は音速など遥かに超えていたが、それよりも眼下の召還陣の暴走の方が早い。

「拙い! このままでは間に合わぬ!!」
「ちぃぃぃっ! もっと早く! もっと早くだ!!」
「お願い! 間に合ってぇぇぇっ!!」
 全力で召還陣へと向かう俺達。
 既にその速度は亜光速にまで達しようかとしていたが、それでも暴走を食い止められるかどうか判らない。
「アル! リル! 結界を!!」
「無茶だ、九郎! いくらなんでも即席であれ程の暴威を食い止められる結界を展開するのは不可能だ!」
「俺に考えがある! いいからやってくれ!」
「むぅ……どうなっても知らぬぞ!」
 迷うアルの声と同時に召還陣の周りに張り巡らされる呪法結界。
 リルの力も借りて幾重にも重ねられた堅固なものではあるが、召還陣の暴走を食い止めるには些か役不足だ。
 だが、それは『食い止めるには』の話。

「アル、空に向かう方向だけ、結界に穴を開けられるか?」
「それは出来るが……っ!? そうか! そう言う事か!!」
「食い止められないってんなら、力の方向を決めてやりゃあ良い筈だよな!」
「なるほど、流石は九郎! 委細承知!!」
 そう言うと同時に結界の上部に展開する五芒星形の紋章。
 その中央部分に穴が開くのと、召還陣が暴走するのがほぼ同時だった。

 炸裂する閃光。
 溢れ出す暴威。
 その全てが結界に阻まれ、唯一の抜け道である上空へと向かって猛烈な勢いで吹き上がっていく。
 あまりの威力に覇道邸や周囲の建物の窓ガラスが一斉に吹き飛んだ。
 だが、それでもあの破壊力が直撃するよりは遥かに小さな被害でしかない。
 このまま全ての力を空へと吹き上げる事で、全てが治まると思ったその時!

「くっ、九郎!!」
 焦ったアルの声と同時に結界に走る無数の亀裂。
「っ!? ヤバイ! 結界が……っ!!」
「ちぃっ! 留まれぇぇぇっっ!!」
 更に幾重にも結界を張り巡らせるものの、亀裂は更に広がり押さえきれない。
 俺とリルも一緒に更に結界を展開。
 それでも結界の崩壊は止まらない。
 少しずつ溢れ始めた力が辺りの建物を破壊していく。
 そして……

「拙い!!」
 溢れ出す閃光。
 それが向かう先は、覇道邸!
「させるかぁぁぁぁぁぁっ!!」
 無詠唱で連続して放つクトゥグァとイタクァで相殺しようとしたが、あまりにエネルギー総量が違いすぎる。
「姫さんっ! みんな! 逃げてくれぇぇぇぇっ!!」
 直撃する……誰もがそう思ったその瞬間……

「あれは……っ!?」

 思わず目を疑った。
 覇道邸に迫る膨大な力の前に、一振りの剣だけを持って立ちはだかる隼人。

「「隼人!?」」
「お兄ちゃん!?」

 そして……

『奥義・沙羅双樹!!』

 目の前に現れる膨大な閃光に、俺達は思わず目を閉ざす。
 
 やがて光が収まった先にあったのは、僅かに崩れてはいるものの形を留めている覇道邸と完全に魔力を失い消滅しかけている魔法陣。そして……

 砕けた剣を手に倒れた隼人の姿………


「――――――――――――っ!!」

 それは誰が上げた声だっただろう。

 俺達が魔法陣の完全消滅を確認して地上に降りた時、隼人の周りには姫さん達やクトゥグァ、イタクァも集まっていた。
「隼人! しっかりしろ!! アル! 早く治療を!!」
「とうにやっておる!! だが、一体彼奴は何をしたのだ!? 生命力と魔力が殆ど残っておらぬぞ!?」
「ウィンフィールド! 医療班を早く!!」
「既に手配済みですが、屋敷のこの状態ではすぐには……」
「クトゥグァ、イタクァ、お前達は……」
「すまぬ、父上……もはや我等も魔力が枯渇しているのだ……」
「彼の治療に回せるだけの力は既に無い」
「くっ……そうか……」

 アルとリルが必死に魔力治療を施してはいるものの、全く回復する兆しを見せない隼人。
 それでもなんとか助けたい。その思いで俺も魔術を行使した瞬間……
 身体からいきなり力が抜けて、倒れてしまう。

