僕にお月様を見せないで SS 『楓の思い出』
by Sin



今頃・・どうしているかしら・・

あの別れの時から1年・・
あの頃を思い出す度に瞼に浮かぶのは、優しい彼の笑顔・・・
背中にジッパーの付いた羊を思い浮かべて、楓はクスッと笑った。
『好きだったんだろ? 駒犬くんのことを』
− そう・・あの時は『嫌いじゃないけど、好きってわけじゃない』・・なんて
言ったけど・・本当は・・・私・・
あの時、電車の窓ガラスに書いた言葉・・
本当の私の気持ち・・・
でも・・

今更・・よね・・彼にはもう大切な人がいるんだから・・

脳天気なウサギ・・
彼の大切な人・・

ふと思い出して手帳に挟んだ一枚の写真を取り出した。
そこには彼に抱きついてる私と・・脳天気なウサギ・・唐子さん・・
それに、ジッパーの付いた優しい羊・・駒犬くん・・
私と唐子さんに抱きつかれて真っ赤になってる・・・

駒犬くんと唐子さんが開いてくれた私と兄さんのお別れ会の時だったわね・・
 
「楓ちゃん! ちょっとこっち来て!!」
元気一杯の唐子さんが呼ぶので行ってみると、兄さんが駒犬くんのお父さんや漆野
刑事さんと記念写真を撮っていた。

「楓ちゃんも一緒に撮ろっ!」
「えっ・・でも・・」
「いいからいいからっ!」
あまり写真は好きじゃないのだけれど・・・強引な唐子さんに負けて結局、撮る事に
なっちゃったのよね・・
「ほらぁ、銀之介くんも!」
「えっ、ぼ、僕はいいよ・・」
慌てて逃げようとする駒犬くんを唐子さんが無理矢理に引っ張ってきて・・・
「楓ちゃんも銀之介くんが逃げないようにしっかり捕まえといてね〜」
そう言って駒犬くんの腕に抱きついてた・・・

駒犬くん・・ほんとに真っ赤になってたのよね・・

思い出すと笑いがこみ上げてくる。
駒犬くんの照れてるのがおかしくて、私も駒犬くんに抱きついたりして・・

ふと、思い出して唇に触れる。
あの時の感触が思い出されて、頬が熱くなった。
唐子さんにはカウントしては駄目って言われたけど・・やっぱり私にとって
駒犬くんが・・初めての人・・・

あの日、駒犬くんがオオカミ人間である事がみんなにばれそうになって、慌てて2人で
教室に隠れたのよね・・・
確かにあの時は駒犬くんを元に戻す為だったけど・・でも・・・
唇に触れた彼の温もり・・あれは嘘なんかじゃない・・・

そんな事を思いながら写真を見つめていた私は背後から近づいてくる人影に
気づかなかった。
そして・・・

「楓〜っ、なにしてんの?」
いきなり背後から抱きつかれて、私は思わず飛び上がった。
「・・・フィリア・・脅かさないで」
「あれぇ? なぁに、この写真?」
「あっ!」
慌てて隠そうとしたけど、それよりも早くフィリアが写真を奪っていった。
「か、返して!」
「だ〜め。で、この彼との関係は?」
「そ、それは・・・」
思わず顔が熱くなる。
「あーっ、真っ赤になった〜。ってことはぁ、楓の彼氏ぃ〜?」
「ち、ちがっ・・・」
慌てて否定するけど、フィリアは写真を持ってみんなの所へ走っていってしまう。
「フィ、フィリアっ!」
急いで追いかけたのだけど、結局フィリアにはとても追いつかなくて・・・
結局、教室に入った私を待っていたのは、みんなからの質問攻めだった。

そしてその翌日、フィリアやレビィ達が駒犬くん達に今の私の写真を送ろうと
言い出して・・

その時にみんなで撮った写真を封筒に入れながら私は駒犬くんがどんな風に見て
くれるのか、ちょっと楽しみだった。
だから、唐子さんにも送るこの写真とは別に・・駒犬くんに送る分には私一人だけの
写真も一緒に入れておいた。

そして2人に書いた手紙・・
殆ど文面は同じだけど・・駒犬くんに宛てた手紙の最後にはあの時言えなかった言葉を
一緒に添えた。

− いつまでも・・優しい羊のままでいてね。
   駒犬くん、私は・・あなたが好きです・・・





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