「九郎さん!?」
 慌てて姫さんが俺の身体を支えてくれるが……

「な……んだ? 力が……入らない……?」
 完全に力を失って姫さん共々倒れこむ俺。
 クトゥグァとイタクァが側に駆け寄って抱き起こしてくれると、俺を診て溜息をついた。

「……無茶はよせ、父上。限界を遥かに超えた所まで力を使い果たし、最早立つ事も叶わぬほど疲弊しきっているではないか」
「今休まねば……命を落とすぞ……」
 二人の言葉に顔色を変えるアル達。
 だけどアルとリルは隼人の治療を止める訳にはいかず、心配そうにこちらを見つめている。
「如何に父上が常識では計り知れぬ存在であったとしても、これ以上魔術を行使する事は確実に死を招く。ここは母上達に任せて、しばし休め」
「だけど……」
 そう言ってなんとか立ち上がろうとする俺だったが、抱きついてきた姫さんの勢いに押されてその場に倒れこんだ。
「やめてください! これ以上無理をして貴方が命を落としたら、一体誰が喜ぶと言うのですか!!」
「ひ、姫さん……」
「お願いです、九郎さん……貴方が死ぬような事になるなんて……私…耐えられません……」
 ポロポロと涙を零しながら訴えてくる姫さんの姿に気まずくなって視線を逸らすと、その先にいるアルと目が合った。

「九郎、汝は妾が信用できぬと言いたいのか?」
「アル……?」
「小娘の言葉ではないが、汝が命を失って喜ぶような者がここに居る筈も無かろう? 妾を信用できるなら、汝はそこで大人しく小娘と戯れておれば良いのだ」
「戯れっ!?」
 アルの言葉に姫さんは耳まで真っ赤に染める。
 そのまま恐る恐る俺の方へと視線を向けると、恥ずかしそうに呟く。
「……不束者ですが……」

 その瞬間、どこかで何かがピキッと音を立てて歪んだような気がした。
「な、ひ、姫さん!?」
「だっ、だっ、誰が九郎を汝にやるなどと言ったぁぁぁぁっ!? 九郎は妾のパートナーで伴侶で我が生涯ただ一人の夫だ!! 大体、九郎の全てを受け止めるのは汝では荷が重過ぎるわ!! この完全無敵超絶美少女ヒロインたる妾でなければ、九郎の妻も恋人も夜のパートナーすらも務まらぬわ! 大体汝の育ちきったその体躯で九郎のドロドロに歪みきった嗜好を満足させられると思うてか!! 無垢なるこの身体を堪能しきった九郎が、今更ただの女で満足する筈が無かろうて!!」
「俺の根源に関わるような事を衆人環視の前で堂々発言してくれやがりますか、お前は!!」
 胸を張って言い放つアルの言葉に周りからの視線が痛い。
 ……って言うか!!

「アル! 隼人の治療は!?」
「ををぅ!? 忘れておった!!」
「忘れるな!!」

 慌てて治療に戻るアル。
 どうやらリルがそれまで頑張ってくれていたようで、なんとか隼人は今の所無事のようだ。

「ったく……悪ィな、姫さん。アルが変なこ…と……!?」
「……動かないでくださいまし……ね、九郎さん」
「ひ、ひ、ひ、姫さんっ!?」
 突然の事に驚きを隠せない。
 何しろいきなり背後から抱き寄せられて、俺の後頭部が何やら柔らかい物に包まれたのだから。
「こ、小娘!!」
「貴方は彼の治療を!」
「く……うぅぅぅ………九郎に手を出したら……例え汝であってもただでは置かぬからな……!」
 姫さんの言葉にしぶしぶながら治療に専念するアル。
 そんな姿を横目に、姫さんはそのまま俺の身体を抱きしめるように抱え込んだ。

「ゆっくり休んでくださいな、九郎さん。貴方の身体が癒えるまで、ずっとこうしていますから……」
「え……あ……ええと……」
 優しく微笑んでくるその姿に照れくさくなって視線を逸らす。
「こんな時でもなければ…こんな事できる機会も無かったでしょうし……ふふっ、役得ですわ……」
 ポツリと呟いたその言葉でアルの額に怒りマークが浮かんだが、仕方なく治療に集中する。

 それからしばらくの時が過ぎ……

 ようやくの事で覇道財閥医療班が到着し、病院へと搬送される俺達。
 そのまま当然の如く即入院。
 アル達はもとより、姫さん達や連絡を受けて駆けつけてきたライカさん達までずっと俺や隼人の側に付き添ってくれていた。
 そうして1週間後、俺は無事に完治して退院。
 だけど、隼人は未だに意識を取り戻しては居なかった………




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